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繊細な心の持ち主は他者を見透かす


発達早期のトラウマの影響から、ストレスに体が弱く、フラッシュバックや古傷が疼く方は、想定外のことが起きないようにするため、警戒心を強める人生になり、危機管理能力が高くなって、人を見透かす力が育ちます。彼らの体は、トラウマ時の痛みを忘れることができず、脅威に備えるようになり、外側に注意が向いて、心はいつも繊細に反応して、時限爆弾を抱えます。長年に渡り、痛みに凍りついた状態で生活していると、痛みや疲労は蓄積されて、体の中には莫大なエネルギーが滞ります。

 

トラウマを抱えて、繊細な心を持つ者は、自分の予想の範囲内であれば、何事もなく過ごせます。しかし、相手の否定的な反応や急な出来事、ビックリするようなことが起きると、身体中に大きな痛みが瞬間的に走り、気分が沈んでいきます。これは、不意を突かれたり、想定外のことが起きたりすると、PTSDの驚愕反応が現れ、筋肉が硬直し、心臓が縮み上がるために、痛みが走ります。特に、胸の辺りの痛みや心臓がもの凄く反応して、動悸がしたり、血の流れが止まりそうな恐怖を感じるため、恐ろしい体験となります。また、筋肉が縮こまって、体のなかに重くて硬いかたまりができて、息苦しくなります。

 

このような痛みの体のせいで、相手の行動を予測して、出来るだけ先回りをして、不安を減らし、自分の思ったように進めようと思います。しかし、自分の思った通りにいかないと痛みが出るかもしれないので、想定外のことが起きて、対応できなくなることを恐怖します。トラウマを負っている人は、原始的な神経の働きから、自律神経系の調整不全が起きるため、不快で緊張が強くなる場面では、神経が繊細に反応し、様々な症状が現れます。そのため、人間関係において、自分の状態や相手の気持ちを、二手三手先まで読んでしまうことが当たり前になり、危険を避けて、最悪の事態を起こさないようにします。そして、いつもリスクを考えながら、周りに合わせており、相手の言動を予測して、同じような失敗が起きないように注意深く生きています。

 

トラウマを負った体は、サバイバルモードになり、神経が張りつめています。いかに生き延びるかということに注意が集中し、感覚が鋭くなり、危険や興味あることを察知しようとして、人の声、話す内容、気配、物音、匂いなど、全てに意識を集中させます。相手が今どこで何をしているか、次に何をしてくるかを予測して、心の準備をしており、相手の心を読み取る力が育っていきます。このように日常を送るうえで危険を回避するために、他者の行動や考え、感情を探るようになっていきます。そして、自分という感情や感覚があると様々なことを感じて痛みを感じるために、自分の存在を消して、相手に合わせてカメレオンのように自分自身を変化させ、過剰に同調して暮らすほうがより安全であると思います。また、本当の気持ちは辛くて、身体の節々も痛くて、しんどかったりするので、自分の感情や感覚を感じないでいるほうがメリットが大きくなります。

他者を見透かす力


トラウマがある人は、脳のフィルターが故障していて、自分を守ることができなくなっているために、あらゆる情報が頭の中に入ってきて、混乱状態にあります。小さなことでも不安や警戒、恐怖心が出てきて、自分がなぜ被害に遭ったのか、自分がなぜ巻き込まれたのか気になり、過去に起きた出来事を消化できずにいます。一方、予測不能なことに耐えられないので、人間関係に過敏になり、傷つけた相手のことを知ろうとするとか、世の中に何が起きているかを把握しようとしています。頭の中であらゆる情報を調べ集めて、分析して、再被害に遭わないようにするため、情報処理が過剰になります。相手の気持ちを読んで、ニーズに合わせようとするなど何らかの方法で自分を助けようとしますが、その方法が見つからない場合は、過去に起きたことを、こうすればこうなる、こうすればこうだったかもなど仮定の想像をグルグルと考えて、思考が止まらなくなります。

 

このように、他者の行動や気持ちを先読みして、相手のことをある程度把握して理解していると思えることで安心感を得ています。トラウマを負っている人は痛みに凍りついた体を持つために、感覚や感情を無くして、自分のことを空っぽにすることができます。自分の存在が消えると、誰かに意識を向けるしかなく、誰が何を考えて、どう思っているのかが瞬間的に入ってきて、相手を読んだり見透かしたりすることが可能になります。自分を消して、相手に入っていくということを繰り返し、相手のしてほしいことをやってあげたり、相手の行動を見透かすことで日々をサバイバルしようとします。

 

このような状態が、小さい子どもの頃から長年に渡ることで、通常では分からないことまで、自分なりに考えたり、予測したり、推測することができるようになります。そして、そのような予測が現実に当たっているかどうかは実際には分かりえないことであっても、本人は、自分の予測が当たっていると思うようになります。自分が予測したことや思ったことが当たっていると思い込んでいくうちに、他者のことを理解できていると思うようになり、そのため自他の区別がつきにくくなって、他者や様々な状況に対して自分の見解で判断するようになります。

 

そしてトラウマを負って、嫌な経験をたくさんしている人は、自分の身に危険がないかどうかを見ています。繊細な心を持ちながら、自分にネガティブな影響を及ぼす可能性を探ります。自分を守るために過剰に警戒し、最悪なことが起きないようにと相手の行動を先読みして、ネガティブな可能性を考えるようになります。物事を先読みしすぎて、それが誤りであることにも気づかずに、常に物事が悪い結果をもたらすなど、悲劇的な結論にジャンプしてしまいます。先読みして他者を見透かす力は、危機迫るものを遠ざけようとする防衛として働きますが、このような能力があることを知り、うまく開花させることができれば、ポジティブな方にも使えると思います。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

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