トラウマからの回復の流れ

▶トラウマからの回復の流れ

 

身体の中にトラウマがある人は、脅威を遠ざけようとする防衛が働くため、常に警戒態勢でいることが多くなります。トラウマを抱えることにより、日常生活の絶え間ない次の変化に緊張を強め、予測できない事態を恐れて、安心することができません。身体の状態としては、過緊張や凍りつき、虚脱の間で生活しています。トラウマ治療では、目や口、顎、肩などを動かし、繊細な動きに注意を向けていきます。凍りつきや捻じれ、バラバラな身体が正常に戻るときに、その身体の内側から震え、揺れ、熱、痛み、不快感などの生理的変化を起きて、その状態を乗り越えられると、トラウマのエネルギーから解放されます。また、全身に力を入れて、脅威が近づいてくるイメージトレーニングをしながら、その脅威をイメージの中で打ち倒すか、逃走を成功させて、身体が安心していく流れを見ていきます。

 

トラウマ治療では、現在の生きづらくしている症状や苦痛に対して、どんな家族や学校、社会的圧力があって、どんなプロセスで生じたかを見ていきます。対話を通したカウンセリングでは、自分の身に起こったトラウマ体験に向き合っていきます。トラウマについて話しても、感情的にならずに理性的でいられるようにします。身体に焦点を当てたセラピーで重要な点は、身体に刻まれたトラウマを追体験していきます。人がトラウマを追体験するときは、恐怖に息が止まり、声が出せず、目の前が真っ白で、身体が凍りついて動けなくなり、手足をバタバタさせるかもしれません。さらに、人が絶望すると、真っ暗なかで胎児のように丸まって、無力な状態に陥りますが、そこから抜け出して、回復までの道のりを追体験します。恐怖に凍りついて、不動状態に至り、そこから回復していく道のりに恐怖を感じず、好奇心を持ってやり過ごせるようになれば、恐怖症やトラウマ症状が軽減されます。

 

トラウマの恐怖症を克服するには、治療以外の時間も重要になります。基本的に、人間は快・不快原則に縛られた生活をしており、心地良い時は、自分の身体を見てゆっくり見ていくのが良いでしょう。一方、不快な時は、自分の身体を見て、その身体の感覚や感情と仲良くなっていけるように練習します。不快な時の体と仲良くなれれば、予測できない事態にも耐えれるようになり、不確実な世界のなかでゆったり構えることができます。▶日常生活のトラウマケアのページ

 

トラウマ治療というのは、神経の働きを変えていくアプローチを取り、闘争・逃走・凍りつき、虚脱する神経よりも、社会的交流を司る神経の働きを強くして、心身の健康を高めます。人の心は、様々な神経ネットワークによって成立していて、神経を変えていくアプローチでは、交感神経系と背側迷走神経系を拮抗させて、そこで闘争・逃走を成功させることで、安心に満ちた腹側迷走神経を活性化させます。人間の進化の過程において育まれた神経の働きを全て体験しつくすことで、統合的な自己を作り出します。

 

しかし、長年に渡って、人間関係に苦しんできた人は、人間そのものが受け入れがたく辛いものです。本人も、気持ちが楽になるのを望んでいますが、もう二度と傷つきたくないという思いも強くて、警戒心を緩めることができません。治療の途中は、今まで麻痺させていた身体を見ていくので、身体の違和感を感じたり、病気を発見したり、トラウマ記憶を思い出したりして、中断になることも多いです。また、複雑なトラウマがある人は、過去の被害体験から、緊張や警戒を緩められないので、治療に対して強い抵抗が生じます。それでも自分を変えていきたいと頑張る人は、治療がかなり進むと、凍りつきが溶けて、緊張とリラックスする間を行き来する方向に向かうので、他者と波長が合うようになり、人が寄ってくるようになるかもしれません。

 

▶トラウマのボディセラピー

 

トラウマのボディセラピーでは、自分の身体の感覚や感情に注意を向けます。子どもの頃から、トラウマがある人は、現実世界に辛いことがありすぎて、不快な感覚や感情のせいで、緊張や興奮、苛立ちが強いか、極度に圧倒されて身体が麻痺していることが多いです。トラウマのボディセラピーでは、瞑想やマインドフルネス、イメージトレーニング、音楽、ヨガ、呼吸法を行い、自分の身体と仲良くなっていくことが目標になり、心と身体を一致させます。

 

トラウマのボディセラピーは、二つあって、一つ目は、身体の重要な部位を動かしながら、身体内部に着目して、正常な状態に戻していきます。最も重要な部位は、目や口、顎、肩になり、その部分を適切な方法で動かすと、身体が正常の方に戻ろうとして、内側から震えや揺れ、熱が出てきます。その感覚を追体験していくと、今まで凝り固まっていた部分がほぐれて、全身に血液が循環し、身体が温かく、軽くなります。

 

二つ目は、最悪なイメージと最適なイメージの間を行き来したり、ヒーリングミュージックを聞きながら、自分の身体の状態を見ていきます。最悪なイメージでは、息がしづらく、気を失いそうで、寒く凍りついた状態から、最適な方法で抜け出すことで、凍りついた部分をほぐすことができます。身体が最高の状態になると、人間らしい呼吸が出来て、目がはっきりくっきりして、この世界がダイレクトに広がり、全身が温かく軽くなります。この二つのイメージを振り子のように行き来して、身体が絶えず変化していく過程と仲良くなります。

 

目標としては、急な事や想定外のストレスに曝されても、心と身体を一致させた状態を維持し、不快な感覚や感情を持続的に見ていき、適切に判断ができる状態を目指します。また、自発的に恐怖に向き合い、全身や身体の一部を硬直させて、不動状態に持っていき、トラウマの莫大なエネルギーを溜め込んでから、吐き出します。筋肉や脊髄、扁桃体などに滞ったエネルギーが放出されると、筋肉が緩んで、神経の痛みが消えます。このような人間本来の自然に回復する力を利用して、凍りついた状態から、弛緩した状態に戻します。ただし、1回のセッションで良くなるわけではなく、時間が経過すると、元の過緊張や凍りつきの状態に戻っていきます。このようなセッションを何度も繰り返して、天国と地獄の間を行き来することで、トラウマにより凍りついた部分が解れて、心身の健康を上昇させます。

 

▶回復の段階として

 

トラウマのボディセラピーでは、自分の身体の感覚レベルに働きかけ、居心地よい状態、闘争の状態、凍りついた状態、絶望の状態など様々な自分の状態を体験します。
トラウマが最重度
①虚脱・死んだふり(背側迷走神経が優位)
心がなく、身体の反応が鈍くなって、歩く屍のような状態。
トラウマティックな状態のときは、体が沈んで脱力して、重く怠く、無気力になります。
トラウマが重度
②解離・離人システム(背側迷走神経が優位)
心と体が離れて、自分が自分でなくなりそうで怖い。
トラウマティックな状態のときは、もの凄い眠気に襲われて、ぼーっとします。
トラウマが中度
③闘争・逃走システム(交感神経が優位)
警戒心が過剰で、手足に力がみなぎり、細かいことまで気になって、落ち着かない。
トラウマティックな状態のときは、落ち着かずに歩き回って、次の問題に立ち向います。
健康な状態
④社会交流システム(腹側迷走神経が優位)
全身がリラックスしていて、安静な状態。
 
虚脱・死んだふりで生きている人は、生きることに絶望し、無気力で、自暴自棄な行動を取るかもしれません。まずは、自然の中で顔の表情や心臓、肺などを緩めたり、手足の筋肉に力が入るようなヨガポーズを取ったりして、生体機能のリズムを取り戻すセラピーが良いでしょう。また、家族に共感・理解されながらサポートを受けていく必要があります。さらに、ヒーリング音楽を聴きながら、心地良い気持ちに浸り、身体を見ていきます。肩を緊張させて動かしたいように動かすとか、眼球を左右上下に動かして顔の筋肉を緩めます。一番の重要なエクササイズは、顎を少し下げた状態で、口を開け閉めをして、身体の中の変化を見ていくことです。このエクササイズでは、安全な形で、内側から震えや熱を引き出せるので、身体の中に閉じ込めていたエネルギーを解放するのに役立ちます。ただし、長年に渡って、自分の身体の感覚が分からなくなり、反応が鈍くなっているかもしれないので、時間をかけて自分の身体を見ていく必要があります。難しい点としては、何もないものに意識を向けていくということをしているので、無意味なことをやっているように思われるかもしれません。

解離・離人システムで生きている人は、日頃の恐怖と緊張で身がすくみ、怖くて縮こまります。自分や他者のイメージを良くしたり、心地良い気持ちで過ごすことで身体の縮こまりを広げていくことは可能です。まずは、身体を観察していって、自由に動かすことで脱力している手足に本来の力を取り戻します。また、頭、顔、首、肩、胸、背中が凍りついてるので、緩ましていく必要があります。治療では、身体が凍りついているため、すぐに身体を固めることができます。固まった身体に意識を向けて、目や口、肩を動かすか、安心できるイメージか、心地良い気持ちでいると、身体は緩まります。身体のバランスが良くなり、全身に拡がりを感じられるようになると、心と身体が繋がります。治療が進むと、背側迷走神経が優位で、トラウマの世界に閉じ込められて、頭の中で自己否定、自責感でグルグル回っていた人が、自分のイライラした感情や興奮に気づき、外界の刺激に過敏に反応するようになります。身体の凍りつきが剥がれていくと、目つきが変わり、ワクワクする気持ちや生き生きとした表情に戻ります。身体が凍りつくことが減って、外側に健全な攻撃を出せるようになり、自分の気持ちを吐き出し、未来を肯定的に見れるようになります。しかし、頭と身体が一致しても、人によっては、過覚醒で興奮して眠れなくなったり、過去の嫌な記憶や感情が蘇ってしんどくなるかもしれません。日常生活のなかで、自分の身体が戻ることで、感じなくさせていたものが戻り、外側の複雑な刺激に耐えて、やり過ごす必要があります。複雑な感情や感覚(モヤモヤ、ザワザワ、イライラ)した身体を観察していくことで変化し、解放や浄化に至ることを経験していきます。

 

闘争・逃走システムで生きている人は、細かいことまで気になり、イライラしやすい状態です。イライラを減らしていくには、身体の中のイライラが変化していく過程を見ていくと良くなっています。ただし、トラウマが最重度の場合は、苛立つと、手足が勝手に動いたり、口が勝手に喋ったりして、暴言暴力が出てしまいます。また、過剰に警戒していて、細かいところまで気になり、頭の中は、良いか悪いかをアセスメントしています。悪いものが近づいてくると、回避しようとしますが、問題を解決できない場合には、闘争スイッチが入ります。闘争・逃走モードは、自分の意志で身体をコントロールできない部分で、解離や離人症が解消されても身体の記憶として残ります。解離や離人症が取れて、本来の自分に戻っても、身体の痛みや緊張、不快感を受け入れて、イメージの中で自分にとって脅威となる対象を思い起こして、しっかり打ち倒すか、危険な状況から逃走を成功させていきます。このようなイメージトレーニングやリラクセーション、呼吸法をしっかりし、実際の生活でも、自分に自信をつけて、他者を信頼できるようにしていきます。目標は、人生上の絶え間ない変化に対して、緊張・警戒するよりも、のんびりゆっくり過ごせるようにします。ただし、警戒を緩めたく人の場合は、闘争・逃走のまま生きてもらうことになります。

 

トラウマは、言葉というものでなく、身体に記憶された緊張、痛み、疼き、動きとして捉えることができます。トラウマを負っている人は、自分の状態に気づいていないかもしれませんが、身体の痛みとか凍りつきを一緒に発見して、瞑想などを通して溶かすことで、その人のトラウマという経験自体も形を変え、少しずつ取り除かれていきます。基本となるワークは、自分の身体に意識を向けていき、次になにが起きるかをマインドフルネスしていきます。意識という脳のネットワークは、人間に備わっている自然治癒力を引き出すことができるので、心身のバランスが取れるように、身体を一つ一つ観察していきます。身体の温かさや軽さ、柔らかさ、自然な重たさ、流動性など感じられるように回復していくと、自然に心まで回復していきます。心身の状態が回復すると、姿勢が良くなり、眠れるようになり、過去に引きずり込まれなくなり、ネガティブな考えが減ります。

 

対話を通したカウンセリングでは、セラピストに共感・傾聴される環境のなかで、自分の心のうちを語ることで、苦しみが和らぎ、落ち着いた毎日が過ごせるようになります。また、自己分析が進むことで、日常生活のなかで、自分の気持ちと身体の反応を意識して動けるようになります。トラウマがあり、凍りついてきた人は、罪悪感に囚われてうつ状態だったり、自分が悪いと自分を責めてきましたが、加害者や身勝手な人が悪くて、自分は被害者であるという視点に立つようにします。また、自分は悪くなく、身勝手な相手に対して、いつでも健全な攻撃性を使って戦えるように話し合います。目標としては、自分に自信をつけて、この世界は安全であるとか、社会に支えられているというイメージに書き換えていきます。

 

トラウマ治療は、若い人ほど良くなる傾向があります。一方、降り積もった痛みや悲しみ、怒りが多い人ほど、なかなか良くならずに悪くなるかもしれません。特に、性的暴力被害や発達早期のトラウマ、痛みの激しいトラウマを負った人は、自律神経系や生体機能のリズムの異常などから、困難な感覚や感情と対峙しなければならなくなります。

 

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