> > 空虚な身体と心

空虚感に苛まれる人の心身


かなり早い段階から痛ましい外傷体験に曝されたり、親から虐待を受けたり、母親の肌の中で包んでもらえる温もりがなく育った子どもは、自分の内面を覗きこむと、子どもの頃の記憶をほとんど覚えていないことがあります。そして、自分の居場所がなく、ひとりぼっちで過ごし、壮絶な人生を歩まされていくうちに、嫌な記憶や感情を切り捨て、自分の身体感覚が麻痺していきます。この身体感覚の麻痺とは、体性感覚が感じられなくなることであり、皮膚、筋肉、内臓、腱、関節の感覚が分からなくなります。このような人は、身体感覚がなく、心が空っぽになり、自分の内面に向き合うことができません。たとえ自分から向き合おうとしても、考えられなくなるとか、イメージできなくなるとか、感じられないなどの問題が出て、もの凄い眠気や不快感、寒気に襲われます。

 

人間の心というのは、身体の生理状態を土台にしているために、身体の感覚が空っぽの人は、心がない状態になります。身体感覚が麻痺している人は、自分の軸が失われており、同じことをグルグル考え続けるか、他者の基準(外側の基準)を軸にして、周りを固めて生活しています。視覚・聴覚情報を集めて、頭の中で考えることはできますが、物事を批判的に考えたり、自分について深く考えたりすることはできなくて、表面的な事柄に終始します。何も感じないようにしている人は、無表情・無感情になり、生きている感覚が無くなって、人生はただの暇つぶしになります。

 

体性感覚が無い人は、小さいときから、恐ろしい体験をしていて、体がガチガチに固まり、凍りつきや虚脱のトラウマを負ってきました。長年に渡り、親や兄弟などから虐げられてきたために、胸が圧迫されるような痛みや喉の違和感、首と肩の張り、心臓のバクバク、はらわたが煮えくり返るような怒り、ムズムズなどの不快感、ピリピリした痛み、身を切るような痛みなど、恐ろしい感覚や感情に耐えられなくて、体を麻痺させてきました。そして、これ以上ダメージを受け止めることはできないので、自分の感情や感覚が出てくる隙間を無くして、心を空っぽにするか、思考で埋め尽くすようになります。

 

しかし、体を切り離して、頭の中で生活してても、体はガチガチに凍りつくか、死んだふりの状態になっていて、自律神経のバランスが崩れる一方で、体調が悪くなり、戦うエネルギーは枯渇します。危機的な状態にいながらも、周りの空気が気になり、自分が目立たないように息を殺して、じっとしています。自分の身を守るために、石のように固まって、受動的な防衛スタイルを取っても、さらなる攻撃を受け続けると、最終的に防衛のための殻が壊れてしまいます。その時には、体が虚脱状態に陥り、息が吸えなくなって酸欠状態に陥るか、血の気が引いてしまって倒れてしまうかなど、心臓が落ちるような死の恐怖を体験します。

 

虚脱するようなトラウマが繰り返されると、人は虚血性のショックに陥り、本当に死んでしまうかもしれないので、生き残る手段として、一瞬で離人や解離、機能停止させて対応しようとします。日常では、とても辛い毎日のなかで、身体を凍りつかせて対応し、危険を感じると、離人や解離で切り抜けるパターンで生きるようになり、自分が本来感じていただろう感覚や感情の置き場が無くなります。その結果、体内の感覚を感じることが無くなり、心と身体が永遠に離れてしまって、ただ動く身体になります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

▶ネット予約 ▶電話カウンセリング ▶お問い合わせ