日本社会は歴史的に男性中心の社会であり、特に一昔前には、男性が外で働き、女性が家庭を守るのが一般的な価値観でした。そのため、男性が女性よりも強い立場にあると考えられてきました。今日では、男女平等が進んだとされていますが、依然として男尊女卑の考え方が社会の根底に残っていると言えます。このような背景から、男性が女性に対して威圧的な態度を取ったり、言葉で攻撃する場面が見られることがあります。
特に日本では、他の国に比べてモラハラを行う夫の割合が高いことが指摘されています。これには、長年続いた社会的な男女の役割分担や、男尊女卑の価値観が影響していると考えられます。ここでは、モラハラ夫の特徴について考察してみます。
モラハラを行う理由の一つとして、過去にトラウマを経験していることが挙げられます。トラウマを負った人は、身体に様々な影響を受けやすく、例えば、身体がだるく感じたり、筋肉が硬直しやすかったり、しびれや痛みを感じることがあります。特に嫌悪刺激や不快な状況に直面すると、身体が過剰に反応し、闘争・逃走モードに入ってしまうことがあります。この状態では、激怒したり、深く落ち込んだりするだけでなく、全身に痛みや緊張が走り、身体が固まってしまいます。
さらに、強い恐怖感や逃げ場のない状況下では、身体が完全に硬直し、血液の循環が悪化することもあります。トラウマを負った人の神経系は、情動を司る部分が変化しているため、不安や恐怖を感じやすく、すぐに身体が固まったり、ネガティブな思考が浮かんできたりします。このため、イライラしやすくなり、疲れやすくなってしまうのです。
このようなトラウマティックな脳や身体の状態が続くと、他者に合わせることが困難になり、感情のコントロールや冷静な判断が難しくなります。その結果、パートナーとの関係にも問題が生じやすくなり、モラハラの一因となることがあるのです。トラウマが与える影響を理解し、適切なサポートを受けることが、パートナーシップを改善するために重要です。
モラハラ夫は、トラウマや神経発達の問題を抱えていることが多く、長年にわたるストレスと緊張の影響で、自律神経系が調整不全に陥っています。この調整不全は、免疫システムの低下や覚醒度の異常、筋肉の機能障害、睡眠の質の低下、さらには胃腸や皮膚のトラブルなど、様々な身体的問題を引き起こします。特に、お腹が弱く、便秘と下痢を繰り返したり、どちらかの状態が続いたりすることも少なくありません。
彼らは、子どもの頃から厳しい躾や虐待的な環境で育ち、温かい肌のぬくもりに包まれる体験が不足していました。そのため、安心感を感じられず、自分の居場所を見つけることができなかったのです。また、親が過干渉や過保護であった場合、行動が制限され、自由に自己表現することができなかった子どももいます。
さらに、家庭や学校教育の中で、年功序列の考え方が染み付いており、目上の人の意見が絶対であると刷り込まれました。この価値観に沿うことが良しとされ、沿わないものは非常識とみなされるような環境で育った結果、彼らは大人の顔色を伺いながら、相手の期待に応えようと最善の策を探す習慣が身についています。そのため、自分の行いは常に正しいと思い込みがちです。
このような背景から、自分とは違う価値観を持った人が現れると、その違いを受け入れることができず、無意識のうちに「正さなければならない」と感じてしまいます。結果的に、モラハラやDVといった行為に至ってしまうのです。この問題の根底には、幼少期からの環境や価値観の影響が深く関わっており、本人がその影響に気づき、適切なサポートを受けることが解決への第一歩となります。
根底には強い自己否定感や他者への不信感があるものの、それらの否定的な感情が強まると自分を保つことが難しくなり、結果として「自分が正しい」という考えに固執してしまいます。相手を屈服させるためなら、どんな労力も惜しまず、自分の正しさを認めさせようとします。彼らは、自分が常に一生懸命であると信じており、攻撃的な態度に出るのは相手が悪いからだと考えます。このため、自分の正しさを認めさせるためには異常なまでの執着心を持って行動します。
特に、自分の意見を受け入れない相手に対しては、強い非難の言葉を投げかける傾向があり、こうした態度はパートナーに向けられることが多いです。彼らの行動は、自己否定感と不安を抑え込むための防衛手段であり、その根底には、自分が間違っていると認めることへの強い恐怖が存在します。これがパートナーシップに深刻な影響を与え、関係を悪化させる原因となります。
モラハラ夫は、パートナーとの関係や仕事の場面で、自分の思い通りに物事が進まないとイライラしたり、暴言を吐いたり、元気を失ったりすることがよくあります。このような行動を通じて、その場を自分の意のままにコントロールしようとします。その背後には、子どもの頃から理不尽な目に遭いながらも「良い子」でいることを強いられ、感情を抑え込んで我慢してきた経験が影響しています。
家庭内では、親の前で自分の喜怒哀楽を抑えることで、次第に身体がしんどくなり、心身に負担がかかりました。しかし、外の世界では、自分の感情を抑える必要がない相手と付き合うようになり、そこで積み重ねてきた我慢が解放されます。その結果、自分の主張を強引に押し通し、強圧的な態度で周囲を支配しようとしたり、酷い言葉を投げかけるようになります。これらの行動は、過去の抑圧された感情の反動として現れ、周囲との関係をますます悪化させる要因となっています。
想定外の出来事や嫌な目に遭うと、彼らは身体的に苦しさを感じます。このため、自分自身でマイルールを作り、頭の中で戦略を巡らせることで、口が上手くなり、巧妙に立ち回るようになります。彼らの身体は過去のトラウマを抱えているため、些細なことにも過敏に反応し、予期せぬ出来事や急な変化が起きると、心臓が激しく鼓動し、胸が締め付けられるような苦しさを感じます。
自分の内側にルールを作り、この世界を自分なりに規律化することで、予期せぬアクシデントが起こった際のショックを和らげようとしています。ネガティブな出来事を予想してしまうと体調が悪化するため、彼らは自分を磨き、他者から良く思われるように振る舞うことで心身のバランスを保とうとします。最悪の事態を考えるよりも、自分の万能感で状況に対応しようと努めるのです。このようにして、彼らは不安や恐怖をコントロールし、自分を守る手段を身につけているのです。
不快な状況に直面すると、彼らはじっとしていられなくなり、イライラが募ったり、焦燥感に駆られたりします。この不安定な状態では、思考が過剰に働き、多弁になったり、問題を解決しようと必死になります。やがて、他人と口論するような「闘争モード」に入ると、言葉が次々と口をついて出て、身体も興奮状態に陥り、過活動になります。
この時、彼らは周囲に脅威を与えることで、自分の存在感を確かめ、怒りを通じて自分の体に活力を取り戻そうとします。こうして、怒りを表現することで、自分の存在を強く感じ、何とか自分を保とうとするのです。この行動は、内なる不安や恐怖を隠し、自分が自分であることを必死に守ろうとする防衛反応ともいえます。
人生の選択に失敗すると、不満や後悔、怒り、そして自責感が心に重くのしかかり、次第に体調も悪化していきます。取り返しのつかない事態に直面すると、胸がギュッと締めつけられるような感覚に襲われ、何とか問題を解決できないかと焦燥感に駆られ、その場にじっとしていられなくなります。
もし問題解決ができず、大きな失敗に終わってしまうと、身体は硬直と脱力を繰り返し、絶望感や無力感に押しつぶされそうになります。このような状態が続くと、心の底からこの世界から消えてしまいたいと感じることもあるでしょう。さらに、状況が最悪で、特にしんどい時ほど、パートナーに対して投げやりな態度を取ってしまい、人生そのものに対する興味や意欲を失ってしまうことがあります。
ここでは、モラハラ夫の特徴とその関係で生じることを挙げていきます。
モラハラ夫の特徴として、最初のうちは他人に自分を良く見せようと振る舞います。好きになった相手には積極的にアプローチし、距離を縮めようとします。彼女を絶対に手に入れたいという強い思いから、お金を惜しまずに使い、彼女を最優先にし、何でもしてあげることで、非常に優しく紳士的で誠実な印象を与えます。しかし、恋愛関係が終わりに近づくと、これまでの支出を取り戻そうとするかのように、「今まで使ったお金を返せ」といった身勝手な態度を見せることがあります。
交際が続く中で、相手を喜ばせようとする良い面と、相手を罵ったり、経済的に細かくこだわる面が次第に顕著になっていきます。特に、経済面で問題が生じたり、パートナーとの関係が悪化すると、本来の弱さや無力さが露わになり、息苦しさや胸の痛みを感じることが増えます。さらに、思考が堂々巡りし、睡眠不足やうつ状態に陥り、心配性や投げやりな態度を取ることが増えていきます。このような変化は、彼らが内に秘めた不安や自己肯定感の低さが影響していると考えられます。
結婚生活が始まると、モラハラ夫は自分の生活に変化が生じることを嫌がり、独自のマイルールを守ろうとします。彼らには多くの固有のルールがあり、それに従うことで安定感を保っています。そのため、妻が持ち込む異なる価値観や生活スタイルに対して強い抵抗を示します。モラハラ夫は、妻との相性や価値観の一致を強く求め、自分のマイルールに従ってもらうことが当然であると考えています。自分の主張を一方的に押し付け、妻の意見や感情を軽視することが多いです。
さらに、彼らは自己犠牲的な妻に対してだけ尊大に振る舞い、妻をまるでアクセサリーや物のように扱います。妻の献身や妥協を当然のことと考え、自分の欲求を優先させる態度を取ります。このような関係は、妻の精神的な負担を増大させ、夫婦間のバランスを崩す原因となります。モラハラ夫の行動は、自分の不安定さや支配欲の表れであり、適切な対応やサポートがなければ、関係はさらに悪化していく可能性があります。
モラハラ夫は、子どもの頃に思い通りにならなかった経験や、報われない思いを抱えてきた過去があります。そのため、結婚や家族を持つことに対して、現実離れした幻想や理想を抱いています。家庭を安心できる場所と考え、妻には常に笑顔でいてほしいと望み、何事も自分の思い通りに進めたいと考えています。
生活において安心と安全を求めるあまり、貯金を増やすことで不安を減らそうとし、お金の使い方が非常に慎重になります。これが原因で、妻との金銭感覚にズレが生じ、金銭面での喧嘩が増えることが多いです。また、計画性や安全性を過度に重視し、自分が最善の策を取っていると信じているため、妻との間で考え方や行動が次第に食い違っていきます。
さらに、彼は細かいことを気にする完璧主義者であり、嫌なことに対して非常に低い耐性を持っています。結果として、妻との対立が頻繁に起こり、意見が食い違って話が噛み合わないと、すぐに腹を立て、文句を言い始めます。モラハラ夫のこうした行動は、自分の不安やコントロール欲求を反映しており、これが家庭内の緊張を高め、夫婦関係をさらに悪化させる要因となります。
モラハラ夫は、子どもの頃から親の顔色を伺い、常に「正解」を探しながら最善の行動を取ろうと努めてきました。その結果、結婚後も妻が自分と同じ価値観を共有していると誤解しがちです。彼は、妻も自分と同じように夫の顔色を伺い、期待に応えて最善の策を取ることが当然だと考えています。このため、妻が彼の期待に反する行動を取ったり、理解できない行動をしたりすると、夫は妻を「正しく躾けなければならない」と感じるようになります。
もし妻が言い返してくると、夫はそれを自分への挑戦と捉え、抑えきれない怒りに駆られます。この怒りは、彼自身が過去に経験した抑圧された感情や不安が反映されており、妻が自分のコントロール下にないという事実に直面したときに一層激しくなります。結果として、夫婦関係はますます緊張し、妻は夫の顔色を伺いながら過ごすことを強いられます。
モラハラ夫は、実際には小心者であり、気が弱く、常に周りの目や世間体を気にしています。そのため、妻の意見を否定的に捉えることが多く、妻は次第に有効な自己主張ができなくなり、夫の「正解」を探すことに専念するようになります。この過程で、妻は自分を犠牲にして夫の期待に応えようと努力します。
しかし、結婚生活が破綻する兆しが見え始めると、モラハラ夫は投げやりな態度を取り、突然別れを告げることがあります。一方で、妻が耐え切れなくなり、離婚を決意するケースも少なくありません。調停離婚に発展した場合、モラハラ夫の一部は親権に執着し、「自分の行動はすべて正しいが、相手の行動はすべて間違っている」という一方的な考えで戦いに挑むことがあります。
一方で、自分の行動に間違いがあったと反省し、治療やカウンセリングを受けることで「変わろうとしている自分」を強調するタイプもいます。こうした行動は、実際には本当の改善を目指すというよりも、自己正当化や周囲の同情を引くための手段として利用されることが多いです。結局のところ、モラハラ夫の行動パターンは自己中心的であり、関係が悪化してもその本質は変わらないことが多いのです。
一般的なモラハラ夫の特徴として、自分の価値観が絶対的に正しいと信じ込み、相手を見下し、小馬鹿にして、自分は相手よりも優れていると感じています。モラルハラスメントやドメスティックバイオレンスが表面化した際には、一時的に反省するものの、結局、時間が経つと元の自分に戻り、同じ行動を繰り返してしまいます。反省や考え方の変化だけでは根本的な解決には至らない場合がほとんどです。まずは、彼らの体の状態を根本から変える必要があります。
モラハラ夫は、子どもの頃から神経が常に張り詰め、体が緊張し、焦りや苛立ちを感じやすい状態にあります。このような緊張状態を解き、安心してリラックスできる状態へと変容させることが必要です。
治療においては、彼らに十字架に張り付けられたイエス・キリストのイメージを想起させ、身体的にも精神的にも拷問的な苦痛を体験させるメタファーを通じて、真の変容を目指します。屈辱が怒りへと変わり、痛みによって身体が凍りつき、絶望や無力感に打ちのめされる過程を追体験することで、自分の不快な感情と向き合い、それをどのように処理すべきかを学びます。
このプロセスを通じて、自分の不快な感覚に徐々に慣れ、日常生活で感情的な言動を抑えるための自己理解と自己調整の能力を身につけることが目指されます。このように、身体的な緊張を解消し、精神的な安定を取り戻すことで、モラハラ夫の行動パターンを根本的に変えることが可能になるのです。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平