> > トラウマを語ることの難しさ

トラウマを語る難しさ:言葉にできない心の痛みと社会的な壁


トラウマを語ることは、とても難しいことです。過去に自分が経験した辛い出来事を打ち明けても、「本当にそんなことが起きたの?」と懐疑的に捉えられることがあります。被害者であるにもかかわらず、「あなたにも何か原因があったのでは?」と責められることさえあります。さらに、真剣に話しているのに、相手が軽く受け流したり、話を深く理解しようとしないことも多々あります。こうした反応を繰り返し受けるうちに、次第に人に話すこと自体が難しくなり、相手の反応を伺いながら、結局は「どうせ理解してもらえない」と語ることを諦めてしまうのです。

 

家庭における親子関係に悩んでいる人は、友人や同僚と楽しく過ごす場面でも、自身の親や家庭について話題にすることを避けるようになるかもしれません。そうした話題が不快に感じられ、触れること自体が心の負担になるからです。同様に、レイプ被害に遭った女性は、友人たちとの会話で異性との恋愛話が出ると、それを楽しむことができなくなり、そのような話題に触れる場にいること自体が苦痛になることもあります。過去の辛い経験が心の奥に深く刻まれているため、それを連想させる話題に向き合うことがますます困難になり、会話や集まりから距離を置きたくなるのです。

言葉にできない痛み:トラウマを語ることの困難さとその背景


ここでは、なぜトラウマを語ることが難しいのかを考えてみたいと思います。トラウマを語るという行為は、過去に起きた経験を言葉で表現し直すことです。しかし、トラウマの多くは予期せぬ瞬間に突然襲いかかるものであり、被害者自身がその出来事をうまく処理できないまま、心の奥底に複雑な感情を抱え込んでしまいます。そのため、トラウマを言葉に変換することは非常に難しく、自分が何を感じ、どのような経験をしたのかを完全に理解できていないことが多いのです。このような未解決の感情や記憶を言語化する過程は、心の中に再び痛みを呼び起こすものであり、それがトラウマを語ることをさらに困難にしています。

 

トラウマを語るという行為には、多くの困難が伴います。トラウマ体験そのものを自分自身で十分に処理できていない場合、その経験を言葉にして他者に伝えることは、非常に難しい挑戦です。自分で完全に理解しきれていない複雑な感情や出来事を、あえて言語を通じて説明しようとするため、トラウマの現実をそのまま伝えられないこともあります。言葉に変換する過程で、トラウマが物語のように再構成され、ありのままの経験から距離を取った形で表現されることもあるのです。トラウマの深い痛みや混乱を言語化することには、そもそも限界があり、その過程で無理やり言葉に置き換えることが、さらに困難さを増してしまいます。トラウマを語ることは、単に体験を伝える以上に、言語化できないものを無理に言葉にするという重い課題を抱えているのです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

  

▶ネット予約 

▶電話カウンセリング 

▶お問い合わせ