解離は、単なる心理的な問題ではなく、生命の危機に直面したときに心身が取る生物学的な防衛反応です。危険な状況下で、心臓が激しく鼓動しているにもかかわらず、戦うことも逃げることもできない場合、体は「凍りつく」か「死んだふり」をするような状態に入ります。これは自律神経系が関与する防衛メカニズムの一部であり、生命を守るために瞬時に作動します。
この防衛反応は、戦うことも逃げることも不可能な状況で、身体を守るために進化してきた生存戦略です。体が動けない状態に入ることで、外部の脅威から目立たないようにし、危険をやり過ごすことが目的です。しかし、この「凍りつき」や「死んだふり」の反応が長引くと、日常生活に支障をきたすことがあります。特に、トラウマやストレスが引き金となり、意識的にコントロールできない解離状態に陥ることがあり、これが病的な解離として現れます。
病的な解離に苦しむ人は、現実から切り離された感覚や、自分自身がどこか遠くにいるような感覚を経験することがあり、これは脳や体が極度のストレスに対して適応するための防衛反応として機能しているのです。この現象は、危険を避けるための一時的な反応として役立つこともありますが、長期的には心身のバランスを崩し、日常生活に影響を与える可能性があります。
解離症状を抱える人々は、周囲の環境の変化に極めて敏感で、常に次に起こる出来事を頭の中でシミュレーションしてしまう傾向があります。この過度な予測と警戒により、身体は常に緊張状態に置かれ、人前でリラックスすることが非常に難しくなります。危険が迫ったとき、無意識に「凍りつき」や「死んだふり」といった防衛反応が起動し、これが繰り返されることでパターン化してしまいます。長期間にわたってこの反応が持続すると、慢性的な疲労やストレスが蓄積し、最終的には筋肉が固まり、身体が動かなくなることもあります。
解離は、命の危険を感じた際に、戦うことも逃げることもできない場合に生じる、生物的な防衛反応です。特に虐待など、逃れることのできない環境に置かれた人々は、過度の緊張や疲労が続くため、この不動状態が慢性化しやすくなります。その結果、身体は常に「凍りついた」ような状態に陥り、感情や感覚が麻痺してしまうのです。こうした状態では、外部からの刺激に対して適切に反応することが難しくなり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
この防衛反応は、命を守るために短期間であれば有益ですが、慢性的に続くと心身に負担をかけ、感情の表出や他者とのつながりが難しくなる要因となります。
長年にわたり苦痛を切り離して生きることで、身体の感覚が鈍くなり、現実から遠ざかっているような感覚が持続します。しかし、心身は常に危険を感じやすい状態にあるため、日常生活の些細な刺激でも過剰に驚いてしまい、解離が引き起こされやすくなります。解離が進行すると、意識が低下し、現実世界から自分が「飛び去っていく」感覚に襲われたり、現実感が薄れたりします。さらには、解離性健忘など、記憶が断片的に失われる症状が現れることもあります。
過度なストレスや苦痛が続くと、体は次第に反応しなくなり、様々な解離反応が現れます。これには、息が止まる感覚、手足を動かせなくなる、皮膚や内臓の感覚が麻痺する、といった身体的な症状が含まれます。また、精神的には空想にふけったり、ぼんやりと一点を見つめたりする状態が続くことがあります。集中力が著しく低下し、日中でも強い眠気に襲われることもあり、極度の解離状態では、身体から自分が離れているように感じたり、声が出なくなったり、周囲の音が聞こえなくなったりすることもあります。さらに、人格が交代し、その間の記憶が失われるという深刻な症状が現れる場合もあります。
解離が起こると、その瞬間に起こっている出来事を忘れてしまうため、無意識のうちに他人に迷惑をかけたり、昨日の出来事を覚えていないといった混乱が頻繁に生じます。また、突然知らない人に親しげに話しかけられたり、足元がふわふわと浮いているような感覚を覚えることもあり、現実がまるで夢の中のように感じられることがあります。このような体験は、自分の人生や日常に対する一貫した現実感を失わせ、深刻な心理的苦痛をもたらします。
解離は、発達初期(胎児期から乳児期、幼児期)に経験したトラウマが、身体の弱さや神経発達の問題と密接に関連していることを理解することが重要です。外傷体験を受けると、人は強烈な恐怖やショックに襲われ、筋肉が硬直し、身体全体が緊張状態に陥ります。特に胸や喉の締めつけ感、頭の圧迫、息が詰まるような感覚が引き起こされ、耐えがたい恐怖や痛みが心身を支配します。このような状況下で、呼吸が乱れ、過呼吸に陥ったり、パニックに見舞われたり、思考が停止し、声が出なくなり、動くことができなくなることがあります。また、離人感に襲われたり、意識がぼんやりしたり、時には目に見えないものが見えてしまうなど、現実感を失う体験をすることもあります。こうした反応は、まるで自分が自分でなくなったような感覚を伴うものです。
外傷を経験した人は、その時の恐怖や痛みが体内に深く刻まれています。そのため、似たような状況に直面すると、瞬時に身体が反応し、筋肉が再び固まり、恐怖やパニックに襲われることがあります。解離状態に陥ると、現実とのつながりが途切れ、自分自身を見失ってしまうことも珍しくありません。これは、外傷が脳や身体にどれほど深く影響を及ぼすかを物語っています。
解離という現象は、生体が極限状況から自らを守るための防衛メカニズムとして重要な役割を果たします。例えば、恐怖によって身体が凍りつくことで、呼吸を一時的に止めますが、無意識に集中力を高めようとしています。また、交感神経が急激にシャットダウンすることで、心臓に過度な負担がかかり、脳が虚血状態に陥るのを防ぎ、命を守る機能もあります。
さらに、圧倒されるような恐怖や怒り、痛みなどの感情や感覚を一時的に切り離すことで、冷静さを保ちながら危険な状況に対処できる能力を高めるという利点もあります。これは特に、PTSDの感覚過敏や身体の痛み、不快感に対処するために機能し、心身を低覚醒状態に保つことで、夢心地のような状態で日常を過ごすことが可能になります。辛い現実の中で、心がすり減ってしまうのを防ぎ、無気力や無力感に陥るのを避け、自分自身の純粋な部分を守り続けることにもつながります。
しかし、解離による感覚の切り離しは、生活の困難が長引く中でリスクを伴います。不快感や痛みを感じなくなることで、本来なら危険と感じるべき状況に留まり続けてしまうことがあります。長期的にこれが続くと、身体にダメージや疲労が蓄積され、それに気づかないまま過ごしてしまうため、後々取り返しのつかない状態に陥る可能性もあります。
自己感覚を麻痺させ続けると、人生に対する行き詰まり感や、現実感の喪失を引き起こすことがあります。感覚の麻痺が続くと、自分が自分でなくなり、依存傾向が強くなり、誰かに頼らなければ自分の存在が保てないような感覚に陥ります。さらに、疲労が蓄積されると、日中に眠気が襲い、半覚醒の状態で過ごすことが多くなり、記憶を失ったり、自分自身のことがわからなくなるという深刻な解離症状が発展することもあります。
解離性障害を抱える人々は、日常生活のあらゆる場面や人との関わりが、トラウマのトリガーとなることがあります。トラウマのトリガーが引かれると、身体がこわばったり、胸が痛んだり、足にウズウズやムズムズといった不快な感覚が生じます。通常、このような不快感や緊張感をストレスとして感じ、体を動かして解消しようとする人もいますが、解離性障害の人は、異なる反応を示します。
トリガーが引かれると、解離が進行することで集中力が低下し、眠気、離人感、ぼーっとした状態、意識の朦朧感、さらには意識が飛んでしまうといった症状が現れます。このような状況では、心と身体が分離し始め、身体が不動状態に近づく前後に、適切なエネルギーの放出ができなくなってしまいます。たとえば、身体が震えたり、揺れたり、発熱するなどの正常な反応が阻害され、心身がストレスに対して適切に回復する機会を失うのです。
通常、健康な人の身体は収縮(緊張)と拡張(リラックス)のリズムを刻むことで、心身の平穏を保っています。このリズムがあることで、緊張した後は自然にリラックスし、ストレスを解消することができます。しかし、病的な解離を抱える人は、身体が慢性的に収縮し、過緊張状態にあるため、その限界に達すると身体が「凍りついて」しまいます。その結果、離人感やシャットダウン、虚脱といった症状が現れ、心と体の正常なリズムが乱れてしまうのです。
解離は、耐えがたい状況に直面した際に、現実から逃れるための防衛手段の一つと言えます。例えば、極度のストレスや恐怖にさらされた時、意識的にその出来事を忘れたり、空想にふけったり、何かに没頭することで気持ちを切り替えることができるのです。このような正常な解離は、脳が持つフィルター機能が健全に働くことで可能になります。健康な人は、頭に入ってくる情報の中から自動的に選択的注意を働かせ、興味のない情報を遮断することができます。たとえば、鍵をどこに置いたか覚えていないとか、電車に乗っている間に考えごとをして、いつの間にか目的地に着いていたというようなことは、誰にでも起こり得る正常な解離の一例です。
一方、病的な解離は、PTSDのような症状によって過覚醒状態にあるため、脳のフィルター機能がうまく働かず、大量の情報が一度に頭の中に流れ込んでしまいます。特に、嫌悪感や不快感を伴う情報に対しては、神経が過剰に反応し、心が混乱したり、気が狂いそうに感じることがあります。病的な解離は、身体反応が過剰となり、脳のフィルター機能が損なわれた状態の中でも、なんとか日常生活に適応しようとするために、身体感覚や現実感を麻痺させてしまいます。そして、頭の中の世界に没頭するか、思考が過剰に混乱するか、夢のような非現実的な感覚に逃避することがあるのです。
このように、正常な解離と病的な解離には大きな違いがあります。前者は心身のバランスを保つために働く一時的な防衛反応であり、後者は過剰なストレスやトラウマによって心と体が慢性的に防衛し続ける状態です。その結果、病的な解離では、現実との接触を失い、正常な生活が困難になることがあります。
解離性障害を抱える人々は、周囲の気配に過敏で、常に過剰に警戒しながら頭の中で大量の情報を処理しています。しかし、嫌なことや苦痛な状況に直面すると、身体が固まり「凍りついた」ような状態になり、解離が起こります。この状態では、表情が虚ろになり、まるで抜け殻のように見えるか、ぼーっと天井の一点を見つめ続けたりすることがあります。中には、解離中に人格が交代する人もいます。
解離している間、心は現実の世界から離れ、頭の中で別の安全な場所に逃避します。例えば、深い森の中や海底といった安心できる空想の場所に行くことで、現実の苦痛やストレスから自分を守ります。こうして、解離性障害の人々は日常生活の中で嫌悪感や苦痛を切り離すことができるため、非常に辛い経験をしていても、まるで何も問題がないかのように日常生活を送ることができます。外見上は、あたかも平穏な生活をしているように見えることがあるのです。
しかし、実際には、心も体も深刻な苦痛に苛まれていることが多く、その結果として体調不良に悩まされます。高熱、頭痛、腹痛、アトピー、喘息、慢性疲労、疼痛などの身体症状が頻繁に現れ、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。心と身体が分離した状態で生き続けることは、健康を蝕み、解離という一時的な防衛反応が長期的にはさらなる苦痛をもたらすことになるのです。
解離性障害を抱える人は、家や学校、職場などの狭い空間で苦手な人物と一緒にいると、頭の中がぼんやりとする解離症状が現れます。解離が起こると、苦手な相手の存在があまり気にならなくなり、その場の不快感が薄れるため、表面的には平静を保っているように見えます。しかし、解離状態が解除されると、頭がクリアになり、遅れてイライラや不快な感情が湧き上がってくるのです。これは、解離によって一時的に感情や苦痛を切り離しているため、実際の苦しみが後から現れてくるからです。
過酷な環境に長時間さらされ、心と体が限界を超えると、徐々に麻痺状態に陥ります。苦痛を感じないように防衛するため、感情が鈍くなり、生きている実感が次第に失われていきます。時間感覚も薄れ、現実世界とのつながりが喪失され、まるで自分が存在していないかのように感じることもあります。この状態は、外から見ればあたかも正常に見えるかもしれませんが、実際には心と体が「凍りつき」や「死んだふり」の状態に陥っており、体内に莫大なエネルギーが滞っているのです。その結果、自分自身を見失い、自分が誰であるかさえ分からなくなる感覚が生じます。
解離性障害は、外的なストレスや不快な環境から自分を守るための一時的な防衛反応であり、表面上は正常に見えるかもしれませんが、その裏には深い苦痛が隠されています。長期的には、心身のエネルギーが滞ることで、さらに大きな不調を引き起こし、自分自身とのつながりを完全に失う危険性があります。
外傷体験が繰り返された被害者は、恐怖に凍りつき、身体が動かなくなり、生きている実感が麻痺していきます。この時、まるで現実とは違う場所にいるような感覚に襲われ、意識が朦朧としたり、飛んだりすることがあります。そして、自分自身が耐えられない苦痛を避けるために、代わりに苦しみを引き受ける人格部分が無意識に作られます。このようなプロセスを経て、痛ましい形で人格が解離し、心と体の分離が進んでいくのです。
解離症状が重くなると、感情そのものが消えてしまい、何も考えられなくなります。被害者はまるでロボットのように硬直した状態で、日常生活のルーティンをこなしているかのように見えますが、身体は完全に疲れ切っています。怒りや苦しみ、喜びといった感情が感じられず、身体に力が入らず、内面から湧き上がってくるエネルギーも消耗してしまいます。時間の感覚も曖昧になり、最近の出来事や何をしていたかさえ覚えていないという異常事態が起こります。
日常生活の中で、突然眠り込んだり、記憶が飛んだり、昨日や先週の出来事が思い出せないことが頻繁に起こるようになると、被害者は現実世界とのつながりを失い、自分自身の感覚も希薄になってしまいます。こうした解離の症状は、外傷体験からの深い影響を物語っており、心と体がどれほど強いダメージを受けているかを示しています。
解離性障害を抱える人は、人格が増えていくと、どれが本当の自分なのか分からなくなり、様々な自分が入り混じった感覚に苦しみます。自分自身がただ生かされているだけのように感じ、明確な「自分」という存在が見えなくなってしまいます。一人になると、社会的な役割や他者とのつながりが無くなるため、何をしていいのか分からず、記憶に残らないことも多いのです。相手がいないと自分が成り立たないため、一人でいることが不安や混乱を引き起こし、自分自身を見失ってしまいます。
日常生活の中で脅威やストレスにさらされることが続くと、解離が頻繁に起こり、気持ちや思考、行動のコントロールが難しくなります。この結果、強い混乱を抱えた状態になり、自分を守るために身近な人に怒りをぶつけたり、自傷行為や衝動的で危険な行動を取ることがあります。解離は、外部からの脅威やストレスを和らげる防衛反応ですが、その代償として、日常生活や人間関係に大きな混乱をもたらすのです。
特に、解離性健忘が生じている場合、自分が知らないうちに様々な出来事が起こり、その間の記憶が完全に欠落していることがあります。自分の経験に連続性がなく、意識を失ったかと思えば、突然現実世界に戻され、その間に何があったのか全く理解できない状況に陥ります。こうした状態では、記憶が欠落している間に行った行動に対して強い恐怖を抱くことがあり、時にはその責任を周囲の人々に押し付けてしまうこともあります。
解離性障害は、自分の記憶や行動に対する連続性が失われ、現実感を保つことが困難になる障害です。この状態が続くと、自分自身を見失い、深い孤独感や混乱を抱えるようになります。解離のサイクルを理解し、適切なサポートを受けることが、生活の安定と自分自身との再接続に不可欠です。
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2019-11-14
論考 井上陽平
発達早期にトラウマを負った子どもは、人の視線が怖く、人に注目されるのが嫌で、息を潜めて低覚醒で過ごすタイプがいます。彼らは、学校では問題行動を起こさず、誰にも迷惑をかけない存在として放置されます。
凍りつきの美を維持するのは、無理をせず、周りを完璧に固めて、静かな状態で、凍りついて眠ります。顔の表情や目、鼻、口、喉の筋肉が引き締まり、美しさが氷のなかで凝縮された結晶となり保存されています。
自己感覚が喪失すると、身体や情緒、時間の捉え方や思考に影響が出ます。自分が自分で無くなるという感覚に襲われる病で、解離性障害や離人症・現実感喪失症、複雑性PTSD、解離性同一性障害の方に見られます。