人間が「生きるか死ぬか」「戦うか逃げるか」の極限状態に直面すると、交感神経が過剰に働き、全神経が外部に向かって警戒態勢に入ります。このとき、恐怖や怒りによって心臓が激しく鼓動し、心拍数や血圧が上昇します。筋肉は極限の力を発揮できるように緊張し、まるで猫が毛を逆立てるような感覚に襲われます。しかし、自分が敵に対して圧倒的に不利な状況にあると、次第に抵抗する力を失い、動けなくなり、襲いかかる痛みに耐えるしかなくなります。
危険を感じたとき、人間は胸や首、頭部に圧迫感を覚え、身体が硬直し、恐怖心から息が詰まることがあります。殺すか殺されるかの場面では、顎を下げ、歯を食いしばり、肩が上がり、全身に力がみなぎり、攻撃に対して防御の姿勢をとろうとします。それでも危険から逃れることに失敗し、絶望的な状況に追い込まれると、身体は自然と身を守る態勢を取り、背中を丸め、頭を抱え込んで不動状態になります。
この不動状態が続くと、こめかみが脈打ち、頭や首、肩が重たく感じられるようになります。頭痛が始まり、喉元に腫れたような違和感が生じ、唾を飲み込むのも困難になります。顔全体に圧迫感が広がり、赤みを帯びて汗がにじみ出ます。目は見開かれ、充血し、涙がこぼれそうになります。特に恐怖を感じるのは、首の圧迫感と胸の痛みであり、これが呼吸を止め、脳への血流を妨げるような感覚を引き起こし、恐怖が増幅します。
脅威的な状況で凍りついて身動きが取れなくなると、全身に鳥肌が立ち、震えが止まらず、筋肉が固まります。身体の内部では神経や血液、リンパの流れが遮断されたかのように感じられ、身体の上部と下部が分断されるような恐怖に襲われます。息が詰まるような危機的状況では、頭と首に強いショックが加わり、その部分がぎゅっと縮まり、筋肉が崩壊していくかのような感覚が生じ、最終的には身体が崩れ落ちるように倒れ込んでしまいます。これに伴い、心臓の鼓動が弱まり、心拍数や血圧が低下し、脳への血流が滞って意識が朦朧とし、そのまま気を失うこともあります。
不動状態から意識が遠のいていく解離や機能停止の感覚としては、胸に硬い塊ができ、息苦しさが増し、呼吸が浅くなり、頭が真っ白になります。皮膚の感覚が消え、自分が自分でなくなったように感じ、意識がすーっと抜けていき、体の感覚が消失し、夢の世界に入り込むような感覚が襲います。これが現実の場面で起こると、胸が苦しくなり、声が出せずにうずくまり、意識が遠のいて時間が過ぎ去るか、自分が別の場所に移動したかのように感じられるでしょう。
トラウマによるショックを受けると、身体はもがき苦しみ、頭の中は砂嵐のように混乱し、神経系がその急激な変化に追いつかなくなります。これにより、心と身体が分離した状態で生活するようになることがあります。トラウマの影響で身体の神経が過敏になると、過覚醒、凍りつき、虚脱、不随意運動、チック、トゥレット症候群、痙攣、驚愕反応など、さまざまな症状が現れる可能性があります。
日常生活の中でトラウマのトリガーに頻繁にさらされると、目や口、耳、顎、首、肩などが無意識に危険を察知し、勝手に動こうとします。また、呼吸が浅くなり、心臓の鼓動が急に早まるなど、身体は不快な反応を示し、感情の浮き沈みが激しくなることがあります。憎しみや不安、焦り、苛立ちなどの感情が沸き起こり、それが持続的に影響を与えます。
幼少期から複雑なトラウマを抱える人々は、他者から傷つけられる恐怖を常に抱いており、攻撃を受けた際にはそれを防げないと感じ、身体がギュッと縮まり、その状態にロックされてしまいます。外部への警戒心が強く、神経を張り詰めた状態で生活を送ることで、あらゆる刺激に敏感になり、トラウマの悪循環に陥ります。慢性的な過緊張や凍りつきの状態が続くと、リラックスする神経が機能しなくなり、呼吸は浅く、血液循環が悪化し、表情も消え、体力が低下し、生きることが辛くなります。
さらに、過酷な環境で身体が凍りつくと、心臓や気管支、胸腺が収縮し、免疫機能や内分泌系に異常が生じやすくなり、体調を崩しやすくなります。一般的に見られる心身の不調としては、動悸、胸の圧迫感、頭痛、眼精疲労、顎の緊張、喉のつっかえ、肩こり、便秘や下痢、吐き気、お腹の張り、目の違和感、耳鳴り、めまい、貧血、口の渇き、生理不順、身体の痛み、喘息、痺れ、冷え、多汗、話しづらさ、倦怠感、慢性疲労、不眠、苛立ち、落ち込み、無気力などがあります。
トラウマを身体に閉じ込めている人は、脅威の対象を見ると目をそらすか、逆に凝視し、筋肉が硬直して石のように固まります。無意識のうちにそうした事態を避けるため、脅威の対象がますます怖くなります。例えば、対人恐怖が強い人は、背後に誰かが立つだけで身体が硬直し、胸が苦しくなり、呼吸がしづらくなります。自律神経系の乱れから、自分をコントロールできないことが怖くなり、恥ずかしさを感じることもあります。嫌われたらどうしよう、見捨てられたらどうしようと考え、人に良く思われようと過度に努力することもあります。過緊張が続くことで、肩が上がり、奥歯を噛みしめる習慣がつき、顎関節症が悪化することもあります。
長年にわたる過緊張や凍りつき状態は、身体に炎症反応を引き起こし、胃腸の炎症、鼻炎、口内炎、喉の炎症、皮膚の痒みなどの症状が出ることがあります。鼻づまりが強くなると、息が吸えなくなり、脳が酸素不足に陥り、身体機能が低下し、免疫機能も弱まります。身体が凍りつくと、喉や気管支が収縮し、息苦しさや喉の渇きが生じ、空気を飲み込む癖がつきます。これが続くと、胃腸に空気が溜まり、お腹が張り、人前に出ることが恥ずかしくなります。背側迷走神経が優位になると、脳への血流が減少し、めまいやふらつきが頻繁に起こるようになります。また、胃腸の活動性が高まるため、お腹の痛み、下痢、吐き気、胸焼けが生じやすくなります。
トラウマが慢性化すると、手足が冷え、関節が痛くなり、内臓は空っぽで、胸には鈍痛が走り、身体が鉛のように重たく感じられます。心と身体を動かすことが非常に困難になり、日常生活を正常にこなせなくなります。そのため、恐怖や痛み、辛さ、不快感をできるだけ感じないようにし、日常生活をあたかも正常であるかのように過ごします。しかし、身体の麻痺が解けると、胸が苦しくなり、吐き気や気持ち悪さ、寒気、鳥肌、震え、電気が走るような感覚が生じます。最も深刻な状況では、身体があまりにも辛く、ストレスと戦う力を失い、寝たきり状態になり、身体を起こすのも困難で、生きながら死んでいるかのような状態に陥ることもあります。
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2019-10-12
論考 井上陽平