第1節.
うつ病を患いやすい人には、生まれつき身体が弱い方や神経発達に問題を抱えている方が多く見られます。こうした人々は、成長過程で他人の顔色をうかがいながら本音を隠し、家族や学校、社会の中で抑圧され続け、無力感やトラウマを抱えています。彼らは脅威にさらされ続けることで神経が過敏になり、逃げ場を失いがちです。周囲の期待に応えようとする真面目で従順な性格が、ますます自分の気持ちを抑え込む結果を招き、健全な成長を妨げます。
日常生活の中で、強いストレスや緊張にさらされ続けると、その限界に達した時、身体のバイオリズムが崩れ、突然心身が崩壊してしまうことがあります。エネルギーが枯渇し、心身ともに衰弱してしまい、まるで八方塞がりの状況に陥ったかのように、身体が硬直し、動くことができなくなります。これにより、心の跳ね返す力が失われ、うつ病に陥ります。
うつ状態の人は、特に頭、首、肩、背中が硬直するか、逆に力が抜けきっている状態になります。交感神経のエネルギーが消耗し、背側迷走神経による支配が強まると、頭と体の連携がうまくいかなくなり、血液循環が悪化し、手足が冷え、身体がだるく感じられるため、思うように動けなくなります。また、過去の罪悪感や悩みが頭から離れず、自責の念にとらわれることで不眠症が生じます。
朝は覚醒レベルが低いため、布団から起き上がることができず、絶望感に苛まれることも少なくありません。このような状況が続くことで、うつ病が深刻化していくのです。
うつ状態とは、まるで張り詰めていた糸が突然切れてしまい、体の中に重く鈍い感覚が残り、全身がその重圧に支配されるような状態です。体は異常な疲労感に覆われ、日常生活に大きな支障をきたします。その結果、体を麻痺させるか、頭が体を切り離して妄想の世界に閉じこもることがあります。この頭と体が分離した状態は、心身にとって非常に危険なサインであり、トラウマティックな緊急事態が生じていることを意味します。
この状態に陥ると、頭の中では過去の出来事が絶え間なく反芻され、嫌な記憶や考えが次々と浮かび上がってきます。これによって、悩みが増幅し、ネガティブな思考に支配され、心も体もますます重く、沈み込むような感覚にとらわれてしまいます。結果として、身体的にも精神的にも大きな負担がかかり、うつ状態が深刻化していくのです。
うつ状態にある人は、頭の中が常にネガティブな考えでいっぱいになり、細かなことにまで過度に気を配り、過去の行動に対する後悔が頭から離れません。これらの思考は堂々巡りを繰り返し、逃げ道が見えず、自分を責め続けることに苦しんでいます。この無限ループから抜け出すことができず、先の見えない不安の中で、何とか前に進まなければならないという状況に追い込まれます。
その結果、体は重く、動きたくないという強い無気力感に支配され、寂しさ、悲しさ、苦しさといった感情に押し潰されそうになります。まるで地獄の中にいるかのような感覚にとらわれ、どうしようもない妄想が頭を駆け巡ります。そして、深い悲しみや怒りを感じるよりも、心がポッカリと空洞化し、自分の存在を全否定してしまうような感覚が生まれます。この空虚感に加え、不安や孤立感が強まり、うつ状態はますます深刻化します。
うつに陥ると、物事をすべてネガティブに捉え、また悪いことが起こるのではないかと常に警戒し続けます。この警戒心が壁となり、自己破壊的な行動や意欲の欠如、自暴自棄に繋がることがあります。こうした症状は、うつ状態がどれほど深刻であり、日常生活に大きな影響を与えているかを物語っています。
第2節.
躁うつ病(双極性障害)を患う人は、うつ状態と正反対の躁状態を繰り返すことがあります。躁状態は、人生に対する興味や意欲を失い、気持ちが塞ぎ込むうつ状態から抜け出した後に現れます。この状態では、交感神経が過剰に活性化し、気分が異常に高揚して外部の刺激に過敏に反応しやすくなります。思考や行動が通常以上に活発になり、状況に不釣り合いなほどの高揚感を感じ、突発的な行動に出ることが特徴です。この時期の人は非常に前向きで、何でもうまくいきそうな無敵の感覚に陥ります。
しかし、この状態は、単なる心の問題ではなく、主に生物学的および神経学的な異常が背景にあると考えられています。双極性障害は、躁状態や軽躁状態とうつ状態が交互に繰り返される精神疾患であり、気分障害の一種です。脳と身体が異常な状態に陥ることで、躁状態の過剰な高揚感と活動性、そしてうつ状態の深い無力感や絶望感が交互に訪れるのです。これらの状態を適切に理解し、管理することが、双極性障害の治療において非常に重要です。
躁状態にある人は、まるで燃え盛る森の中に突進していくような衝動に駆られます。周囲に火が燃えさかっていても、その危険を顧みず、止まることなく突き進んでしまいます。たとえ嵐の中で体が引き裂かれようと、雷に打たれて全身が黒焦げになろうと、理性を失った状態で進み続けるのです。うつ状態から躁状態へと移行したとき、自分の限界を見失い、リスクを無視して無計画に行動する傾向があります。
典型的なケースでは、躁状態で調子に乗り過ぎ、うつ状態のときにその失敗を取り戻そうとして無防備に突き進んだ結果、さらなる問題を引き起こします。そして、物事が思い通りに進まず、余計に損失を重ね、再びうつ状態に逆戻りしてしまうことが少なくありません。
躁状態とは、トラウマ理論で言えば「過覚醒モード」に相当します。この状態では、好奇心や野心が極度に高まり、エネルギーに満ち溢れています。元気に見えるからといって、無謀に行動し続けると、やがて頭の中がオーバーヒートし、シャットダウンが起こります。これにより、手足が痺れて動けなくなるなど、身体的な反応が現れます。躁状態の高揚感は一見前向きなエネルギーに見えますが、その背後には自己制御の欠如やリスク管理の欠落があり、結果的にさらなる苦痛を引き起こす可能性があります。
第3節.
うつ状態にあるとき、自責感や罪悪感、そして希死念慮が頭の中をぐるぐると巡り、非常に辛い状況に陥ります。生きていくことさえ困難に感じられるかもしれませんが、身体の状態を改善するアプローチを取り入れることで、状況を少しずつ好転させることができます。
まず、最も手軽で効果的な方法は薬物療法です。精神科医に相談しながら、自分に合った薬を調整してもらい、抗うつ薬や抗不安薬を用いて、心身の負担を軽減しましょう。
次に、時間はかかりますが、身体に意識を向けるアプローチも非常に有効です。これには、自分の身体の声に耳を傾け、身体の反応に従うことが含まれます。周囲の期待に応えようと頭で考えすぎるのをやめ、身体が本当に何を必要としているのかを感じ取るようにしましょう。これにより、絡まっていた思考が次第にほぐれ、自分を受け入れ、安心感を得ることができるようになります。結果として、自分の軸を持って人生を歩めるようになるでしょう。
ただし、うつ状態から回復する過程では、注意が必要です。今までの元気のなさを取り戻そうと、頑張りすぎることで、ハイテンションの躁状態に移行してしまうことがあります。身体の調子が良くなり、思考や活動が活発になるのは良い兆候に見えますが、それが躁状態によるものである可能性もあります。治療を継続し、自分の状態を冷静に観察しながら進めることが大切です。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平