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自他の境界が曖昧な人


自他の境界が曖昧になっているというのは、自分と他者との境界線が分からなくなっている状態のことを指します。自他の境界が曖昧な人は、複雑なトラウマがあるか、生まれつき発達障害(アスペルガー、ADHD)の傾向があり、ちょっとしたことでも生理学的な防衛反応に入りやすく、感覚過敏と感覚鈍磨の症状を持っています。感覚過敏が出ているときは、心身が過剰に反応して、不快感を強く感じます。感覚鈍磨が出ているときは、ボディイメージが薄くなり、自分の身体(皮膚、筋肉、内臓)の感覚が麻痺しています。身体が麻痺して、現実感が乏しくなると、この世界がぼやけて見えて、妄想や空想に耽るようになり、どこまでが事実で、どこからが妄想かという境界が曖昧になります。

 

感覚過敏が強く出ている人は、人の感情や人の気配がどんどん自分の中に流れ込んで苦しくなりため、自分を守れません。他人から批判や拒絶されると、もの凄く不快に感じて、自己が崩壊してしまうぐらい自他境界がありません。通常の人と比べて、自分を守るバリアが薄く、不快感を強く感じてしまうため、激しく傷ついて、被害者になり、周りを巻き込むトラブルメイカーになることがあります。一方、心地良さを感じさせてくれる他者を求めて、融合的な同一化した状態を望みます。心地良さを感じさせてくれる相手には、深入りしすぎて、ぐっと侵入してしまうとか、悩んでいる人がいたら深く入って共感してしまいます。積極的に相手に働きかけすぎて、初めて会った人にも馴れ馴れしく接したり、プライベートなことも平気で話したりします。彼らは、他人との距離を取るのが苦手で、深入りしすぎます。

 

その一方で、彼らは、現実世界の生々しい刺激に弱いために、次々と辛いことが起きると、すぐに脱身体化して、自他未分化な原初的な空間に逃げ込みます。身体感覚の麻痺が強くなると、外の世界の対象と融合して、形を保てなくなり、取り込まれていって、他人も自分の一部のように感じます。

過敏さから自他の区別がつきにくい


感覚過敏から身体反応が強く出ている人は、人から悪意を向けられることを恐れており、他者に過剰に同調するか、この世界に敵意を持っていることが多いです。感覚過敏ゆえに、自他の境界が揺らぎやすく、些細な刺激でも、ヒヤリとする恐怖を感じます。例えば、外の世界の殺人・暴力のニュースやシーン、ホラー映画の影響を受けやすく、外の世界で起こった出来事なのにダイレクトに自分の体の中に入ってきます。あたかも本当に自分が経験しているかのようにそれらの影響を受けます。酷い場合には、神経がいきり立っているので、テレビの中の発言であっても、自分が言われているように感じます。また、どのような組織の中でも、苦手と感じる人がいて、自分が脅かされている被害者になれば、過覚醒の症状が出て、理性的な判断が難しくなり、現実検討能力の低下から、自他の区別がつきにくくなります。

自己感覚が喪失し、自他の境界が曖昧に


自他の境界が曖昧な人は、自分の身体感覚には気づきたくないのですが、外界の刺激には身体が過敏に反応してしまうため、周りが緊張していると、自分の調子も悪くなり、周りが喜んでいると、自分の調子も良くなります。人を鏡のように使って、人間関係を形成していきます。彼らは、自分に安心感がなく、警戒心が過剰なので、誰かに意識を向けるしかなく、他者ありきの人生になります。 他人にどう見られるか、他者に良く思われているかなど、周りにばかりに意識が向きます。そして、自分がどう行動するべきかを考えて、自分の役割にしがみついて、困難な状況を乗り越えていきます。

 

人生に次々と辛いことが起きて、体の中の感情や感覚が麻痺していくと、自己感覚や人との距離感が分からなくなり、境界を感じられなくなっていきます。自分が何を感じているか分からなくなると、どう思っていたか、何かを考えていたか、何をしていたかも分からなくなり、空っぽの身体になります。自分のことさえも分からなくなると、何かを経験しようとしても、何も積み重なっていかず、この先どうしたらいいか分からないために、人に合わせる生き方しかできなくなります。自身の心身の不確かさが埋められるわけではないので、人に合わせて行動する依存が続くことになります。

 

自他の境界が曖昧な人は、小さい時から、脅かされつづける環境にいて、自分の存在が極端に小さくなると、自分の首から下の感覚が無くなり、自分の身体が自分のものではないように感じます。自分の身体への所有感が薄い人は、自他の境界線が曖昧になり、相手と同じような感覚に陥ります。また、自分が自分で無くなり、自己感覚が喪失している人は、自分というものがないので、人の心も分からず、自分と他人を分けるものがありません。また、孤独感に耐えれず、自分の感覚が麻痺していくと、自分と他者を関連付けて考えるようになり、テレビ番組、ネット、職場、近隣住民の人が自分のことを言っているように感じるような現象も見られます。

 

自他の境界線が消えていくと、相手の感情が自分の感情になり、相手の悩みが自分の悩みになっていきます。自他の境界が曖昧な人は、自分の気配を消すことが得意なために、相手といると自分の意見が無くなり、同一化していきます。自分が相手の懐にすんなり入り、相手の意見しか聞こえてこなくなり、相手の気持ちしか感じられなくなります。相手に同調すると自分の感覚や自分の存在感がそこから消えていきます。人の感情がどんどん入ってきて、相手が何を考えているのか、2手、3手先まで読んでいます。人の気配に動かされて、相手が自分のことをどう思っているかを先読みします。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2022-07-18

論考 井上陽平

 

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