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解離性障害のカウンセリング


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▶適度の解離と病的解離

 

解離症状には、適度の解離と病的な解離があります。適度の解離は、安全感がベースにあり、消化や排泄、睡眠、生殖機能、リラックス、休息などの働きがあります。幼少期の親子関係にこじれても、ストレスや緊張から守り、不安や恐怖、痛み、怒り、焦り、恥辱などの葛藤が過剰にならないようにしてくれます。また、頭の中が外の世界の情報で溢れ返らないように、フィルター的な役割を担ってくれています。つまり、適度の解離は、強い刺激を処理する際に、自動的に感覚を遮断させ、自分を守るものとして人間に備わっている自然な反応であり、現実世界のストレスや疲れを癒して、生活全般の困難を引き下げます。

 

一方、病的な解離は、脳が危険や脅威を感じて、身体の過緊張や凍りついた状態が続きすぎたために、集中力や注意力が低下して、眠気が強くなります。その限界を超えると、シャットダウンを起こして、自分が自分でいられる感覚が弱まり、生き生きとした世界が枯渇します。病的な解離がある人は、外の世界を警戒していて、危険が迫ってくると、肩や顎、腕は、自分を守る準備を始め、頭や顔、喉、胸、背中、胃、腸は締めつけられるような痛みがあり、自分の足音を忍ばせます。恐怖や危険を感じる場面では、凍りつきや死んだふりの状態になり、身体が動けなくなって、意識がボーッとした状態から気を失うことまで起こります。自分の心を打ち砕くような体験をすると、虚脱状態に陥り、心拍数が落ちて、血の気が引き、気持ち悪くなり、手足の筋肉は脱力して、背中が曲がり、頭の働きも鈍くなって、心と身体がバラバラになります。

 

▶解離症状と日常生活の困難

 

人は長年に渡って、危害を加える人物といながら、相手に合わせて、我慢することが当たり前の環境にいると、戦うことも逃げることもできず、本来取るべき行動が取れないため、身体の中に中断された闘争・逃走反応を閉じ込めることになります。身体は潜在的な脅威を感じるたびに、凍りつきや死んだふり(擬死)のような状態になり、莫大なエネルギーを滞らせて、交感神経や背側迷走神経(原始的神経)の支配下に置かれます。常時、警戒心が高くなり、ガチガチに凍りついた身体でいると、疲労は蓄積されていき、ストレスと戦うホルモンは不足し、痛みや炎症を引き起こします。そして、頭や首、肩、背中、全身に痛みが伴う線維筋痛症や、エネルギーが尽きて慢性疲労症候群、胃腸が炎症を起こして過敏性腸症候群、奥歯を噛み締めすぎて顎関節症になるかもしれません。

 

解離症状(離人症)をある人は、不安や恐怖が高まり、嫌な記憶が蘇ると、身体が硬直して、原始的な防衛システム(背側迷走神経系)が作動します。そして、喉や胸が詰まったようになり、肺やみぞおちには固いものがあって、身体が凍りつくか、シャットダウンが起きます。この時、様々な症状のようなものが出てきます。例えば、呼吸のしづらさ、動悸の激しさ、身体の痛み、頭痛、腹痛、めまい、吐き気、過覚醒、不動、麻痺、離人、死んだふり、機能停止、自暴自棄、崩れ落ちるなどがあります。

 

身体の痛みや不快感により、身体が凍りついていきますが、それを感じようとしても、凄い眠気に襲われるか、集中力が途切れるか、死んだふりをします。日常では、ストレスや不快感、痛みを感じなくさせたり、怒り、恐怖、悲しみ、恥辱などの感情を切り分けたりが可能になり、生活全般を平然とやり過ごすことができます。しかし、本当の部分は、とても苦しかったり、辛かったりします。いつのまにか長期に渡るストレスに気づけず、何も感じない状態でいると、体調管理が出来なくて、心身の不調に気づけないことが起きます。また、硬く凍りついた身体で無理をしていると、硬くて痛みだらけの体になるという危険性があります。最悪、痛みの強さで、身体は収縮して固まり、姿勢を変えるだけで痛みを発し、痛みで眠ることができなくなり、全身は冷たくなって、生きる屍のようになります。

 

病気としての解離症状を抱えていても、外界からの精神的ストレスが少ない状況では、胸がザワザワすることもなく静かに、心を落ち着かせて、日常生活を営むことができます。しかし、人格交代をせざるを得ない状況になると、表に出て恐怖に震えてしまった人の心は凍りつき、固まるように閉ざされてしまって、自分では全く統制が出来ないようなひどい錯乱状態に陥ります。解離性障害または解離性同一性障害での人格交代という現象は、身に危険が差し迫った環境のなかで、身体を防衛的な人格に明け渡して、意識が朦朧とした自分を保てなくなるというあいまいな自己状態によって生じます。

 

治療を受けることで解離性同一性障害の人格交代という現象が無くなる人もいれば、10年経っても無くならない人がいます。一般的には、経済面の不安とか暴力が減って、いつ死ぬか分からない状態から抜け出すことで、内なる交代人格が眠りにつき、自然に統合されていくことがあります。また、主人格に生活スキルがあって、日常生活でのストレッサーが無くなり、無理をしなくてもよい環境に変えていくことで、体が固まらなくなり、人格を交代する必要が無くなります。

 

▶当相談室の取り組みとしては 

 

どもの頃からトラウマを繰り返し受けてきた人は、心のほうが身体のしんどさや痛み、不快感、恐怖、怒り、悲しみに気づかないようにトリックをかけています。意識が外側に向き、日常的に過緊張状態で過ごし、危険を感じて身体が凍りついていくと、身体の各パーツが麻痺するか、離れ離れになり、解離症状や離人症、現実感喪失症が出ます。解離症状が悪化すると、時間の流れが分からなくなり、心の成長が止まって、生活経験を一つ一つ積み重ねていくことが出来ずに、意味を持つ自分という歴史を作れなくなります。このように自分が自分でいられなくなり、自分のことがよく分からなくなっている方へのカウンセリングは、言葉のみの交流ではなかなか上手くいかないものです。

 

当カウンセリングルームでは、心を使って、身体の生理的変化を見ていくことにより、心身を一致させて、身体の痛みや凝りを解すことができれば、健康度が高まり、心も自然と回復していくようになります。また、環境調整してストレス要因を取り除くことを提案したり、周囲のサポートする人の理解を深めたり、休養して心身を落ち着かせる方法を学んでもらいます。カウンセリングでは、身体志向アプローチやマインドフルネス瞑想、呼吸法、イメージ療法、演劇療法、音楽療法、スピリチュアリティを取り入れながら、セラピストとの間で浮かび上がるこころや身体、感情に触れていきます。さらに、希望があれば、課外活動とか生活サポートを併用して実施し、過去のトラウマの未解決な行動に取り組んだり、人が一つ一つの実際の体験の中で、「私は私であり、私が世界につながっている。」と実感を持つことができる支援が必要であると考えています。また、解離による人格交代や意識変容、対人恐怖、気配過敏、身体症状が生じている混沌のなかで、どうやって生きていけばいいかを話し合って解決していきます。

 

当カウンセリングルームの独特な方法としては、シャーマニズムや自然崇拝の視点を取り入れています。身体が凍りついている人には、その縮まった身体を緩めるために、シンギングボウルやお香を使っていきます。これは心地よい音を耳で聞き、匂いを鼻で嗅ぎ、自分の五感をフルに使ったうえで、立った姿勢で口の開け閉めをするか、手足をブンブンと動かしていくと、身体の麻痺が取れて軽くなります。また、長年に渡るトラウマの影響のせいで、気配過敏や体内過敏があり、憑依体質の解離性障害の方には、自然の中には精霊がいて、自分は守られているという物語を作っていきます。そうすることで、外の気配や影に対しての恐怖がスピリチュアルな体験に変わり、ストレスが軽減されるために、社会のなかでそれなりの活動ができるようになります。気配に過敏な人は、自分の今いる空間を否定的に見るのではなく、肯定的なイメージを与え、さらに自分が良いものを演じることで、自分自身を変化させれます。

 

また、神々のイメージを思い浮かべて、身体を伸ばしながら、深呼吸する瞑想を行って、トラウマによって刻み付けられた身体の苦しみと闘争していきます。そして、苦しみの限界に近づいたとき、人はトラウマの中で凍りつきますが、神々の愛の中で目覚めて、その安堵感から涙が溢れていき、固まり閉ざされてしまった心と身体が柔らかくなります。神のイメージがしっくり来ない人には、赤ん坊を抱きしめているイメージや母親の温もりのなかで抱きしめてもらうイメージ、恐ろしい動物に襲われてそこから逃走を成功させるイメージ、恐怖の対象を思い起こして打ち倒していくイメージ、懐かしい風景を思い出すイメージ、頭の中で好きな音楽を流すイメージなど、その人に合ったイメージを探して、身体の凍りつきを溶かします。

 

まずは、カウンセリングルームのなかで、立ったり座ったりする姿勢を取り、目や口、肩、手、足などのパーツを動かして、身体をじっくりと観察していくことから始めます。身体の不快な感覚、感情、凍りつき、無力に脱力した部分に気づいて、その部分に意識を向けて、あくびをせずに、身体の内から震えや揺れ、吐き気、熱、不随意運動などの自然治癒力を引き出します。うまくいくと、解離する前の自分に戻り、全身の力が抜けて、体全体が軽く、ポカポカするでしょう。このように身体のパーツを動かしながら、筋肉の緊張と弛緩を繰り返して、心身のバランスを整えることに時間を使います。次に、セラピストをアシスタント役にして、自分の内なる世界から浮かび上がるイメージや空想を用いて、その世界を旅していきます。自分が理想の役を演じながら、自分の守りとなる美しい風景のイメージや身の危険が差し迫るようなイメージの間を行き来したりします。ある程度、イメージや空想のなかで遊ぶ心の余裕が出てきたら、ゆっくりと耐えられない痛みに近づいていきます。そして、自らが意識的に望みを捨て、自発的に身体が動けない状態に入り、その感覚を体験しつくすことで、自分を支配している存在(あいつ、親、加害者、自分自身か、別の言い方では、原始的な神経の働き)から抜け出ることが可能になります。

 

▶解離性障害、解離性同一性障害の方へのアプローチ方法

 

トラウマの症状というのは、本人の意志(心)の問題で起きているわけではなく、頭では分かっているのにできないから苦しみになります。トラウマの問題は、進化生物学や神経生物学的な身体的要因で生じており、それが心に影響を及ぼします。そのため、対話のみの心理療法ではなく、トラウマや解離症状には、安心できる環境作りと心身両面に直接作用するアプローチが求められます。トラウマにより、その奪われた力を取り戻す方法としては、マインドフルネス瞑想やソマティックエクスペリエンスなどの身体志向アプローチが有効です。特に、子どもの頃から複雑なトラウマを負っている人の場合は、過去のトラウマ体験を話して、感情を発散するカタルシス療法を行うのと同時並行して、宇宙飛行士がするような訓練を行います。

 

この訓練では、ソマティックエクスペリエンスの理論を用いて、不快な感覚や感情に向き合いながら、解離を使わずに現実に対処できるようにしていきます。そして、今ここでの身体感覚、行動、頭に浮かぶイメージ、感情に焦点を当て、凍りついた身体をケアして、自然体で生きれるようにします。治療がうまくいくと、人間の最も洗練されたシステム(トラウマの不動状態から愛の不動状態)が働き始めて、オキシトシンの効用により、頭と身体がスッキリし、身体の様々な感覚や感情、イメージ、記憶が思い浮かんでくるようになります。そして、その思い浮かんだことを、あんなことやこんなこともあったと正直にセラピストに話していって、自分の健康状態を高めます。

 

▶アプローチすることでしんどくなる人も

 

トラウマから回復する過程において、自分の身体に意識を向けて、正常な身体を取り戻すことをしますが、頭(心)と身体を繋げていくと、身体に刻まれたトラウマの痛み、渦巻く感情、心の空虚さ、過敏さ、不安、気持ち悪さ、身体の不調など、今まで見て見ぬふりをしてきた部分を見つめていく覚悟が必要です。性的虐待などの到底耐えられないようなトラウマを持っている人の場合は、身体に向き合うと、フラッシュバックして、手足が勝手に動き出す、悲鳴をあげる、体中に電撃が走るなど反応が凄まじくて、恐怖に圧倒される可能性があります。また、頭と身体が合致すると、嫌な場面では、頭のセンサーが過剰に働いて、過覚醒になり、不安や警戒、落ち着かなさ、過敏さ、人の気持ちを読む、強迫観念が出てきます。さらに、怒り、悲しみ、苦しみ、恥ずかしさなどの負の感情が大きくなりすぎて、心臓が痛むとか、動きづらくなり、日常生活に支障をきたすかもしれません。頭と身体を合致させるかどうかは、本人に判断してもらって、離人や解離した状態で生活していくのも選択肢の一つになります。

 

▶解離性障害、解離性同一性障害の治療の段階

 

治療の段階として、自分の身体をしっかり観察していくことから始めます。常に身体が凍りついて、自分の身体の感覚が分からなくなっている人には、呼吸法やヨガ、瞑想、イメージ、空想、演劇、ストレッチ、タッピング、運動などを取り入れて、凍りついた部分をケアしていく必要があります。そして、身体の中に安心という言葉の意味をしっかり持てるような安全な感覚を発掘して、自分の身体に意識を向けられるようになると、心と身体が一致するようになり、解離や離人を解消させます。最初は、身体が凍りついて、心と身体が離れている離人状態の人には、自分の手足に振動を伝える器具(スムービーリング)を振り回して、自分の身体の動きや感覚に意識を向けていき、集中力や注意力を高めます。体を動かし、全身に振動が伝わることで、リラクセーション効果もあり、血流が良くなって、実感が戻ってきます。次に、身体の中からいろんな感覚が出てくるので、楽な姿勢を取り、空を飛んでいるイメージや美しいイメージ、赤ん坊やペットを抱きしめるイメージ、実際に人形を抱きしめてみるなどして、心臓の鼓動や胃腸の状態、筋肉の緊張と弛緩を見ていきます。また、安心できる記憶や望ましい記憶、幸せなイメージを思い浮かべるとか、心地良くリラクセーションの効果の高い音楽を聴いて、全身の身を委ねていき、リラックスした状態に持っていって、内なる身体感覚の変化に注意を向けていきます。

 

その後に、身体の安全基地が見つかったら、そこをホームベースにして、身体の緊張や不快感、防衛的態度に気づきを深めていって、凍りつきや死んだふり(擬死)、虚脱のトラウマとの間を振り子のように行き来します。筋肉が極度に弛緩している人は、ヨガなどで使う難しい姿勢を取ったり、うずくまって筋肉を収縮させてから弛緩させる手順を取ります。深刻なトラウマがある人ほど、苦しい状態を耐え忍ぶと、身体がガクガクブルブルと震え始めるので、それを全身に波及させていき、身体の凄まじい緊張をほぐします。また、緊張した部分に意識を集中させて、どんどん緊張が強まることを想像してもらって、実感を伴わせるか、表現したいように身体を動かすことで、身体の固い部分がほぐれて、可動域が広がります。また、身体の感覚が麻痺している人には、暗い穴の中で一休みしてもらいます。そして、休んで目が覚めた後に、周囲を見渡すように目を動かしてもらって、その時の身体の声を聞いていき、自分の身体を動かしたいように動かして、筋肉を使います。一通りうまくこなせれば、収縮しようとする力が働くので、血液が巡り、筋肉が感じられるようになり、自分の身体の感覚が戻ってきます。

 

治療の到達目標としては、安全なカウンセリングルームのなかで、身体を騙すか、直接向き合うかして、トラウマティック状態を再現し、身体の反応に着目します。そして、自らが望みを捨てた不動状態の中に入り、凍りつきや死んだふりした状態の身体感覚に馴染んで、そこからの覚醒(警戒と攻撃性)を恐れず、身体の生理的反応の変化を実感しながら、耐え忍んでいくことで、人間本来の自然治癒力が発揮されます。人が恐怖の中心に向かえば向かうほど、激しい情動と痛みに凍りつきますが、と同時に、身体の中心から燃え盛るような熱が出てきます。極限の状態のなかで、気を失いそうになりながらも耐え続けると、身体が震え始めて、筋肉や脊髄、扁桃体などに滞っている莫大なエネルギーが解き放たれ、全身が広がります。

 

▶解離性障害、解離性同一性障害の治療効果

 

全身が適度に広がると、身体の中に安心感が感じられるようになり、深い呼吸が吸えて、背筋も伸びていって、自分の身体と仲良くなれます。そして、自分の身体を許容できれば、自分の内なる感覚に対しての恐れが無くなり、地に足をつけてしっかり現実を生きること(グラウンディング)ができるようになります。治療後からしばらくの間は、身体が良い感じで力が抜けて、ある程度リラックスした状態で過ごせます。しかし、注意点としては、日常生活に戻り、一定の時間が経つと、恐怖や警戒心が身体に染みついているので、次の脅威に備えてしまって、元の過緊張や凍りついた状態に戻ります。

 

そのため、このようなセッションを何十回と行って、こころや身体に反応を引き起こし、凍りついたトラウマを緩めては、元に戻って、戻っては、少し進んでを繰り返します。トラウマから解放されるときは、全身が凍りつき、麻痺している状態の中で、震えるか、鳥肌が立つか、熱くなるか、痙攣するか、涙が溢れて、身体中の凄まじい緊張がほどけます。セッションにおいて、身体内部が安心感に変わると、神経システムが平衡状態になり、様々な心身の問題や原因不明の症状が改善されていきます。筋肉が緩んで、内臓感覚が変わっていくことで、トラウマティックな脳や身体の神経も徐々に変化していきます。また、観察者の私や身体の内部で縮こまっている私から、誰かに見られている私やこの現実世界に存在している私に変容することが可能になります。

 

セッションをこなしていくことで、息がしやすくなり、ストレスへの耐性が強まり、覚醒度の耐性領域も広がり、自分が自分でいられるようになって、生活全般の困難に対処できるだけのメンタルが鍛えられます。さらに、内なる感覚とイメージ、感情、思考の間を行き来することで、理性脳と情動脳の繋がりが活性化し、本来の自分の感覚を取り戻していきます。また、随分と落ち着いて、薬を使わず眠れるようになり、爽やかな表情に変わっていきます。その後、セラピストとの対話を通して、意味付けや思考していくことで、自分の否定的な物語を肯定的な物語に書き換えて、新しい自分に生まれ変わることが出来ます。望ましい自分のイメージが出来上がり、自分のペースで生きれるようになると、体質も大幅に改善されていきます。

 

▶治療の難しさや注意点

 

凍りつきや死んだふりの不動状態に入るには、自分の身体と向き合う勇気や自分の症状を治したいというモチベーションが必要です。怖がりな人ほど、恐怖に向き合うと、身体が固まってしまうことや、息苦しくなること、血の気が引くこと、感覚が麻痺していくことなどに恐怖を感じます。また、解離が重い人ほど、途中の段階で、脳や身体の神経が危険を察知し、死んだふりモードに入るか、虚脱してしまうか、強い眠気が出るか、集中力が切れてしまうために、心と身体がすぐ離れてしまい、なかなか先に進めなくなるかもしれません。また、線維筋痛症で全身が完全に固まって、痛みばかりの人には、身体に注意を向けていくことを指示しても、痛みがさらに身体を収縮させていくという結果になり、思うようにいきません。さらに、トラウマが重症化して、既にエネルギーが枯渇してしまっている人は、イメージが出来ずに、身体も反応しなくなっているので、トラウマのコアの部分を変化させることが難しくなります。

 

治療上の注意点としては、解離や離人感が消えていくと、心と身体が元に戻って、過去の自分のしてきたことに気づき、しんどくなるかもしれません。また、自分の感覚が戻ってくるために、現実世界の次々に起こる変化に対してついていけなくなり、身体の痛み、不快な感情、過敏さ、不安、緊張が強まるかもしれません。今までは、身体を麻痺させて、半分眠っているような低覚醒状態でしたが、治療が進むと、無力な状態と過覚醒の間を行き来するようになり、本能的な攻撃性や希死念慮に悩まされるかもしれません。また、回復過程にある人が、身体に焦点を当てることで、本来の自分に戻りますが、そのせいで恐怖や無力感から家に引きこもることもあります。さらに、自分のありのままの感情を出してしまうことで、周りに迷惑をかけてしまうことがあり、そのため、社会に許容される範囲で表現する必要があります。

 

過覚醒時は、呼吸が浅く早くなり、警戒心から、周囲に脅威がないかどうかを探って、人の気持ちを読み、細かいところまで気にするようになり、緊張や恐怖、イライラ、モヤモヤ、ムズムズ、痒みが出て、日常生活がスムーズにいかずに、しんどくなるかもしれません。この状態の時は、ストレスを感じている自分の身体に注意を向けて、その感覚の変化を見ていくワークを行います。まずは、不快な感覚をすぐに切り離して、動いてしまうのではなく、好奇心を持って、身体の怠さや疼き、不穏な気配を感じていきます。そうすると、身体の中の不快感が塊になり、凍りついていきます。そして、過覚醒から凍りつく一連の流れを理解して、そこから凍りつきや離人状態の身体をほぐしていって正常に戻すワークを行い、自己調整スキルを高めます。また、日常生活の中で、トラウマのトリガーを引いて、ムズムズやウズウズしてしまう過覚醒のときは、自分を落ち着かせるポーズを取って、心拍数を下げていくか、足を思いっきりあげて走る運動をして、心拍数を高める動作により、全身に血液が巡って、過覚醒からの凍りつきの症状を防いでくれます。さらに、普段から身体の声を聞きながら全身を動かしてすっきりできるようにする訓練や、楽な姿勢を取って全身の力を抜く訓練、呼吸法、自律訓練法、筋弛緩法が役立ちます。それ以外にも、立った姿勢で顎を下げて、口の開け閉めをして、身体の内部を意識的に探索していくと、震えや揺れ、熱など自然に回復していく力が引き出されて、人と安心して繋がれる社会交流システムが働きます。また、脳や身体に意識を向けて、様々な感覚や気配に馴染み、心地良い気持ちで過ごすことが得意になれば、身体がリラックスしていきます。

 

▶解離性障害、解離性同一性障害の治療のまとめ

 

治療の方法をまとめると

①環境調整してストレス要因を取り除き、安心・安全感の獲得が最重要です。生活全般のストレスや不安、恐怖が強いと解離症状は良くならず、悪化します。日常生活のなかでは、ストレスに気づき、自己調整して、自分自身をケアしていかなければなりません。

 

②カウンセリングでは、人と話すことに幸せを感じてもらうとか、良い体験をしてもらうことに比重を置き、望ましい自分になっていて、この世界に対するイメージを変えていって、自分の人生の物語を書き換えていきます。また、状況を適切に認識できる力をつけて、置かれた状況をそれなりに対処できるように考えていきます。

 

③解離症状がある人は、心と身体が一致せずに、麻痺した状態にあるため、身体的アプローチがスムーズにいきません。まずは、スムービーリングを使い、身体に振動を伝えて、身体の感覚や動きを脳で認識していきます。心と身体を一致させてから次の段階に進みます。

 

④解離症状や身体への不安をソマティックエクスペリエンス(身体志向アプローチ)で対応します。これはNASAの宇宙飛行士がやっている訓練です。過緊張と不動、麻痺の間を行き来している低覚醒の人が、自分の身体を凍り漬けにして、交感神経と原始的神経を拮抗させて、さらに副交感神経を活性化させます。人間の進化の過程において育まれた神経系の働きを全て体験しつくして、身体の生理状態を高めて、統合的な自己を作り出します。神経系に滞っている過剰なエネルギーを解き放ち、徹底した力強さを手に入れることで、防衛的態度が消え去り、緊張とリラックスの間を行き来できるようにしていきます。

 

以上により、解離症状のある人は、今までの間、我慢に我慢を重ねて、身体が凍りつき、闘争・逃走のエネルギーのせいで膨れ上がるか、虚脱して衰弱する傾向にありましたが、その蓄積されたエネルギーを解放させることで、逞しい肉体とスピリチュアリティに変容することが可能です。そして、セッションを繰り返すことで、虚脱への対応や、凍りつきにくい身体を手に入れ、緊張とリラックスの間を行き来できるようになれば、対人緊張が減って、落ち着いて人と話せるようなり、頭の働きが良くなります。また、警戒して周りにしか注意が向けられなかったのが、自分自身に注意を向けれるようになり、集中力やモチベーションも高まります。今までは胸や喉が締めつけられるような痛みがありましたが、耐えられる痛みに変わっていき、私は今ここで生きている、私はこの世界と繋がっているという現実感を取り戻していきます。その結果、心と身体が再び出会って、本来の姿を取り戻します。フラッシュバックしにくくなり、過去に引きずりこまれることも少なくなり、嫌なことがあっても振り回されなくなります。目標としては、心身の症状が必要なくなるくらいに自分を取り戻し、力強さを得て、日常生活が自由に送れるようになることです。そして、外の世界の人々と繋がり、喜びを分かち合えるぐらいの状態に持っていくことです。目標が達成されると症状により自分を覆っていた防衛が取り去られ、表情がやわらかくなり、自分に優しくといった変化が起こります。

 

①自分を病気だと認識できるようになる。

②自分の中にいる人格の存在を受け入れられるようになる。

③自分が生きていても良いと思える。

④病気と向き合い、前向きな気持ちで人生に関わる。

⑤少しずつ、人間らしい感覚や感情を取り戻す。

⑥今より元気になる。

 

 

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論考 井上陽平