> > 感覚過敏と生活全般の困難

感覚過敏


 第1節.

感覚過敏になる過程


感覚過敏は、先天的な要因として考えられるところがありますが、子宮内ストレスや誕生時トラウマ、児童期の虐待、学校のいじめなど、何度も脅かされる状況にいて、凍りついてきた(フリーズ)人にも見られます。トラウマティックなストレスにより、感覚過敏になる人は、子どもの頃から、母親の機嫌に振り回されたり、父親から暴力を振るわれたりして攻撃を受けてきました。脅かされる度に、抵抗ができなくて、フリーズします。

 

最初の頃は、自分の境界を張って守ることができますが、どんどん自分に危害を加えてくる親や兄弟が居ると、自分の思うように生きることが奪われて、自分の居場所が無くなります。 このような家庭内で複雑なトラウマがある人は、生存のための脳領域が発達し、頭の中は警戒モードで、体は自分を防御する姿勢を取り、外の気配に過敏に反応します。家の中では、親の気配を感じると、身体がサバイバルモードになり、筋肉が張り、息を潜め、耳を澄まし、感覚を鋭くして、気配や音、声などに神経を張りつめていきます。身体の本能は、戦うか逃げろと命じているのにも関わらず、じっと耐えて、正常な行動を妨げられると、ガチガチに凍りついて、身体の中に莫大なエネルギーが滞ります。トラウマが慢性化すると、自律神経系が調整不全に陥り、自分の身体的反応に混乱して、パニックになり、生活に支障が出てきます。

 第2節.

嫌な刺激と不快な状況において


トラウマのある人は、人によって嫌な刺激が様々に異なりますが、自分の体内、人の気配、感情、表情、視線、音、声、話す内容、匂い、振動、光、気圧、温度などに過敏に反応します。そして、不快な状況が続くと、無意識のうちに、交感神経のスイッチが入り、過覚醒になって、心の余裕が無くなります。過覚醒では、反応が素早くなり、些細なことでも、ビクッと反応して、イライラしやすくなります。そして、不快な感覚に苛まれて、落ち着きが無くなり、じっとしていられなくなります。不快な場面から、自分の力で離れるか、その問題を解決できなくなると、うんざりしたり、気が狂いそうになるかもしれません。そして、不快な状況に打ちのめされていくと、疲れ切って、動けなくなります。自分の力でどうすることもできない場合は、背側迷走神経が過剰になって、不動状態に陥り、頭痛や腹痛、吐き気、耳鳴り、考えがまとまらない、パニック、動けない、自分のことが分からなくなるなど様々な症状が現れます。

 第3節.

早い段階のトラウマの影響


発達早期にトラウマを負って、痛みの身体になっている子は、赤ん坊の頃からのんびりゆっくりすることができなくて、絶えず次の変化に備えて、身体が自分を守ろうとしています。そして、通常の人よりも、神経が張りつめており、人一倍敏感で、感受性が強く、刺激を感じすぎるところがあります。物心ついた頃から、外界への警戒を強めて、過緊張や凍りついた状態が続くと、視覚過敏や聴覚過敏、嗅覚過敏になります。

 

その一方で、身体で感じる力(皮膚や内臓、筋肉)が麻痺すると、主体性が乏しくなり、人との関係なんかも長続きしなくなります。日常では、自律神経系の調整不全により、集団場面が苦手で、赤面恐怖やフリーズ現象、冷や汗、震えなど、自分の状態が気になるとか、自分が人からどう思われているかという憶測や思い込み、恥の概念でしんどくなるかもしれません。また、大きな音、眩しい光、匂い、人混みなどが苦手で、その場から逃げたくなるなど、様々な刺激に反応します。成人後は、自分の内側で何かを感じるよりも、周りのことに注意が向く人生だったために、自分の存在意義や生きる意味が分からなくなり、アイデンティティの問題や自分のことがよく分からない人もいます。

 第4節.

過敏症とトラウマのメカニズム


過敏症の人は、過去に受けたトラウマの影響から、生理学的な防衛状態に入りやすいです。彼らは、自分を脅かしてくる対象から、身を守るために、神経が研ぎ澄まされて、身体は凍りついています。長年に渡って、凍りついていくと、防衛が過剰になり、人から傷つけられることが怖く、理性よりも感情的になって、あらゆるものに素早く反応し、過敏になります。そして、過敏になればなるほど、自分を不快にさせる対象と争うことになり、闘争・逃走・凍りつきというトラウマのメカニズムにはまり込みます。トラウマのメカニズムがあるから過敏症が悪化し、その悪化がまたトラウマのメカニズムを強固にします。過敏症には、聴覚過敏、視覚過敏、嗅覚過敏、化学物質過敏症、電磁波過敏症、線維筋痛症などがあり、生活全般の困難から取り返しのつかない人生になるかもしれません。

 第5節.

感覚過敏の身体的症状


感覚過敏がいかなる身体的症状を引き起こすかというと、神経が繊細なので、外界の刺激に影響されやすく、毎週ごとにも体調が変化するということもみられます。感覚過敏の人は、自分が心地良いと思っている刺激に対しては、特に何も問題はありません。一般に、好きな感覚のところに留まり、そのことにこだわり、衝動的に好きな方に向かいます。一方、嫌悪する刺激に対しては、身体が硬直して、ナイフが突き刺さるような痛みが出て、闘争・逃走スイッチの過覚醒や凍りつきの迷走神経反射、パニック、虚脱状態など様々な症状が現れます。

 

例えば、気圧が低くなると 交感神経と背側迷走神経が刺激されて、頭痛やお腹の調子が悪くなったり、貧血で起き上がるのも大変になる人がいます。そして、しんどすぎて、集中力が無くなり、何もしたくなくなりますが、何もできない駄目な自分を責めるようになります。休息やリラックスしたくても、身体は防御しようとするので、脳はアンテナを常に張って、危機意識が高くなります。また、台風や痛ましい事件などが起きた際は、自分に関係ないことまでも感情移入してしまいます。

 第6節.

聴覚過敏の身体的症状


聴覚過敏は、過敏症の中でも最も多く、自分が出す音以外の周りの音に過剰に反応します。例えば、家の中にいても家族が大きな声で愚痴を言っているのが聞こえるだけでイライラし、疲れてしまいます。また、職場の中で誰かの愚痴をいっている声や話の内容、扉を閉める音を聞くと、落ち着かなくなり、焦燥感が出て、気分が悪くなります。聴覚過敏の人は、神経が張りつめていて、刺激に敏感で、どうしても周りの音がうるさくて不快に感じるようになります。周りの音が不快でそれがストレスになり、嫌な音がすると、心臓がギュッと締めつけられ、身体は凍りつき、神経の働きが急激に変わることで、身体症状が出ます。音の鳴る場所から離れることができれば、心は落ち着きますが、逃げる場所がない人は、足から凍りつきます。そして、慢性的に凍りつくようになれば、過剰防衛になっていき、周りの声や音、光、人の気配、感情、視線、自分の体内などを過度に気にするようになります。聴覚過敏の人は、苦手な人によって発せられる音に過敏です。彼らは、生活音が小さくなる夜型の生活になっていき、昼夜逆転の生活になりやすいです。 この聴覚過敏は、一般の方にはなかなか理解されないのが現状です。

 第7節.

過敏症が悪化していくと


トラウマや発達障害から、感覚過敏になっている人は、人間関係が苦手になり、他人の出す音や匂いが不快に感じるため、社会的接触を減らし、孤立した生活を余儀なくされます。しかし、現代人の多くは、人口が密集した都市型生活をしなければならないので、神経が張りつめて、頭の中で複雑な情報処理を行い続け、疲労や苦痛が強まる結果になり、様々な刺激に翻弄されて生活が困難になります。酷くなると、外に出なくなり、家の中で引きこもる生活になりますが、隣人の出す音にイライラして、言い争いに発展し、トラブルになります。そして、隣人を含め、自分を脅かす人が全て敵になり、この世界中の人が敵のように見えて、最悪の場合は、統合失調症を患う可能性があります。身体の中に閉じ込めたトラウマのせいで、想定外の事が起きると驚愕反応を起こし、不快な状況が続くと闘争・逃走・凍りつき反応が出て、さらに解離性の幻聴が加わると厄介になります。

 

例えば、自分の中の別の人格が、自分に悪口を言って、妨害工作をしていることに、本人が全く気づかないでいると、幻聴によって、聞こえてくる内容が、現実に起こっていることと信じてやまず、恐怖心に囚われています。その情報に過剰に反応して、その情報を真実として捉えて、余計に幻聴が酷くなって悪循環に陥ります。幻聴が聞こえると、身体は過敏状態であるため、ずっとそれを気にして、寝ない、食べない状態に陥ります。身体的には、脳内の神経系の一部が過剰に機能している状態で、それらがものすごく尖って敏感になっていると言えます。

 

このような尖った神経を持つ人は、薬を使って和らげることで楽になるかもしれません。また、就寝時には耳栓を使うなどしたほうがいいです。日常生活では、自分の身を守れるように、いつでも逃げれる場所を作り、生活が安心感のほうに向かえば、症状は軽減されます。さらに、自分のことを理解してくれる人と過ごすことで過敏性は和らぎます。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

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