> > ファンタジー世界への没入

ファンタジー・想像世界への没入


複雑なトラウマを抱えている人や神経発達が阻害されている人、病気がちな人は、現実世界の絶え間ない変化についていくことが大変になり、動かしがたい他者との関係に悩んで、生きることが苦しくなります。辛い日々が続き、体に痛みが走り、苦痛の度合いが強くなれば、無意識に自分を防御する姿勢を取り、脅威を遠ざけようとする防衛が働きます。このような特性を持つ子どもが、家庭や学校のなかで、自分を脅かしてくる人物がそばにいて、身体的にどこも逃げ場所がないと、自己が二極化して、バランスを保てません。自分を脅かしてくる人物に同調していく部分と、その人物のことが苦痛で、嫌だと思っている部分に分かれます。そして、自分を脅かしてくる人物への恐怖心が強いと、身動きが取れなくなり、その行為を受け入れていくしかなくなって、体の中に莫大なエネルギーが滞り、トラウマ症状が複雑化します。

 

自分を脅かしてくる人物(虐待する親、モラハラ夫または妻、いじめ加害者、性暴力加害者など)に対して、内心は敵意を感じていても、怒りより恐怖が強い場合には、言いなりになるか、合わせていくしかなくて、自分の心や身体、思考が固まるか、捻じれていくようになります。そして、自分を捩じりながらも、日常生活をこなして、正常かのように見せていきますが、自分の本心を聞くと、その人物に恐怖し、怯えていて、近づいてきてほしくないと思っています。不快すぎる状況にいて、自分ではどうしようもできない場合には、心はその痛ましいところから離れて、その痛みが入ってこない世界を無意識に作ります。苦痛にただ耐えるしかない状況でも、自分の身体感覚や現実感を切り離して、頭の中の考え事や白昼夢、空想の世界に飛んで、そこが自分の唯一の安全な場所になっていきます。そして、現実世界のストレスに曝されるたびに、慢性的に身体は収縮し、喉が苦しく、胸が痛み、手足の筋肉などは伸び切ってしまい、脱身体化して、未分化な状態に逃げ込み、頭の中で考え続けるか、ファンタジーな空想の世界で自分を癒します。

 

苦痛を解離させて、ファンタジーな空想の世界に没入することは、一般の人が早朝に見る夢の世界に似ています。そこは目に見えないものが見えてくる世界で、現実世界とは違い、大きな意味で何もない世界です。壮大な世界と自分が一つになり、自分のためだけの原初的な空間になります。夢見がちで感受性の強い子どもは、美しいものを見つけると、その世界に入りたいという気持ちになります。そのような時に、自分が好きなものを集めて、それに囲まれるようなファンタジーを思い描きます。さらに、想像上の人物を創り上げて、その人と喋ります。その想像上の人物は、自分の理想の投影であり、その人に守ってもらって慕います。彼らは、想像上の人物に可愛がられて、愛されて、この世に存在しない他者を慕うことで幸せを感じます。現実と空想の境が分からなくなるほど、ひたすら純粋で透明なものを求めて、自分の内的な空想世界に没入していくことにより、この現実世界を感じることから離れていきます。

 

ファンタジーな空想の世界に没入する人は、複雑なトラウマを抱えながら、人から感情を向けられることが苦手で、周りに気を使いながら生きてきました。彼らは、子どもの頃から、自分の居場所がなく、いつもひとりぼっちで、寂しい想いをして、生きることが辛いです。現実が煩わしく、自分の体は怠くて重くてお荷物で、その苦しい体から離れて、フワフワと形なく宙を浮き、自分と外の世界の境界線が消えて、まるで夢の中で生きているように感じたり、空想世界に入り浸り、心地良さを感じてきました。普段から、ぼーっとしていて、自分の体を切り離して、本や音楽、絵の世界、魔法のある世界、頭の中の空想世界に入り込んで、自分の中の世界に没頭します。

空想世界の暗黒面


複雑なトラウマがある人は、神経が張りつめて、身体が凍りついており、苦手な場面では、捻じれていくような感覚に陥り、過去と現在とが折り重なり、体ごと別の世界に移されたりします。そして、自分の体を現実に残して現実とは異なるあちら側の世界に行きます。解離傾向が高く、現実世界とあちら側の世界を行き来している人は、自分は現実だと思っていたことが実は夢の世界の出来事で、夢と現実の区別が分からなくなることがあります。彼らは、夢の世界で起きていることが現実だと思ったりしますが、夢の世界は、現実とは違うことも分かってきます。現実は違うということを知り、次第に夢の世界(空想世界)はネガティブに布置されます。

 

空想世界に没入する人は、子供の頃から、内的な空想が安心できる場所になり、社会の中での対人コミュニケーションを避けています。仕事中や授業中も空想に浸り込んで、現実から逃避して、上の空になり、実感が伴わないために何事も身に付きません。身体感覚を麻痺させることにより、対人関係の苦痛を減らし、頭の中の世界に生きるようになれば、身体の輪郭(ボディイメージ)がぼやけて、現実感も喪失していき、人間らしさが消えていきます。外を歩いていても別世界にいるような感覚で、人と話しても、遠くで人の声を聞いている感覚になります。彼らは、自分の身体はあるけど、現実に即した生き方ができなくて、時間の感覚が分からなくなり、時間がいつの間にか経っていたという経験をしています。空想世界に没入する人は、ストレスや嫌悪刺激への耐性が低く、今を感じることが難しい状態にあり、感情が動かず、感情を表現できません。また、人や社会に対して興味が沸かなくなります。現実との繋がりが失われて、自分以外の人がいない頭の中の世界で生きるだけになるので、そこは切なくて、寂しくて、結局、時間を無駄にしていくことになり、何十年も経った後に後悔します。

 

解離症状が重篤で、神経が繊細に反応する人は、嫌なことがあるたびに、自分の身体から離れて、空想世界の中で陶酔します。その空想世界に行っている間は、解離しているもう一人の自分が現実世界で生活しており、本来の自分はその間の記憶を無くしています。そのため、嫌なことがあると、瞬時に忘れることができるので、現実場面で自分がどんなことをしているのか分かっていません。場合によっては、解離しているもう一人の自分が感情的な行動を取って、人に迷惑をかけているかもしれず、人間関係のトラブルをよく起こします。他者からは、表情や仕草、話し方がコロコロ変わるように見え、急に怒り出したと思ったら、すぐに機嫌良くなることもあるため、呆気に取られたり、扱いづらいかもしれません。

 

▶ネット予約 

▶電話カウンセリング 

▶お問い合わせ

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-05-28 

論考 井上陽平