解離性同一性障害の治療
▶解離性同一性障害の治療

 

解離性同一性障害の治療は、だいだい主人格がやってきますが、治療の途中で、痛みに凍りついた子どもの人格や基本人格に移行していくことがあります。解離性同一性障害の治療を効果的にやろうと思えば、安心・安全感が必要になり、現在の生活環境が整わないことには始められないでしょう。酷い虐待を受けながら、その親の元から離れられない人は、トラウマの部分には触れないほうが良いです。治療では、今をどうやって生きていくか、この社会の中で生き抜く力を育てます。また、子どもに返ったように自由にお話してもらって、自分の本音や感情が吐き出すのが良いと思います。トラウマに焦点を当てる場合は、身体の中にトラウマの痕跡が残されているので、身体感覚に焦点づけた治療がベストですが、感情や感覚、光景などがフラッシュバックするリスクを伴います。

 

解離性同一性障害の人は、過覚醒や凍りつき、虚脱の間を行き来しているので、まずは身体の状態を見ていきます。身体を見ていくと、ガチガチに固まっていることが多く、その身体をほぐしていく方法を考えます。治療では、安心するイメージをしていくことが重要ですが、安心するイメージが思い浮かばない人や、身体が楽になることでフラッシュバックする人もいます。解離が重度な人ほど、安心できるイメージが、布団の中に隠れるとか、暗い部屋の中で休むとかなので、そのような安全な場所に逃げ込むイメージをして、好きなように過ごしてもらいます。そこで息を潜めて、じっとしてもらって、動きたくなったら、顔を上げて、周りを見渡してもらいます。目を動かしたように動かして、身体の声を聞きながら、身体を動かしていき、エネルギーを覚醒させます。そして、心地良い音を聴いたり、自分の身体を動かしたり、深呼吸をしながら身体の中の安心感を探して、上手い具合に自然治癒力を引き出していきます。また、カウンセリングルームの中だけではなく、自然溢れた場所で身体をケアしていくことも必要かもしれません。治療期間は、年単位で見ていかないといけません。治療者とは相性が良く、話すだけで緊張が解れていくような関係性がベストです。また、解離性同一性障害の治療に詳しい人が良いでしょう。

 

▶解離性同一性障害の治療の難しさ

 

主人格の状態により、治療の難しさは様々ですが、主人格が性暴力被害者だったり、発達障害の傾向が強かったり、無自覚だったり、状態がコロコロ変わったり、守護者人格が不在だったり、妨害人格が強力だったり、現実にパートナーがいなかったりすると大変になります。主人格は、最初のうちは治療者を理想化し、関係も良好で、治療者は甘やかしがちになりますが、依存的になり、次第に横柄になってきます。そして、自分のことを全部分かってほしいとか、相手の状況とかおかまいなしにくるので、手に負えなくなります。

 

解離性同一性障害の人は、最重度のトラウマがあり、フラッシュバックしている時は、呼吸が苦しく、喚き散らし、意識が朦朧としたなかで、心臓が止まりかけて、虚脱していきます。彼らは、身体の中に渦巻くような感情を抱えて、生と死の狭間にいて、混乱しています。また、生活全般をこなしていくのが大変で、一人きりになると自分のことが分からなくなるので、自分を助けてくれる治療者に過剰な期待をします。主人格は、依存をエスカレートさせて、治療者は、治療の枠組みに収まらない姿に振り回されます。治療者は、完全に手に余る結果になり、イライラし、冷たい態度になってしまって、制限をかけるかもしれません。主人格は、自身の抱える闇の深さから、小さなきっかけでも、すぐに情緒不安定になり、一人で治療関係を搔き乱していきます。

 

例えば、主人格は、心配してくれたのは最初だけだったと、治療者の反応が薄くなるたびに、試し行動を起こすかもしれません。また、愛する素振りを見せてくれたのに、すぐ手のひらを返してくると勘違いをして、治療者にもう嫌われたと悪く捉えたり、嫌味として感じて、恨みになるかもしれません。そして、治療関係がチグハグになり、治療者と仲良く出来ないことに悲しみ、うまくやれない自分に絶望します。最終的にどうしていいかわからずに混乱して、解離を起こすので、その後に攻撃的な人格が現れて、無茶苦茶になるというパターンに陥ることがあります。主人格の窮乏/横柄な子どもの部分と攻撃的な人格の妨害工作の負のサイクルにはまると、泥沼状態になり、逆恨みを募らせていきます。このように解離性同一性障害の方の治療は難しく、機関レベルで問題を起こすために、受け入れてくれる病院を見つけるのが困難です。

 

▶治療を成功させるには

 

本来の人格と思われる子どもの人格たちと信頼関係を築いて、その関係性を維持することが重要になります。解離性同一性障害の人は、人間不信が強いために、勘違いを起こしやすく、言葉をそのまま受け取り、細かいことまで気にします。治療の枠組みに収まりきらないことが多く、制限と補償の間を行き来します。治療では、子どもの人格が安心感を持って望むことができれば、身体と心にオキシトシンが溢れて、確実に良い方向に向かいます。日常生活では、子どもの人格から大人の人格に代わって、嫌なことに耐え、疲れ切った状態で、治療を受けることになりますが、治療者との間で信頼関係があると、身体は正常に回復していきます。

 

▶交代人格とのネットワーク作り

 

解離性同一性障害の身体の中や背後には、攻撃的な人格部分が存在します。一般的に、主人格は不快なことやストレスに弱いので、すぐに身体が固まって、解離してしまいます。そして、不快な場面では、攻撃的な人格部分が出てきて、感情をそのままぶつけるので、人間関係がことごとく失敗していきます。治療では、主人格が攻撃的な人格部分とコミュニケーションを通して、仲良くなっていくことを手伝います。セラピストは、主人格と攻撃的な人格部分に間に入って、3者間で話し合うことが良いと思われます。攻撃的な人格部分は、身体的暴力、精神的暴力、性的暴力などの被害者であり、主人格が耐えられなかった苦痛を全部受け持っています。仲良くなるには、攻撃的な人格部分を否定せずに、どんな目に遭ってきたのか、どんな気持ちでいるのかを聞いていきます。しかし、主人格と攻撃的な人格部分は、相容れないことが多いので、基本的には、生活環境を整えていくことを優先し、攻撃的な人格部分を眠らせておくのが良いと思います。

 

▶ボディセラピー

 

トラウマのボディセラピーでは、ソマティックエクスぺリンスの理論をベースにするのが良いでしょう。まずは、自分の最も安全なイメージを探して、そのイメージを使いながら、身体の感覚を見ていきます。身体にエネルギーが出てきたら、緊張させた肩を動かしてみるとか、手で物を握ってみるとか、足を使ってみるところから始めます。自分の手で物を掴んでいるという実感や自分の足で地面を踏みしめている実感を噛みしめて、生活します。さらに、手や足の指を動かしながら、そこに意識を向けて、身体を活性化させます。また、カウンセリングルームの中だけでなく、安全ななかでの山登りやボルダリング、神社仏閣巡りが、体の筋肉や皮膚、内臓感覚を鍛えていきます。

 

次に、解離性同一性障害の人は、頭、顔、首、肩、胸、背中のラインがガチガチに固まっていることが多く、目や口、肩を動かしながら、身体の内部に注意を向け、あくびをせずに探索します。身体の麻痺が取れていくと、痛みなどが出るかもしれませんが、身体の揺れ、震え、熱などが出てくることで、正常な状態に戻っていき、全身の力が抜けて、手足の先まで温かくしていきます。また、息が吸えない人には、動かない肺や喉の固まりに注意を向けていって、そこを完全に緩めることで、息がいっぱい吸えるようになります。その一方で、自分の身体に注意を向けていくと、感情や感覚の麻痺が解けていくので、フラッシュバックして、恐怖にうずくまる子どもの人格に交代するかもしれません。特に、性暴力被害者の場合は、身体の注意を向けると、フラッシュバックや身体に凄まじい反応が起きて、体調を崩すかもしれません。そのため、治療を続けていくことが困難になることも多く、トラウマの回復には、不快な感情や感覚と向き合う覚悟が必要です。

 

解離性同一性障害の人は、最重度のトラウマを持っており、セラピールームでのカウンセリングを行う際、身体を見ていくとか、悪いイメージを思い浮かべていくと、一瞬で凍りついて、機能停止になることがあります。機能停止の場合は、しばらく静止した状態が続いて、人格交代が起きるかもしれません。主人格は、あちら側の世界に飛んでいって、その間に起きた出来事を覚えていないかもしれません。そのため、身体を感じたり、悪いイメージを浮かべるにしても、段階的にやっていく必要があります。また、身体を凍りつかせるのも、筋肉の筋弛緩から始めて、段々と緊張が強まっていたらどうですか?というやり方から始めます。解離性同一性障害の方は、身体が凍りついて固まったあと、自然終息させるのに時間がかかります。

 

解離性同一性障害でも、身体を凍りつかせて、自分が自分でいられる人の場合は、身体を不動状態にします。そして、不動状態の恐怖に向き合い、全身が熱くなり、呼吸が苦しくなって、汗が出てきます。集中力が切れないように、解離しないようにして、不動状態を体験していくと、体が震えて、全身か莫大なトラウマのエネルギーが抜け出ます。カウンセリング受けた後や次の日は、とても落ち着いて過ごせるかもしれません。治療では、日常生活のなかで、リラックスや休息する時間を増やしていって、少しずつ人間らしい生活できるようにしていきます。

 

▶生活場面でのボディセラピー

 

解離性同一性障害の人は、主人格と子ども人格の間を行き来しているために、電車などの移動が難しく、定期的にカウンセリングルームに通うだけの状態にないかもしれません。そういう場合は、自宅から電話やスカイプなどのオンラインカウンセリングのほうが良いかもしれません。痛みを持っている子どもの人格が自分の気持ちや本音をセラピストに話していきます。そして、自分の身体を見ていって、子どもの状態から大人の状態に変容させていくようなアプローチを取ってみても良いでしょう。

 

また、毎日、胸が痛くて、息が吸えなくて、凍りついて、過去に引きずり込まれていく人の場合は、生活場面のなかで、いつも凍りついてしまうときに焦点を当てたほうが、より自然に出来るかもしれません。毎晩、同じ場面で身体が凍りつく人は、その身体が凍りつく時間に焦点を合わせて、電話やスカイプなどのオンラインカウンセリングが有効かもしれません。治療がうまくいくかは、治療者との間の万全な信頼関係が重要になります。

 

生活場面のなかで、いつも凍りついてしまうときに焦点を当てた場合は、身体が凍りつくまえは、胸のざわざわして、胸の固まりが大きくなります。そして、身体が凍りつくので、その凍りついた部分に意識を向けます。凍りついているときは、自分に危害を加えた人物と戦うか、逃げるかのイメージをします。戦うのが難しい場合は、セラピストを頼りにして逃げるイメージをします。無事に逃げられたら、また身体の感覚を注意を向けていきます。

 

セラピーのセッションが進んでも、何度も加害者に捕まって、身体が固まることを繰り返しますが、逃げるイメージをしていきます。特に、身体が固まる前後に、身体に注意を向け続けることが重要で、解離しないようにします。加害者に捕まる記憶が蘇っているなら、セラピストを頼りにして、その場から逃げるか、打ち倒すかのイメージをして、身体の感覚を見ていきます。また、不動状態のときは、手足が勝手に動き出したりしますが、セラピストを支えにしてやり過ごします。不動状態から抜け出るときは、全身が相当震えますが、震えを止めずに自然終息するまで待ちます。治療を無事にやり終えると、涙声やかすれた声から、綺麗な声になり、息がしやすく、瞳が綺麗に輝き、この世界の見え方が変わります。

 

▶薬物療法

 

解離性同一性障害の人は、幼少時代から自分を救うために、サバイバル技術を身につけて、過緊張や警戒でストレスが非常に高い状態で生活してきました。そのため、心の問題だけでなく、実際には身体に大きな問題を抱えることが多いです。例えば、胃腸や脊髄、喉、皮膚などに炎症が起きて、下痢や便秘、痒みで心身の状態が最悪かもしれません。まずは、検査で全身の炎症を調べてもらって、それを抑える薬を飲むと、状態が改善されます。また、リウマチや線維筋痛症、慢性疼痛・疲労、過敏性腸症候群などで日常生活が困難な場合は、ボディセラピーと薬物療法、環境調整の併用が必要です。

 

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