パニック障害になりやすい人は、幼少期にトラウマを抱えて病気がちでいるとか、虐待や性被害などの外傷体験を負っているとか、長期に渡って、生活空間の全体にストレスと緊張が多いとなりやすいと言われています。また、発達的には、神経系の発達が脆弱な人はパニックになりやすいです。パニックになりやすい人は、体が慢性的に縮こまり、首や肩が張り、脳は危険信号を受け取る状況にあり、普段から不安や焦りが強いです。些細なことでも恐怖を感じると、筋肉が硬直し、頭部や顔、喉、胸、背中がギュッと締めつけられて、息がしづらくなり、でも必死に息を吸おうとして苦しくなります。性格としては、もともと臆病で恐怖心が強く、責任感が強い性格、完璧主義な性格、几帳面な性格に多いです。
幼少期のトラウマにより、自律神経系の調整不全がある人は、ある場面でストレスがかかるときや、緊張感が強まるとき、嫌なものを避けれないとき、危険を感じたとき、大勢の人前で何かをするとき、物事に熱中しつづけるときなど、身体の覚醒度合いが上がり、交感神経のスイッチが入ります。危険や脅威を感じている場合は、交感神経が過剰になり、過覚醒システムに乗っ取られると、心臓がドキドキして、呼吸は浅く早く、奥歯の噛み締めが強く、顔全体が熱を帯びて赤くなり、頭の回転も速くなり、発汗が見られます。その後も、身体を休ませることなく、アクセル(交感神経による過覚醒)を踏んでいると、急速にブレーキ(背側迷走神経による低覚醒)が同時にかかります。人は、交感神経と同時に、背側迷走神経が過剰に働いて、拮抗しあうときに、身体が凍りついて、様々な生理的混乱や感情の爆発が起こります。症状としては、動悸の激しさ、呼吸困難、心臓が止まりそう、胸の痛み、頭の中がフリーズ、顔が熱い、発汗、頭痛、顔面蒼白、めまい、腹痛、下痢、吐き気、こわばり、寒気、震え、声が出ない、耳が聞こえない、不動、脱力、崩れ落ちなどあります。この自分の統制の利かない情動や生理的反応を、この発作のせいで、胸が苦しくて、息が吸えなくなり、頭の中が真っ白になって、死んでしまうかもしれないと思い込むことでパニック発作を誘発します。一度、パニック発作を経験した人は、外界の気配や体内の感覚に過敏になり、またそれが起こることを恐れるようになり、以前そうなった過程や出来事を避けるようになります。そして、閉じ込められた空間や自由の利かない場所に身を置くときに、動悸がして、予期不安が高まり、過去の外傷体験の身体反応や感情、思考、記憶、行動が蘇ってきます。不安が高まり、身体が硬直して、顔から首、肩がガチガチに凍りつくことで、息が出来なくなり、冷汗が出て、再びパニック発作に襲われて、その場に倒れ込んで動けなくなります。
パニックになるような人は、眠れなくて、悪夢にうなされ、疲労感が高まり、現実感が乏しくなり、人混みや目の前の人が怖くなります。生活全般のストレスと緊張状態が続くと、自律神経系が調整不全を起こし、発作になります。例えば、疲労が強くて、気分が最悪なときに、自分が苦手な対象が目の前にいると、不快感が強調されてしまって、どうしようと不安や焦りが強くなり、その場に居られなくなります。身体が過剰に覚醒して、感情が昂ることで、じっとしていられなくなり、イライラが強まると、それと同時に、緊張感も高まり、全身に力が入って、動悸が激しく、喉や胸が絞めつけられて、呼吸がおかしくなります。腹側迷走神経の働きよりも、背側迷走神経の働きが強くなり、社会交流を司る身体(顔、喉、気管支)の部位は固まり凍りついて、痛みが全身に広がり、言葉が出てこなくて、耳が聞こえにくくなり、歩きづらくなります。そして、息が出来なくて、心拍数や血圧が下がり、めまいや立ちくらみが起きて、意識が朦朧とするなかで、動けなくなります。パニック障害を患っている人は、電車や広場、人間関係のストレスの影響により、動悸や呼吸、胸の痛みに異変が出て、身体への不安が高まり、予期不安が起こります。パニック発作は、ストレスや疲労が強くて、限界ギリギリの人が、ある特定の場所や想定外の出来事で起きるので、なるべく自分の思うようにしたいとか、自分に合わせてくれないと嫌になるとか、全部のことが見えていないと不安になります。
(30代女性)
発作が起こるとき、それはなんの前触れもなく、突如、私の身体を襲う。そのさきぶれはいつでも、なんとなく胃腸が痛いというような日常でよくある身体の不調にすぎなかった。しかし、そのようないつもの腹痛はそれそのものの症状として治まる一方で、それが発作とつながるときには、そのわずかな異変が連鎖反応のように加速して痛みは膨れ上がり、全身を駆け巡ることになる。
パニック発作の経験、それは私にとって、何事もなく過ごしている日常において一瞬にして引き起こされる心身の錯乱の経験に他ならなかった。朝、家では身支度を整えているとき、仕事に向かう電車のなか、街で買い物をしているとき、これまで何一つ狂うことなく保たれていた心身の調和した状態が、瞬時に切り裂かれ、解体、破壊に向かう。そんなときには、どこか身体の深い部分からすべてが切り裂かれてしまいそうな緊張が、全身を貫いているのを感じるのだった。
耐えられないほどの痛み、吐き気、焦り、絶望、混乱、ままならない自分の身体。発作が起こったならば、それは私の内臓を通り抜け、燃えるような痛みとともにあらゆる臓器が溶けだし液状となって体外へと流れ出ることとなる。
多くの場合、胃、大腸、ときには子宮が燃えるように熱くなった。発作は、欠陥がカラカラになるまで血液やそれらの臓器を煮えたぎらせた。絶えずこみあげてくる吐き気と、胃腸をわしづかみにされているような痛みが同時に襲う。嘔吐、下痢を繰り返し、胃袋と腸の内容物をすべて吐き出してからは、胃液や水のような半透明の嘔吐物ばかりが排出されるのだった。その痛みは恐怖でしかなかった。
これらの症状は、私の体温感覚までをも狂わせた。長時間、下半身を丸出しにしてトイレに座り込んだまま、足は寒さにがくがくと震えていた。冷え切った足先の爪は、ペパーミント色に変色しているのがわかる。しかし、寒いのにも関わらず、首筋や背中にはびっしりと汗をかいていた。寒いのか、暑いのか、そこにあるのはまるで体温調整ができない身体だった。冷えた鉄板かなにかを全身に押し当てられているかのように、頭頂から血の気がひき、次第に全身から血色が失せ硬直状態となった。
発作は、これらの痛みをもたらすだけではなかった。それは、私の視覚にも攻撃を加えた。はじめは白い火花のようなものがはじけ飛ぶ。のちに、その光加減は強度を増し、まるで生き物のように動きまわった。砕け散り、微塵になった星の破片のようなものが集合体をなし、眼前を、光の群れが戯れるかのように踊り狂うのだった。その色彩の激しさは強い眩暈を引き起こした。
暗闇のなかで浮かぶ像が表れては消え、色や光は生成変化を続け、微細化されたそれらの粒子は、眼を閉じているにもかかわらず光を放ち続け、動き、光度を変えた。光の束は、私の脳裏や視界に鋭い軌道を刻み込んだ。それらは、現実世界の太陽が映し出す光景よりもまばゆいために、もはや自分が眼を開けているのか閉じているのか、昼なのか夜なのかもわからなくなるのだった。それは、私の視覚を狂わし、現実と幻想、昼と夜、内部と外部を分かつ境界を、すなわち「狂気」の世界を保つ境界線を解体しにかかってくるのだった。
発作の連鎖はなおも続いた。吐き気とともに幾度となく咽喉にまで上がってくる胃酸は、まるで刺激性植物の表皮に生える針状の毛のような働きをなした。胃液は突起状の針となり、咽喉や舌を刺激し痛みを生じされた。息を吸うことが難しく、酸素を取り込むことができないために、身体中の細胞が縮んでいくかのような感覚に襲われた。空気を吸うことも、水を飲むことも、ベッドに横たわることもできなかった。助けを呼ぼうにも、声は咽喉に引っかかり、ただただ痛みに身をよじって発作が過ぎ去るのを待つしかなかった。
トラウマによる生物学的メカニズムを理解して、身体の硬直と凍りつき、不快な感覚やイメージ、自動思考、自律神経系の調整不全から、パニックや過呼吸が起きていることを理解します。セラピーでは、自分の身体感覚の変化を観察していきます。脳の高次の意識機能と身体感覚を使いながら、不安に耐え忍ぶだけの心を育て、身体の捉え方が変わると、身体の状態も変わり、パニックや過呼吸に対処できるようになります。また、心地良いイメージと最も最悪なイメージの間を行き来しながら、自発的に不動状態に入ってもらって、パニックにならずに、適切な方法で自然終息させます。不動状態の出入りができるようになると、体の安心感や所有感が高まり、メンタルが鍛えられます。その結果、全身が軽くなり、呼吸がしやすくなって、睡眠も取れるようになります。日常場面では、自分の身体のアンバランスなところに、興味を持って、意識を向けられるようになると、手足に力が戻り、背筋が伸びて、姿勢も良くなり、呼吸も深くなって、自分に自信が出てきます。カウンセリングでは、日常生活を困難にさせている対処法を一緒に考え、後半は、瞑想を行って、自分の体の仕組みと仲良くなる方法を学び、ボディイメージや意識の在りようをプラスにしていきます。
薬物療法では、動悸がしてからの予期不安や発作時に、緊張、気管支、消化器系の症状を取り除くために薬を飲むのも有効です。パニックになりそうなときは、その不安を受け入れて、自分の置かれている状況を観察しましょう。不安があっても自分の体は大丈夫と思って、再び状況を観察して、また体に大丈夫ということを繰り返すことが良いと思います。また、何か大きな存在に支えられているようなイメージを持ちつつ、自分は大丈夫と言い聞かせてみるのも良いでしょう。さらに、パニックになりそうだと感じたときは、そこから離れて休憩するのが良いです。そして、気持ちを切り替えて、自分の身体を冷静に観察していって、自然終息を待ちましょう。また、何事にも完璧にしようとか思わず、頑張りすぎずに、ストレスを減らして、自分を楽にして過ごしましょう。その他にも、ゆっくり息を吐く呼吸法をするとか、胸や喉が苦しいときは水をごくりと飲むとか、安全な場所に逃げるとか、気持ちを切り替えるとか、緊張を解くためにリラクセーションをするとか、たくさんの方法があるでしょう。また、パニック障害を治す方法としては、自分と同じように病気に苦しんでいるたちが頑張っている姿を見て、自分も同じように頑張ろうと思うことが大切です。不幸な生い立ちでも夢を追いかけている姿や病気から逃げずに真っ向から立ち向かっていく姿に勇気をもらい、自分にも勇気を持てるようしていきます。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平