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PTSD・心的外傷後ストレス障害


目次

 

1.PTSDとは何か

(主なPTSD症状、侵入、過覚醒、回避)

2.外傷体験後の人格形成の影響

3.外傷体験後の精神/身体疾患

4.心的外傷後の成長

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第1節.

PTSDとは何か


PTSDは、心的外傷後ストレス障害(PostTraumatic Stress Disorder)とも呼ばれます。PTSD(心的外傷)では、人が外傷体験を負い、生命を脅かされたり、尊厳を踏みにじられたりするような経験をして、その時の強い恐怖が、心の傷跡としてその後の人生を支配します。人は生死に関わるような経験をすると、恐怖や戦慄の衝撃に圧倒され、体の神経はその衝撃についていけず、心的機能(脳と身体の神経、筋肉、内臓、免疫系、内分泌系)に莫大なエネルギーが滞ります。

 

人は外傷体験から生き残れても、体の中に莫大なエネルギーを滞らせて、ショックに凍りついてしまうと、恐怖、麻痺、再体験、過覚醒、パニック、不動化、機能停止、虚脱、離人感、無力感、希死念慮、認知と気分の陰性の変化、身体症状、体調不良などの症状が続きます。そして、その体験から何年経っても、当時のことを繰り返し思い出して恐怖に襲われたり、悪夢を見たり、似た状況を極度に避けたりして日常生活を困難にする病気がPTSDです。

 

恐怖や戦慄の衝撃というのは、人により違います。同じことがあっても、こころに傷跡が残る人と残らない人がいます。ある人にとって、こころに傷跡が残っている状態をトラウマと言います。PTSD症状は、生命が脅かされる体験だけでなく、長年に渡る家庭内のネグレクトや心理的虐待でも起こりえます。また、対象に見捨てられる体験や周りの人間に振り回される体験、仲間を助けられない体験、取り返しのつかない失敗体験など様々です。

主なPTSDの症状は


①侵入症状

トラウマとなった出来事に関する不快で苦痛な記憶が突然蘇ってきます。また、悪夢として蘇ることもあります。トラウマが思い起こされたときに気持ちが不安定になったり、身体の反応に変化が出ます。

 

②回避症状

トラウマの出来事を思い起こしたり、考えたりすることを極力避けようとします。思い起こされる人物・場面・場所を避けようとします。

 

③認知と気分の陰性の変化

ネガティブな認知、興味や関心の喪失、周囲との疎隔感や孤立感を感じており、ポジティブな感情が持てません。

 

④覚醒度と反応性の著しい変化

苛立ち、自己破壊的行動、警戒心過剰、些細な刺激にもひどくビクッとするような反応、集中困難、睡眠障害がみられます。

侵入症状(再体験)


人は生命が脅かされるような出来事を体験したあと、生物学的な脳や身体の仕組みから、トラウマ体験そのものだけでなく、それを想起させるような光景や匂い、音、声、感覚、感情などに対して、身体が過敏に反応するようになります。特にPTSDの人の日常生活を疲弊させるのが、過去の忌まわしい体験が繰り返し蘇ってくる再体験症状(フラッシュバック、悪夢、パニック発作)と言われます。フラッシュバックが生じているときは、苦痛に悶えながら、左脳はほとんど機能しておらず、言葉にすることができないので、その出来事を客観的に分析したり、自分の物語の一部として見ることが出来ません。

過覚醒症状


トラウマを受けた人は、脳の扁桃体が危険を察知して、警戒態勢に入り、身体はストレス反応を起こして、ほんの一瞬の刺激に対しても、過敏に反応します。身体は過緊張状態が続き、不安を感じると、動悸がして、焦燥感に駆られるようになり、過覚醒や凍りつきが起きます。PTSDの過覚醒があると、神経は高ぶって、呼吸は浅く早く、動悸が激しく、聴覚過敏や驚愕反応、不眠、ネガティブ思考、恐怖症、身体症状が特徴で、普段から落ち着きがなくなり、すぐに疲れてしまいます。さらに、トラウマが繰り返されて慢性化すると、身体は常に凍りついた状態になり、交感神経と背側迷走神経が過剰な生活にあり、複雑性PTSDや境界性パーソナリティ障害、特定不能の解離性障害になります。

回避症状


ストレスに対して、脳や身体は無防備な状態に曝されており、不安、悪夢、不眠、身体愁訴、緊張、パニック、イライラ、集中力低下など様々な症状が出てきます。また、不合理な攻撃的衝動に振り回されるなど、とても手に負えないという恐怖感に駆られるようになり、恐怖や怒りなどの否定的な感情を抑え込み、強い感情が喚起される場面を避けます。また、原因不明の身体症状から、日常生活が逃げ場のないストレス状況になっていくと、全ての望みは失われ、自分が自分でなくなるのが怖くなり、自分を守るために、あらゆることを避けるようになります。さらに、同じような事件に遭遇することを恐れて、家から出られなくなることもあり、PTSD特有の回避行動に陥ります。

第2節.

外傷体験後の人格形成の影響


外傷体験当初は、再体験、精神機能の麻痺、ちょっとした刺激への怯え、驚愕反応、強烈な情動反応による過剰警戒をとりますが、時間が経過すると自然に回復していくように見える場合も多いと言われます。しかし、PTSDの原因となった刺激が強く、周りのサポートがなくて、逃れることが困難もしくは不可能な状況で、長期的/反復的に脅かされる出来事が繰り返された場合は、複雑性PTSDになっていきます。複雑性PTSDの症状では、①感情のコントロールの難しさ、②トラウマ的出来事に関する物事の捉え方の歪みが生じて、自己否定や無価値観、この世の中に対する不信感、③他者と持続的な関係を持つことが困難に陥ります。そして、脳内(扁桃体の興奮、海馬の萎縮、前頭葉の変化)に永続的な変化をもたらし、自律神経システムが調整不全に陥り、免疫系、内分泌系にダメージを与えます。

 

生死に関わるような外傷体験のショックは、凄い速さで起こるために、身体の神経がその体験についていけなくなります。それ以降、心と身体の神経が分離して、自分ではコントロールできない過覚醒や不随意運動が生じます。外傷体験のショックで、顔の神経が引っ張られるようになり、目の焦点が合わなくなることもあります。身体の神経は繊細になり、外界の刺激に対して過剰に反応し、警戒態勢を敷きます。身体にはトラウマの痕跡が残って、フラッシュバック、悪夢、パニック、過呼吸、チック、トゥレット症候群、ひきつけ、痙攣、驚愕反応、聴覚過敏、気配過敏などの症状に苦しめられます。

 

トラウマの影響を受けると、脳や身体の神経は、素早く危険を察知しすぎるあまりに、脳のフィルターがうまく機能しなくなり、大量の情報が意識に上ります。PTSDの人は、内臓や筋肉が危機を感じているので、頭の中でもこの世界に対してネガティブな認知をして、大量の情報を悪いように捉えます。危機を感じて、ネガティブな見方しかできないので、身体は凍りついたままで、体調不良が出て、解離しやすくなります。また、大量の情報をうまく処理できなくなると、神経が破綻して、突飛な考え、被害妄想、幻覚、幻聴にとらわれることがあります。

 

例えば、人の気配や足音、物音、影から危険を察知するようになり、目をこらし聞き耳を立てた生活が始まります。そのせいで、聴覚過敏や気配過敏が高まり、人口密度の高い都市型生活に疲労しきります。不快な音が苦痛になり、大きな音を出す奴は全員敵のように見えるかもしれません。家の中では、家族関係にこじれるようになり、外では、近隣住民との関係が悪くなります。

 

身体が危険を察知するサイクルにはまり込むと、大脳辺縁系(情動脳)と大脳新皮質(理性脳)のバランスが崩れて、理性的な判断が出来なくなり、思いもよらない行動を起こして、人間関係がうまくいかなくなります。また、人のネガティブな感情をダイレクトに受けてしまうので、恐れや麻痺、怒り、戦慄などの感情体験が繰り返され、他人とは一定の距離を置くようになります。さらに、身体は苦痛だらけで、心と身体の分離が進むと、解離や離人、現実感喪失症が酷くなり、自分のことがよく分からなくなって、トラウマ症状が複雑化します。

 

トラウマが複雑化して、莫大なエネルギー(中断された闘争・逃走)が体に蓄積されていくと、不快な感覚や興奮を残して、次第にその部分は麻痺します。トラウマは回復できないと、その後の人生や健康寿命、人格形成に延々と影響を及ぼします。トラウマの症状は多岐に渡り、自己調整機能が阻害され、傷つくことを避けることによる自分の世界への引きこもり、うつ状態、感情のコントロールの難しさ、メンタライズ機能の低下、否定的認知、移動不自由、身体症状、炎症、痛み、疲労、記憶障害、発達停止、幼児化、無力感、恥、絶望、希望の無さ、敵意、信念の喪失まで様々な性質を見せていくことがあります。

第3節.

外傷体験後の精神/身体疾患


トラウマというのは、心的外傷と言われていますが、実際には脳を含めた身体的外傷であり、そのあと心に傷跡として残ります。最近では、生命が脅かされるほどの重大な体験だけでなくても、深くこころと身体が傷つけられることにより、PTSDのような症状が起こると考えられています。たとえPTSD症状に該当しなくても、トラウマがある人も多くいます。また、PTSDに診断できなくても、病態が軽いわけではなく、機能障害や自己組織化の障害、解離性障害などが病態が重たい場合があります。

 

子どもの頃から繰り返される逆境体験がストレスになり、解離性障害や愛着障害、身体表現性障害、離人症性障害、あらゆる精神疾患(うつ病、不安障害、パニック障害、摂食障害、強迫性障害、睡眠障害、恐怖症、アルコール依存、薬物依存、自傷行為などの嗜癖行動)、パーソナリティ障害、ADHD、発達障害、自殺念慮の要因となることが多いです。また、喘息や心身症、慢性疲労症候群、線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、月経前緊張症候群、化学物質過敏症、トゥレット症候群、アルツハイマー病、自己免疫疾患、がん、糖尿病、心筋梗塞など、その他ありとあらゆる慢性疾患に罹りやすいことが分かっています。

 

さらに、気づかずに放置しているトラウマが、人間関係が長続きしないとか、人を好きになれないとか、職場を転々とするとか、家に引きこもるようになるとか、恋愛や子育て、夫婦生活におけるパターンを形成し、生きづらさの原因になります。トラウマによる恐怖は、汎化という現象によって、さまざまな刺激が過去の外傷体験時の情動や身体感覚、生理的反応、光景、音、匂いなどと無意識に結びつけられ、本来は危険でないはずのものまで脳や身体が危険だと認識してしまいます。そして、不安、恐怖、怒り、痛み、麻痺を引き起こすトリガー刺激が増加していき、長期的な不安、過覚醒、凍りつき、不眠、フラッシュバック、パニック発作、原因不明の身体不調などに悩まされます。この恐怖反応による回避行動がその人の人生を蝕み、本来得ていただろう可能性を奪います。

第4節.

心的外傷後の成長


トラウマを負っていても人間関係が良好で、自分を支えてくれる人が周りにいて、周囲の人に話を聞いてもらい、安全で安心できる環境が整っていれば自然に回復していくものです。また、単発性のトラウマ(一度だけ起きた体験によるトラウマ)で、恐怖による衝撃の程度が高くなければ、前向きに生きている人たちも多く存在します。さらに、トラウマという衝撃を受けることにより、霊性に目覚めたり、より深く人生の意味を考えたり、人間関係の重要性に気づけたり、自己の強さが増したりと傷つきながらも人間としての深みを増す人がいます。そして、現実の耐え難い苦痛に対しても、後向きにならずに、前向きに努力したほうが自分のためと怒りや悲しみを力にして、学術、芸術、仕事、子育て、スポーツ等に励んでいる方もたくさんおられます。

 

「トラウマ後成長と回復」の著者スティーヴン・ジョゼフは、トラウマ体験後の成長の中核には、①不確かさに耐えること、不確かさや有限性を受け入れる力。②マインドフルネス…今この瞬間に意識を集中し、自己認識を深める。③自らが自分の人生の担い手であることを認めること、責任感、自分で選択することを挙げています。

 

また、逆境に対処する場合は、①現実を否定するのではなく、向き合う。②不運に屈服するのではなく、不運に見舞われたことを受け入れる。③自分の運命を責めるのではなく、その後の人生をいかに生きるかに責任を持つことを挙げています。

 

トラウマの治療では、心に焦点を当てたカウンセリングだけでは不十分であり、頭で理解するトップダウンと、身体で体験するボトムアップの二方向から行うのが良く、心身両面に効くアプローチが有効です。まずは、身体と仲良くなり、自分の身体の感覚や感情に気づき、自己知覚を活性化させて、自分が自分であるという感覚を鍛えていきます。そして、自分の身体の繊細な意味合いに気づきを深めて、情動を司る神経系や大脳辺縁系とバランスを取れるようにしていきます。心の方は、自分の心のうちをカウンセリングで話すことで、心理的理解や思考が深まり、落ち着いて過ごせるようなります。トラウマを思い出しても少しずつ気にならなくなり、不確かさに耐えれる心を育てて、自分自身を肯定できるようにしていきます。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-05-24

論考 井上陽平

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トラウマアプローチ

トラウマの対処法は、自分のトラウマ体験をたくさんの人に話すことが良いです。親やパートナー、友人にたくさん話して、その出来事に対して距離を置いて見れるようにすることで、心身の苦しみが軽減されます。

トラウマの正体

トラウマは、捉えどころがなく、体や心のどこに潜んでいるかわからない不可視なものでしたが、今では、過去のトラウマの経験が体のどこかにあり、恐怖に関連したことが蘇ると、体が硬直していく現象です。

凍りつくトラウマ

凍りつくトラウマは、予期せぬ出来事に巻き込まれ、戦慄の衝撃を受けて、体がギュッと縮まり、凍りつき、体にエネルギーが滞ります。災害救援の方からは、凍りつき症候群と言われており、ありふれた症状です。


崩れ落ちるトラウマ

崩れ落ちるトラウマは、恐ろしい目に遭わされた人に見られますが、命の危機に曝されたときに、逃走に失敗し、無力な状態に陥った後にも、執拗に攻撃を受けて、崩れ落ちていく最重度のトラウマ反応です。

トラウマの深い闇

闇が深い人は、生きているか死んでいるかも分からなくなり、自分の中心が空っぽ、自分の感覚が掴めなくて、実存の中心が空虚です。体にはぽっかりと穴が空き、何もかもひどい感覚に引きずり込む力があります。

トラウマと体の記憶

未解決なトラウマがある人は、体が命の危機に瀕した経験を記憶しています。日常では、危機が迫ってこないか、体は絶えず次の変化に備えて緊張し、何かが起きても大丈夫なように、身構えています。