> 解離・離人症研究

解離・離人症研究


 第1節.

ヒステリーの研究


解離性障害、身体表現性障害は、かつては女性に多いと思われていたので、子宮を意味するヒステリーと呼ばれていたことがありました。精神分析を創始したジークムント・フロイトは、ジャン・マルタン・シャルコーのもとで催眠によるヒステリー症状の治療を学んでいます。シャルコーは、パリのサルペトリエール病院において、患者の運動麻痺、感覚麻痺、痙攣、健忘に注目しており、ヒステリー患者は、絶え間ない暴力やレイプを逃れてきた若い女性でもありました。フロイトは、シャルコーのもとで学んだ後、ヨーゼフ・ブロイアーとの共同による「ヒステリーの研究」を行い、ヒステリーの病因として心的外傷やPTSDが発見されていく過程を追う時期がありました。フロイトは、ヒステリー患者が無意識の中へ抑圧した内容を、身体症状として出すのではなく、思い起こして言語化することによって、症状を取り去ることができるという治療法に辿り着きました。

 第2節.

ジャネの解離


解離の概念を最初に提起したのは、フランスの精神科医ピエール・ジャネです。ジャネは、ヒステリーや霊媒、心霊に取り憑かれた患者の状態を臨床的眼差しで正確に記述してきた人です。特に、ヒステリーの状態が解離による下意識によることを研究していました。1889年の著書「心理学的自動症」の中で、ある種の心理現象が特殊な一群をなして忘れ去られるかのような状態を解離による下意識と命名したのが解離の起源です。ジャネは、意識の解離を論じており、環境の変化に適応できず、精神力が衰弱した人の意識の可変性に注目し、意識野の狭窄が生じることで、あるいは、意識下の固着観念に支配されることで、人格機能の一部が自動的に作用するという「統合」と「解離」モデルを唱えました。しかし、ジャネの「解離」モデルは、精神分析が多大な影響を及ぼすなかで、フロイトの影に隠れてしまうことになります。

 第3節.

多重人格概念の復活


1970年にエレンベルガーの著書「無意識の発見」の中で、解離の概念が再び取り上げられるようになります。その後、ベトナム戦争帰還兵のPTSDの研究が進み、また、フェミニズム運動の高まりから、性的暴力や児童虐待の被害者も類似のPTSD症状が見られることが分かります。1980年代には、DSM-Ⅲで多重人格障害が取り上げられるようになり、PTSDに関連した解離の症状が注目を浴びるようになりました。DSM-Ⅳでは解離性障害が解離性健忘、解離性遁走、解離性同一性障害の3つに分類されています。解離性障害は、過去のトラウマ体験から、感覚が現在の自分と遮断された状態にあり、自分が自分であるように感じることができません。そして、離人感や現実感喪失などの低覚醒がベースにあり、ボーッとするとか忘れっぽくなるなどの症状があります。

 第4節.

解離現象


解離は、時代や文化によってさまざまな様相を示してきました。例えば、シャーマニズムや神秘的宗教体験(憑依現象)などは解離現象によると考えられます。また、あの残酷な第二次世界大戦時の強制収容所に収監され、極限状態に置かれた人が、精霊や木、自然、宇宙、魂上の家族との感覚的な対話によって、精神を狂わすことなく、希望を見い出しながら死んでいった事実は、解離現象と関わりがあると考えられます。

 第5節.

正常から病的解離


解離という現象は、誰にでもある正常なものから、極限状態のなかで、息を止めて、身体の筋肉が固まり凍りついたあと、内臓感覚、皮膚の輪郭が消えて、自分が自分であるという感覚が無くなり、意識が遠のく、頭の中が真っ白になる、声が出ない、時間だけが過ぎる、空想の世界に行くなどして、生活場面に支障をきたすまでの間に様々な段階があります。正常解離は、誰しも体験することがあります。例を挙げますと、眠気が強くて、ぼーっとしていて、気がつくと時間が経っていたという時です。また、車を運転した時や、電車やバスに乗っている途中の出来事を、一部又は全部を憶えていない時です。

 

人間は、意識と無意識の適度のバランスを保ちながら、日常生活を営んでいます。たとえ、生活全般が困難になっても、適度の解離や抑圧が生じることで、不安や恐怖、疲労、痛み、怒り、怠さ、辛さなど葛藤が過剰にならないようしてくれます。また、外界の刺激に対して、生体機能のリズムが狂わないようにするため、自動的にフィルターの役割を担ってくれて、疲れが溜まりにくくします。つまり、適度の解離は、不安や苦しみ、痛み、ストレス、疲れなどを消してくれるもので、そして、休息やリラックスさせてくれて、自分を守るものとして普遍的に人間に備わっている力であり、生活全般の困難を引き下げてくれます。

 

しかし、生まれながらに身体が弱いとか、早い時期に痛ましいトラウマを体験している人が、家庭や学校のなかで暴言暴力のある環境にいると、四方八方から攻撃されているように感じて、身体は脳に危険信号を送り、全身が緊急事態モードに突入して、神経の働きが原始的になります。原始的モードに突入すると、息を浅く早くする闘争・逃走モードか、息を殺して身体が凍りつくか擬死の不動状態に入ります。脅威があると、神経は高ぶり、頭の中は過剰な情報処理を行い、意識は外に向いて、情動に乗っ取られていきますが、身動きが取れずに、身体が動かなくなると、感情や感覚は切り離され、意識の変容・狭窄や変性意識(トランス)状態に入り、自分が自分でいられる力が弱まります。長年に渡って、このような逃げられない環境のなかで、酷い恐怖や怯えに苛まれることにより、身体は固まり凍りつくか、死んだふりの不動状態から抜け出せなくなります。そして、身体に疲労や痛みが蓄積されて、感覚が麻痺していくようになると、自分の身体が自分のもので無くなり、エネルギーは枯渇して、半分眠ったような状態に陥り、重い解離症状になります。解離とは、一般の人が朝に夢を見るような感覚に近く、病的な解離の人は、生活全般の困難に対処するために、身体感覚を切り離し、日中から低覚醒状態で生活しており、白昼夢を見たり、頭の中の世界に没頭しています。

 

解離症状では、身体が凍りつくか、死んだふりか、虚脱化していて、頭(心)と身体が離れ離れになります。危険が差し迫ってくる場面では、胸が苦しくなり、息が止まり、血の気が引いて、頭の中が真っ白になって、自分の意識が朦朧としたり、意識が飛んだりして、もはや理性の働きでは動物的本能や原始的欲求の沸き立つ力を抑制できなくなり、身体が勝手に動き出すかもしれません。また、恐怖を感じて、身体が固まって凍りつくと、人間らしさを司る神経の働きが一部停止して、心と身体の運動・感覚機能(顔や目、鼻、口、耳、喉、心臓、肺、手、足など)が麻痺して、生き生きとした世界が枯渇しますさらに、ストレスと戦って前に進もうとする力が尽きると、心臓が弱り、血圧が下がり、手足の筋肉も衰弱して、最小限の機能を使って生活するようになります。そして、生活全般の困難から、身体の凍りつきや死んだふり、虚脱状態が無意識下で持続化されると、自分の身体が自分のものだと思えなくなり、頭の中は過去のことをグルグルと考え、無反応・無表情で抜け殻になるか、強迫観念・行動が強まります。ちょっとした外界のストレスに対しても、自分の身体から離れるのが癖になると、現実感を失って、目に見えないものが見えて、空想(妄想)の世界に飛びます。自分の身体を現実に残して、空想の世界に飛ぶと、空想の世界に行っている間の記憶を無くし、別の人格が自分の代わりに仕事や学校に行くようになり、日常生活に支障をきたします。

 第6節.

病的解離


解離とはトラウマで傷ついている人のこころや身体を理解する鍵概念であると思います。人は大きな精神的・肉体的ショックに対し、子どものように体格が小さく、戦っても押さえつけられて、逃げ場がない環境で、ただ耐えるしかない状況では、じっとしているしかなくて、交感神経と背側迷走神経が過剰に働き、凍りつきや麻痺、離人、死んだふりなどの防衛高度を取ります。ショックがあまりに強いと、その限界を超えてしまい、心臓の鼓動は遅くなり、頭の中は真っ白になり、意識を失うか、機能停止させるか、崩れ落ちるかして、その後の記憶は断片的にしか思い出せなくなります。解離というのは、恐怖を感じる場面で、ただ怯えるしかなく、身体が凍りついていくときに、頭や喉、胸が圧迫されて、息が吸えなくなり、脳が酸欠状態に陥るときか、血液の循環が悪くて、虚血状態に陥ることから守るための防衛反応になります。

 

身体の中にトラウマがある人が、過酷な環境のなかで恐怖し、怯えている場合には、外の気配に意識が向き、音や匂い、光、人の気配、態度、表情などに過敏になりますが、周囲との関係が最悪な方向にいかないようにするため、頭の中で情報処理して、自分をコントロールします。しかし、過酷な環境に留まり、心身の不調に耐え続けると、疲労が段々と蓄積され、身体が縮まってロックがかかり、常に凍りつき状態になり、自律神経系や覚醒度、免疫機能の調整不全に陥ります。そして、自己の統制感が欠けた状態になり、解離症状の悪化や現実感喪失、離人感、原因不明の身体症状、身体感覚・運動の麻痺、注意・集中の問題、強迫症状、被害妄想、解離性健忘、感情鈍麻、意欲の低下、絶望や無力感、希死念慮、自傷行為、行動の自動化、別人格化、アイデンティティが混乱に陥ります。

 

障害となる解離症状では、不安や恐怖、痛み、不快感で神経が張りつめており、身体は慢性的に収縮していて、凍りつきや死んだふり、虚脱化して、背側迷走神経が過剰に働き、脳や身体の機能に制限がかかります。そして、強いストレスに曝されると、さらに神経が張りつめて、身体が硬直していくために、顔の表面がぴくぴくと引きつったり、心臓付近は鷲づかみされるような痛みを発したりします。また、喉が苦しく、息が吸いづらくなり、血の気が引いて、しんどくなる嫌な眠気が襲います。

 

このように痛みの身体を持つようになると、ストレスがかかる度に、身体がしんどいので意識をずらすようになり、痛みの部分は捩じらせて、心は辛くて苦しい身体から離れていき、その場で立ち尽くすか、眠くなるか、身体から離れるか、意識がぼんやりするか、注意が散漫になります。さらに、酷い状態になると、意識が朦朧として、気を失うこともあり、感覚、知覚、思考、記憶、言語、運動、判断、意図、時間といった意識や認識過程に綻びが生じて、自分が自分であるという感覚が分からなくなります。それ以降も、外界のストレスと戦うために、頭の中は思考過多で、過剰警戒になり、身体はガチガチに凍りついた状態で生活していると、エネルギーが消耗しきって、最小限のエネルギー(低い覚醒状態)の死んだふりで活動するようになります。

 

解離症状は、身体が弱くて病気がち(低出生体重や早産でリスクの高い子どもや喘息、アトピー、高熱、過敏性腸症候など)の子ども、この世界に酷く怯えて緊張が強い子ども、生活全般(虐待や機能不全家庭、施設育ち)が大変困難になっている子どもに見られます。解離は、生活全般のストレスや緊張、身体の苦痛から心を守るための防衛として働き、極限の状況下でも生活を続けさせてくれます。しかし、その防衛が過剰になると、実際には身体に強い負担がかかっているので、日常生活に支障をきたすようになります。そして、心身とも限界に達していき、警戒心は過剰で、周囲の気配に過敏になり、不安や恐怖が強まると、身体は凍りついて、生き生きとした世界が枯渇し、エネルギー切れが頻繁に起きます。さらに、生活全般が大変になると、身体から離れて、頭を空っぽにして、ぼんやりしたり、現実離れした感覚になったり、まるで夢の中の世界で生きてるように感じたりすることがあります。また、喜びや幸せを感じることが出来なくなり、考えることも難しくなって、今までの経験も思い出せず、昨日起きたことも覚えられない異常事態が起きます。

 

この異常事態により、自分が自分で無い状態になり、誰かいないと自分を保つことができず、一人きりになるとどうすれば良いのか分からなくなります。中身は空っぽで、個性や性格も無くなれば、役割をこなすだけの人間になり、酷くなると歩く屍のようになります。身体の方は、息がしづらくて、心拍数や血圧が低下して、頭痛やめまい、吐き気、パニックが起きたり、お腹の調子が悪くなったり、動けずに寝たきりになる人もいます。さらに、死をもたらすように感じる原因不明の身体症状のトリガーになりうる対人場面や外界の刺激に過敏になり、この世界を恐ろしいように感じています。子どもの頃に死にかけた体験は、その人を凍りつかせて、恐怖の体験や闘争、逃走反応は身体内部に閉じ込められますが、ユングの呼んだ「感情に色づけられたコンプレックス」になり、何かのきっかけで自動的に機能することがあります。

 

健康な人は、心と体が合致して、自分の性格や考えがあって、過去の情景を思い出すことができます。障害となる解離症状がある人は、恐怖やストレスが高まると、解離モードに自然にシフトしていきます。そして、心と体が一致しなくて、深く考えることができず、過去の出来事を思い出せなくなります。さらに、自分が自分でなくなるという自己存在の不安(絶滅の不安)が基盤にあり、外の世界に対して実感がわきにくく、夢の中で生きているような感じがして、自分の記憶のない間に何が起こるかわからない恐怖があります。

 

彼らの見た目は健常者ですが、とても怖がりで、恐怖と麻痺の世界で閉じ込められているため、ストレスが掛かると、一瞬で心身の機能が失われ、動けなくなり、機能停止することまであります。また、恐怖を感じると、息が止まって、全身が縮まり小さくなっていく感覚や、凍りついて固まる感覚、心臓が痛む感覚、意識が遠のいていく感覚、身体がバラバラになる感覚、腸がねじれていく感覚、身体の中は穴だらけの空洞な感覚、自分の手がゴムのように見えるなど、自分の身体ではないと感じています。また、何も感じられず、何も考えられないことに苦しみ、内から湧き起こる不合理な衝動に恐怖して、病理的な世界に逃避する傾向があります。そして、解離した情動や光景のフラッシュバックや、神経の痛みから身を守るために回避行動をとります。さらに、生活全般の苦痛を和らげるために、生き生きとした気分になれることに対して、異常なまでにのめり込んでいくので、薬物やアルコール、過食、買い物、ギャンブル、セックスなどの依存症になりやすく、周りを巻き込むことがあるので注意が必要です。

 第7節.

解離性障害とは


自分が自分であるという感覚が失われている状態で、まるでカプセルの中にいるような感覚で現実感が無かったり、ある時期の記憶が全く無かったり、いつの間にか自分の知らない場所にいるなどが日常に起こり、生活面での様々な支障をきたしている状態をさしています。

 第8節.

解離性障害の要因


解離性障害の人は、幼少時からさまざまな体験をしており、空想傾向があると言われています。また、解離性障害を発症する人のほとんどが幼児期から児童期に強い精神的ストレスを受けているとされています。そのストレス要因として一般的に言われているのは、

1)学校や兄弟間のいじめ、

2)養育者が精神的に子どもを支配していて、自由な自己表現が出来ないなどの人間関係のストレス、

3)ネグレクト、

4)家族や周囲からの心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、

5)殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死などになります。

 第9節.

解離性障害の症状


初発症状は、身体症状であり、その身体症状の不安から不安発作が起きます。次に、対人過敏症状があり、人から傷つけられるのではないかという恐怖から、外界に対して過剰に警戒しています。その後、離人症、解離性健忘、人格交代、幻覚などの典型的な解離症状がみられるようになります。 

 

参考文献 柴山雅敏 "解離への眼差し"『臨床心理学』

 第10節.

解離は理解されにくい病気


障害となる解離症状は、身体のある部分が勝手に動くとか、歩きづらくなるとか、話そうと思っても声が出ないとか、声が聞こえなくなるとか、気づいたら何時間もぼーっとしているとか、もの凄く眠たくなるとか、地に足がつかず上空から見下ろしているとか、記憶が思い出せないとか、思考や感情の働きが鈍くなるとか、自分を何人かの自分が傍観している感覚があるとか、頭の中で自分を攻撃するような声が聴こえるとか、理由も分からない無力感に陥るといった様々な心身の機能障害があります。解離性障害の症状は、一見すると周囲の人には分かりにくいので、家族に理解されず、信じてもらうことが難しい心と身体の病と言われています。

 

例を挙げますと

①解離性障害の代表的な症状に健忘というものがあります。本人がある内容を覚えておらず、通常の物忘れでは説明できない場合は、解離性健忘なのでしょうか、それとも、単に都合の悪さを隠すための嘘なのでしょうか、あるいは、高次脳機能障害なのでしょうか。

本人が加害行為をしたけども自覚がない場合は、自分の意識のないなかでの行動なのでしょうか、それとも、やはり嘘をついているだけなのでしょうか。色々な可能性を考えてみることができます。

 第11節.

解離性憤怒


特に、解離性障害と疑われる行動の一つに、対人トラブルで怒りになり(交感神経が高ぶりすぎて)、自分をコントロールできなくなって、記憶が無くなったり、頭が真っ白になったり、うっすら背後から自分を見ていたり、身体が勝手に動き出したりを繰り返す人たちです。このような人は、周囲から見ればキレやすい人であり、しかも、本人の自覚が薄かったりするので、トラブルに発展しやすくなります。また、本人の記憶のない間やコントロールの効かないなかでの行動なので直すことはできません。ですから、親から教師から何度注意されて、落ち込んで大人しくなったそばから、すぐに同じこと繰り返してしまいます。

 

対人トラブルが起きて、交感神経が高ぶり、過覚醒になり、闘争・逃走反応が出て、本来の自分は引っ込みますが、この怒りの場面の解離症状(解離性健忘、解離性憤怒、人格交代、離人症、現実感喪失症)は、自分で自分をコントロールできなくなるので、特に学校などの集団場面で不適応になります。さらに、親からの虐待を呼び込みやすくなります。本人としては、自分の記憶のない間とか、体のほうが自動的に勝手に動くとかで、自分とは違う別の誰かが上手に振る舞い、問題を起こしたりします。そして、自分でもよくわからないうちに、手のひらを返されたように相手の態度がガラッと変わり、予測不能な形で周りから暴言や暴力、処罰を受ける悪循環に陥る可能性があります。

 

そのため、トラウマを負い、解離症状のある人は、「どうして?」「なぜ、怒られるの?」の世界に生きていることがあります。本人は、解離性健忘や離人、現実感喪失、人格交代の間に周囲の様子がいきなり変わっていて、自分は悪いことをしていないのに、なぜかトラブルに巻き込まれ、怪我をさせたり、怪我をしています。そして、理不尽に大人に怒られ、同級性からは悪口を言われるため、人に対しての不信感や自分のことが信じられなくなります。どうして自分だけが酷い目に遭うのだろうと考えて、自己否定、悲観的未来、自暴自棄な行動、運命や宿命などの妄想が強くなります。また、自分は変で嫌われているに違いないと思い込んだり、人から悪意を向けられることに耐えれなくなると、息を潜めながら、身体は固まり凍りついて、解離や離人症状にすっかり染まっていきます。さらに、警戒心の強さから、危険があるかどうか細かいところまで入念に調べるようになり、周囲の視線や表情を気にして、先読みし、あらゆるパターンを頭で考え、強迫傾向を強めていきます。

 第12節.

解離性健忘と重症化


PTSDから解離症状が重くなると、嫌悪する刺激に対して、硬直し、痛みになります。そして、不快すぎる状況が続き、八方塞がりになっていくと、痛みが疲労感が強くなり、常に凍りついた状態になり、意識が反転した別の世界(妄想や空想世界)に飛んでいくかもしれません。背側迷走神経が過剰で、自分が自分で無くなると、眠ったように生きる低覚醒になり、現実感が喪失します。また、解離性健忘により、気がついたら別の場所にいるとか、気がついたら時間だけが過ぎているといったことが起こり、自分の知らない間にトラブルメイカーになることもあります。

 

低覚醒になると、自分の話した内容も罪悪感が含まれると瞬間的に忘却したりします。頭が痛くて、眠くなり、身体の感覚が分からなくなると、現実と夢の境目が分からなくなります。自分が自分で無くなり、頭の中が真っ白になると、何を思っていたのか、何をしていたのかも分からなくなって、昨日の記憶を忘れたりします。この記憶を思い出せないせいで、自分の身に起きたことを把握できず、人とのコミュニケーションが難しくなります。例えば、同級生や知り合いに声をかけられても、記憶を覚えていないので、その状況を把握できずに、うまく対応できません。また、自分の知らない人から親しそうに話かけられて、その状況に戸惑い、人間関係が怖くなります。さらに、自分の知られたくないトラウマに関わる秘密事が、自分の知らないうちに悪い噂として広まっていて、その噂を振りまいたのが誰だと疑うようになり、推測、憶測、被害妄想に取り憑かれるタイプの人もいます。特定の人に対して、被害妄想が膨らむほど、嫌悪感が強くなり、自分で自分のことを追い込む結果になって、所属集団にいられなくなります。また、所属集団に四方八方から攻撃されているように感じると、常に凍りついた状態のなかでの生活になり、体調がおかしくなって、過呼吸やパニック、悪夢にうなされ、身動きが取れなくなり、自分の居場所が無くなります。

 

生活全般の困難から、エネルギー切れが頻繁になると、背側迷走神経が主導権を握り、脳と身体を繋ぐ神経の働きもおかしくなります。背側迷走神経の作用で、低覚醒状態が切り替わると、自分が自分で無いように感じて、こないだのことも覚えていない緊急事態になります。また、なんとか自分の一貫性を保つために、不利なことは矮小化し、誇張した作話や複雑な思考を展開していくことがあります。身体の方は、息苦しかったり、痺れたり、お腹が痛かったり、気持ち悪かったり、固まって動けなかったり、めまいから動けないなど起きます。長年に渡ってストレスを受けることで、自分の身体を感じることが出来なくなり、自分の身体を自分のものとして思えなくなります。さらに、身体と脳は、ストレスホルモンに侵され続けることで、炎症を引き起こして、様々な慢性疾患に罹るかもしれません。

 第13節.

解離している子ども


解離している子どもは、自分が解離しているかどうか、うっすら分かっている人もいますが、分かっていない人の方が多いです。例えば、休日に家族と過ごした内容を尋ねても、首をかしげて覚えていないとか忘れたと答えます。また、フラッシュバックで過去の時間に戻っているとき、解離した人格部分は、過去の光景を目にして、同じ臭いを嗅ぎ、同じ身体的感覚に見舞われて、心ない操り人形のように自動的に行動や態度でトラウマを再演させます。外からは何もないはずなのに、本人は幻覚を見ており、見えない敵(不条理なことをしてくる親や大人たち)に文句を言い、戦っています。

 

その一方で、本人はそのことに気づいておらず、今この時間に戻ってくるとフラッシュバックなんて無かったかのように笑顔で日常生活に戻ります。外から子どもを見ている人は、フラッシュバックという現象が異常に見えますが、本人は、その現象をいつ、どのように起きているのかも気づいていなかったりします。つまり、子どもの頃から、解離している人は、自分がトラウマを負った当事者だと気づくことが難しかったりします。しかし、トラウマに気づいていない代わりに、身体はトラウマを覚えているので、身体の一部が麻痺や硬直、疼痛が起こり、原因不明の身体症状に襲われます。

 

子どもの頃から解離を使うことに慣れている人は、自分の苦しみや痛みを簡単に切り離すことができます。叫びたくなるような場面に遭遇すると、自分が自分の身体から抜け出た状態になり、あたかも傍観者のようにあの子は大変だねと眺めたり、頭の中の夢心地の世界に飛んだり、固まり閉ざされて眠りにつくことができます。しんどいことを切り離して、自分の分身に交代する時は、頭が痛くなったり、後から引っ張られたり、前に押されたり、眠くなります。そして、自分がいなくなったり、真っ白になったり、真っ黒になったり、夢の中にいるようになります。夢の中の世界は、懐かしい風景の中にいて、時々小さい頃の自分と話していることもあります。解離は、想像力のみで環境を作り変え、不快なものをどこかに追いやることができます。

 

解離している子どもは、自分の知らない間に、口が勝手に喋ったり、手足が勝手に動いたり、悪ふざけをしたりなど様々な困ったことを引き起こしています。例えば、いきなり泣き出したり、言いたくことを言ってしまったり、虚ろな表情になったり、不機嫌になったり、何も感じなかったり、身体が固まったり、声が出なかったり、聞こえなかったり、活発に動いたり、衝動的な行動に出たりします。いくつもの自己状態を行き来している子どもは、交感神経系(過覚醒システムに入り、耐性領域外になる)に乗っ取られているときに、記憶が欠落して、それに気づくことが難しかったり、自分の行動を止めれないことが起きます。また、身体の方が生命の危機に瀕した体験を記憶しているので、問題場面に直面すると、交感神経が過剰(アクセル全開)になりますが、急速に背側迷走神経(ブレーキ)が働くと、身体が固まり動けなくなります。

 

特に、学校生活の集団場面の交わりに馴染めず、皆と同じことをしようとしても、命の防衛のための原始的な神経が働いてしまって、社会交流システムがうまく働きません。そのため、社会交流を司る神経の部分が凍りついて、声が出ない、聞こえない、視野が狭い、手先が動かしづらい、歩行困難、痛みが出る、痛みを切り離す、無になる、身体が固まる、立ち止まる、うずくまるなどして、過呼吸やパニックになりやすく、皆に置いて行かれるようになります。また、普段から、静止した状態でいると、不快な気分でイライラしたり、どうしようと焦ったり、動揺しすぎて、不安や心配事が頭のなかを支配します。そして、自分の知らない間に体が勝手に動いて問題行動を起こすとか、身動きが取れなくなるなどの制限がかかるため、どうしようも出来なかったり、自分に身に覚えのないことまで犯人扱いされることがあります。自分では真っ当な行動を取っているつもりですが、周りからはきちがいとか、頭がおかしいとか、どうしてお前だけは皆と同じことができないんだと言われるため、人と関わることが怖くなり、人と交わした言葉に傷ついていきます。その結果、とても傷つきやすくて、人の言葉や表情に神経質になり、相手が自分のことをどう思っているのか気にしています。

 

自分が人から傷つけられるかもしれない恐怖があり、過剰に警戒するようになると、外側の世界のあらゆる情報を取り込んで、頭の中では様々なことを先読みするようになり、自分に注意を向けたり、安心して何かに集中することが難しくなります。そして、とても苦しく、とても辛い毎日の繰り返しのなかでは、痛みの身体になって、その身体を切り離すことで、この世界を生き生きとして感じることが出来なくなります。その結果、様々な感情や感覚が失われて、物事を自分で感じられなくなると、自分の存在感や人との距離感、普通という学校の枠組みが分からなくなります。自分が何を感じているか分からなくなると、どう思っていたか、何かを考えていたか、何をしていたかも分からなくなり、自分が空っぽになります。自分のことさえも分からなくなると、何かを経験しようとしても、何も積み重なっていかず、どうしたらいいか分からないために、人に合わせる生き方しかできなくなります。そして、あたかも正常かのように見せながら、表面を取り繕うだけの人生になり、無意識のうちに同調的に振る舞って、なるべく周囲の人の行動を真似していくようになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

▶構造的解離 ▶解離性障害の特徴 ▶解離性障害チェック ▶解離性症状と自己感覚 ▶解離性障害の心理療法 ▶解離と愛着 ▶外傷体験の人格の断片化 ▶特定不能の解離性障害 ▶解離性同一性障害の原因 ▶離人症 ▶闇と光の交代人格 ▶大人と子ども人格 ▶怒りの人格 ▶解離症状と身体 ▶様々な解離症状 ▶解離性障害の恋人 ▶狂気と解離の強靭な力 ▶慢性自殺志向の内的現象 ▶性被害の再演 ▶解離状態と犯罪 ▶発達性トラウマ障害 ▶低覚醒・解離性症状の子ども ▶愛着・過覚醒システムの子ども ▶ヒステリー女性 ▶ヒステリー研究

クービック予約システムから予約する