1.身体と心に宿るトラウマの影響
身体に詰まりや痛み、苦しみを抱える人々の多くは、発達の初期段階で「生きるか死ぬか」という瀬戸際を体験したり、出産時や医療に関するトラウマを経験してきた人たちです。小児期に逆境を乗り越えてきた人や、アトピーや皮膚炎、内臓の不調といった生まれつきの健康問題を抱えている人も少なくありません。
特に、生きるか死ぬかの外傷体験を経た人は、身体が崩壊しそうなほどの極限の苦しみを経験しています。恐怖に襲われたとき、頭が真っ白になり、痛みで身体が跳ね上がり、視界が竜巻のようにぐるぐると回るような体験をすることもあります。このような深刻なトラウマを抱えた人々は、その後、過剰な警戒心や感覚の過敏さ、焦燥感、疼痛、痺れ、めまい、痙攣、吐き気、さらには希死念慮といった複雑な症状に苦しむことになります。
2.トラウマと身体的症状の関係
例えば、窒息しそうな経験をした人は、喉が詰まる感覚を長年抱えることが多くなります。また、強い恐怖を体験した結果、心臓に痛みを感じ続ける人もいます。こうした体験が繰り返されることで、身体は過剰に反応しやすくなり、最終的には身体全体が凍りつき、ロックされた状態になります。この状態が続くと、身体の弱い部分に次第に症状が現れ始め、慢性的な不調へとつながっていきます。
子どもの頃からトラウマ化した身体を持つ人々は、次々と辛い出来事に直面しても、その苦しみを誰にも打ち明けられず、感情を押し殺す傾向があります。自分の感情を言葉にすることを避け、周囲に合わせることに専念することで、喉や胸に詰まりを感じるようになります。これは、彼らが抱える身体的・感情的な苦しみの表れです。
3.トラウマによる身体と心の詰まり
複雑なトラウマを抱えた人が、辛い出来事に次々と見舞われると、自分の本音や本当の感情を出せないまま、胸の中に大きな塊ができてしまいます。過去の激しい苦痛を思い出すたびに、その塊が痛みとなり、発作が引き起こされることがあります。発作が起きると、何かが喉元に上がってきて吐き出したくなるのですが、それができないと息が詰まり、意識が遠のきそうになりながら、手足をじたばたさせるしかなくなります。
こうした複雑なトラウマを抱える人は、常に大きな不安を身体の中に抱えており、その影響で身体全体がトラウマに覆われているような感覚に陥ります。普段から身体が炎症を起こし、鼻が詰まったり、喉が腫れたり、みぞおちが苦しかったり、頭が重く感じたりします。身体がヘドロに包まれたような、底なし沼を歩いているかのような気持ち悪さに苛まれ、どこまでいってもその苦しみが続くように感じます。そして、発作が出ると、胸や喉に詰まっている何かが込み上げてきて、吐き出したくなる衝動に駆られるのです。
4.身体と心の解放へのアプローチ
複雑なトラウマを抱え、身体中がガチガチに固まっている人は、その詰まりが徐々に解消されることで、身体が軽くなり、心の負担も和らいでいきます。トラウマ治療においては、呼吸法や自律訓練法、筋弛緩法といった基本的な技法が非常に有効です。これらの技法は、緊張をほぐし、身体の自然なリズムを取り戻す手助けをします。
さらに、身体に着目したトラウマアプローチを併用することで、身体内部の血液やエネルギーの循環が改善され、心の傷も徐々に癒されていくのです。心と身体は密接に繋がっているため、身体の状態を整えることで、心の回復も促進されます。継続的なケアと意識的な取り組みによって、身体の緊張が解け、心も次第に安定していくでしょう。
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2022-08-02
論考 井上陽平