恥と自己愛


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人は恥をかかされると、平静さを保てなくなり、強いストレスを感じて、動悸や焦燥感、イライラが出て、その場にじっとしていられなくなります。それでも人の視線に曝されて、怒ることも不適応で、逃げ出せない状況では、屈辱を感じて、身体内部に生理的な混乱が生じます。人は、集団場面で恥をかくと、自律神経系の調整不全が起きて、手足が震える、顔が赤面する、胸が苦しくなる、怒りになる、逃げたくなる、体中に汗をかく、お腹の調子が悪くなる、身体が硬直する、頭が真っ白になる、言葉に詰まる、涙は出るなど反応をします。そして、周囲の視線が怖くて、身体に痛みが刻み込まれると、恥がトラウマになり、過剰に覚醒させられて、怒りになるか、逃げ出すか、惨めな自分になり下がるか、自分が自分で無くなります。さらに、規定値を超えると息が止まって、心臓の鼓動が弱まり、お腹が捻じれるような痛みを発して、めまいから倒れ込むこともあります。

 

恥がトラウマになると、人前で緊張するたびに、交感神経が刺激され、動悸がして、呼吸や心拍、体温、血圧が上昇します。その一方で、背側迷走神経の働きが強くなると、身体は凍りついて、麻痺させられていき、呼吸や心拍、体温、血圧は下がるため、生理的な反応に混乱し、様々な症状が現れます。トラウマの影響により、神経が繊細な人ほど、交感神経や背側迷走神経の働きのアップダウンが激しくなり、自分の感情や興奮をコントロールすることが難しくなります。また、人はこのような身体反応が起こらないようにするため、人の目を気にして、警戒し、頭の中で対策を立てます。そして、世間体を気にして、他人に自分の変なとこがバレないようにとか、人から傷つけられないように過ごします。

 

恥のトラウマがあり、自分の所属する集団のなかで浮いてしまい、馴染むことができなくて、些細なことでも恥をかかされたように感じると、怒りや凍りつきのトラウマを負うことになります。職場や学校、家庭の生活空間が八方塞がりな状況になればなるほど、自分の感情を抑え込み、凍りつきや死んだふりの不動状態のトラウマに永続的に曝されます。そうなると、身体機能は衰弱していき、被害感情は強くなり、自分の所属する集団には悪の大ボスがいて、それに群がる悪意のある人たちがいるという思考が活発になります。そして、自分は嫌われていると思い込んだり、悪い噂を流されているという被害妄想が膨らみ、敵対な言動を取って、様々な症状を見せることがあります。日常場面でも、自分がどう思われているかを考えて、周囲のことばかりに注意が向き、自分に注意が向けれられない状態なので、自分らしく過ごすことができません。また、自分のことを良く見せる生き方しか知らず、人に良く思われることで安心感を得るか、苦手な人を避けるか、人から悪意を向けられないように自分の安全を確保します。

 

人は恥をかくことへの恐怖と、恥をかくことによる闘争、逃走、凍りつきの身体反応への恐怖と、自分で自分をコントロールできなくなる恐怖と、そんな自分を見られてしまうことへの恥が二重、三重の恐怖のサイクルを作り出します。このサイクルにはまり込んでしまうと、恥をかくことに過敏になりすぎて、ちょっとした自分への噂や他者の表情なども気にして、周囲の気配が怖くなり、自分の思い込みによる恐怖がさらなる過剰な覚醒や凍りつき、パニック、原因不明の身体症状を作り出します。やがて、多彩な身体症状。精神症状を現わして、性格も変わっていき、職場や学校生活を送れなくなることがあります。その一方、恥をかかなくていいようにするため、見た目を着飾り、分厚い鎧を着て過ごす人もいます。

 

恥と自己愛トラウマという言葉は、精神科医で精神分析家の岡野憲一郎先生の御言葉です。解離やトラウマなどを研究されている先生ですが、自己愛トラウマとは、自己愛が傷つけられることにより生じる心的なトラウマのことであると述べています。そして、発達障害に関連した事件、いじめ、モンスター化現象など、様々な社会的な問題にこの自己愛トラウマが関連していて、自己愛トラウマは、トラウマと言っても、かなり身勝手なそれである場合が多く、本人の自意識が強く、人からバカにされ、脱価値化されることへの恐れが大きいばかりに、普通の人だったら傷つかなくてもいいところで激しく傷ついてしまう。問題はそれが人にとってはトラウマとして体験されるために、爆発的な反動を生み、それは怒りとなってあいまいな加害者達に向かい、彼らはその濡れ衣を着せられてしまうことが多い。実に複雑で厄介な問題を生むのであると述べています。

 

恥は自己愛の病理と重なっており、人前で恥をかかされたり、人から悪意を向けられたりすると、複雑なトラウマを持つために、身体が凍りついて、怒りをコントロールできなくなります。だからこそ、人に良く思われる必要があり、悪く思われることは恐ろしく、予測不能なことを避けようとします。人前で緊張する場面でも、恥をかかないようにとか、人に良く思われようとして、良い自分を演じます。そして、良い自分、凄い自分というふうに鎧をかぶることで自己愛性パーソナリティ障害になる人がいます。自己愛性パーソナリティ障害の人は、もともとは恥ずかしがり屋で、臆病で、目立たず、大人しい性格ですが、恥をかくことに恐れて、周囲に過敏に反応します。

 

自分に対しては、被害妄想と誇大妄想の間を行き来しており、他者に対しては、関係妄想を持ちやすく、 自分が人から悪く思われていないかを気にして、世間体や人の目に注意が向きます。一方、追いつめられてしまうと身体症状がでやすく、頭の中は興奮して、自分が自分でいられる感覚が弱まり、感情をコントロールできなくなります。そして、人前でうまくできない自分に恥ずかしく思っている部分に対して、分厚い鎧を着て、他者のことなんてお構いなしに喧嘩を吹っ掛け、他者に無関心に見える部分が表に出てきます。つまり、恥をかかせる相手に喧嘩をしていく部分と恥をかいていって惨めな部分の間に分裂が生じます。そして、他者のことなんてお構いなしに無作法に振る舞う自分のことを責めて、負い目を感じたり、自分も相手も大切できない惨めな自分を貶めていきます。

 

まとめると、恥のトラウマは、自己愛の病理に繋がります。過酷な環境に長くいることで、劣等感は強くなりますが、反発する力も強くなります。自己愛過敏型は、世間の目を気にしており、その環境に順応して、自然な流れに従います。自己愛無関心型は、世間の目を気にしていなくて、その環境に順応せず、自然な流れを拒みます。自己愛性人格障害に人は、過敏性と無関心の間を行き来するようになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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