身体は時間や空間に縛られた存在であり、現代の管理社会において効率的に物事を処理するためには、しばしば自分の身体感覚や感情、モチベーションを切り離す方が合理的だとされることがあります。特に長時間労働が当たり前の社会では、ストレスが積み重なり、身体がだるく重く感じるため、身体の存在を感じない方が楽だと思うことさえあるでしょう。このような状況では、しんどい身体を無視して、頭の中やスマホの中で生活することで、時間や空間に縛られずに生きる幽霊のような生き方を選ぶ人もいます。
身体の感覚を切り離し、不快なことを感じないようにして、作り笑顔を浮かべることで、周囲からの評価が上がることも少なくありません。日本社会では、自己主張をする人よりも、問題を起こさず、周りに合わせることができる大人しい人が好まれる傾向があります。
しかし、長年にわたって嫌なことを強制され続けると、身体は次第に自分自身のものではなくなっていきます。身体の一部が酷使され続けると、緊張から硬直し、やがて麻痺して感覚が失われていきます。その結果、身体の一部がゴムやグローブ、陶器、あるいは着ぐるみのように感じられ、ついには全身が自分のものではなくなり、透明人間やマネキン、藁人形のように感じられるようになるのです。
一方で、健康な人は、皮膚感覚や内臓感覚、筋肉の感覚をしっかりと保ち、麻痺することなく、自分の身体が温かさを持ち続けることができます。これによって、人間らしい感覚を保ち、自己の存在をしっかりと感じることができるのです。
現代社会では、情報が溢れ、価値観が画一化される中で、潔癖でノイズに敏感な人が増えてきています。このような社会では、不快な感覚が身体を通じて生まれるため、テクノロジーの発展に伴って、身体性を切り離す人が増えつつあります。
現代社会において、身体に対する価値が著しく減少していることも問題です。自己から身体性が切り離されると、私たちの世界は、地に足のついた実感を伴わないものとなり、スマホやバーチャルな世界、空想の世界が中心となります。その結果、人々との関係性も、身体を伴わない、感覚や感情をバーチャルに媒介されたものへと移行していきます。こうした状況では、仕事や日常生活における身体的な感覚や感情が空虚で無味乾燥なものとなりがちです。
一方、管理社会は、このように空っぽな身体をより管理しやすいと考え、様々な手段を用いて現代人が身体を軽視するように促しています。
現代の複雑な社会システムに縛られる中で、スマホやタブレットに依存し、運動不足になると、身体性を失い、次第に衰弱していきます。身体が冷え、緊張感が増し、血液の循環が悪化すると、自律神経系の調整がうまくいかなくなり、免疫力の低下とともに心身にさまざまな問題が生じることになります。
現代の管理社会がもたらす身体性の喪失を防ぎ、心身の健康を取り戻すためには、以下のような対策が有効です。
これらの対策を日常に取り入れることで、身体性の喪失を防ぎ、心身の健康を保ちながら、豊かで充実した生活を送ることができるでしょう。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平