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この世に生まれ落ちることの暴力性


人がどのように生きていくかは、どの家庭に生まれ、どのような親に育てられるかによって大きく左右されます。もし、裕福で愛情深い親のもとで育つことができれば、子どもは心配事が少なく、安心して自分の目標に向かって進むことができます。しかし、もしも暴力的な親のいる家庭で育った場合、子どもは夢に向かって努力するどころか、生存するための基本的な安心感すら得られない環境に置かれることになります。こうした家庭環境が、子どもの将来にどれだけ深い影響を与えるかは計り知れません。

 

このように、人がどの家庭に生まれ育つかは、その人生のあり方に大きな影響を与えます。こればかりは、本人の意思や努力ではどうにもならず、運に委ねるしかないという現実があります。人の生は、生まれた瞬間から不平等であり、その不平等こそが、私たちが生まれ落ちるということに内在する一種の暴力性といえるでしょう。この不平等が、人生のスタート地点で既に大きな格差を生む要因となり、個々の人生に深い影響を及ぼします。

親の関係が子どもの未来を形づくる影響


親同士の仲が悪いと、その影響は子どもに深く及びます。家庭内でいつもぎくしゃくした状態が続き、良い雰囲気が保たれない場合、子どもの心と体には大きな悪影響が生じます。さらに、子どもが将来を考える際にも、親の姿や行動が無意識のうちに影響を与え続けます。

 

親の姿を通じて、人間関係の難しさや無力感、不幸な場面を長期間にわたって見せられると、人は無意識に「人生とはこういうものだ」と感じてしまいます。この感覚は、子どもが自ら築く人間関係にも影響を及ぼし、友人や仕事仲間との関係においても、選択の自由が制限されているかのように感じることがあります。親との関係は、自分で選べるものではなく、たとえ親が問題を抱えていたとしても避けられないため、子どもはその関係を受け入れるしかありません。結果として、家庭での不和が子どもの人生全体にわたって深い影を落とすことになります。

見えない虐待—親子関係に潜む圧力とその影響


親子関係において、虐待は必ずしも暴力だけに限りません。目に見えない形での圧力や、親との関係に巻き込まざるを得ない子どもの立場も、深刻な虐待といえます。

 

特に、親同士が仲が悪いにもかかわらず子どもを持つことは、その子どもにとっては一種の暴力となります。子どもは、常に怒鳴り合いを繰り返す親を目の当たりにし、自分が何をすべきか分からずに混乱します。それでも、その親との関係は続けなければならず、その中で子どもが感じるしんどさは、辛抱する以外に解決法がありません。親が作り出す不安定な家庭環境は、子どもにとって心身の負担となり、深い傷を残すことがあります。こうした見えない虐待は、子どもの成長に大きな影響を及ぼし、将来の人間関係や自己形成にまで影響を与えるのです。

選べない親と家庭—子どもの未来に影響を与える家庭環境


子どもにとって、親や家庭環境は自分で選べるものではありません。生まれ落ちた家庭で、親との関係を築かざるを得ない状況に置かれます。そのため、子どもが安心して毎日を過ごせる家庭環境を作ることが極めて重要です。

 

人は生まれる場所を選ぶことができないため、不幸にも家庭環境が悪い場合、子どもは望まずともその環境に耐えなければなりません。家庭というのは、子どもの成長過程で圧倒的な影響力を持ち、考え方や嗜好、身体感覚の基盤を形成します。しかし、子どもは必ずしもその圧力に屈するわけではありません。家庭の影響を受けながらも、自分の趣味や意志を持ち、それに基づいて自分の人生に取り組む可能性もあります。家庭の圧力とそれに抗う力の間で、子どもは成長していくのです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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