プレイセラピーの効果と役割: 子どもの心を癒す遊びの力


プレイセラピー(遊戯療法)は、言葉で感情を表現するのが難しい子どもたちにとって、非常に効果的な心理療法です。セラピストと子どもが遊びを通じて築く関係を基盤に、子どもの心のケアを進めていきます。子どもは自分の体験を言葉で伝えることが難しく、特に痛ましい出来事に関しては、適切に表現できずに心の中に閉じ込めてしまうことが多くあります。このため、心の傷が周囲に気づかれずに、長期間放置されてしまうリスクがあります。

 

プレイセラピーでは、プレイルームが子どもの心の安全な場所となり、自由に感情や内面的な体験を象徴的に表現できる空間が提供されます。子どもは遊びを通じて、自分の中にある恐れや悲しみ、混乱を少しずつ外に出し始め、セラピストとの信頼関係を築く中で、心の回復が促されます。この過程を通じて、子どもは自分の感情を理解し、整理し、やがてそれを乗り越えていく力を育むことができるのです。

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母と乳幼児の絆が育む自己感覚の発達


生後5〜6週頃になると、乳幼児は母親が自分に関心を向けていることに非常に敏感に反応します。この時期の母と子は、言葉に頼らずとも自然に互いを感じ取り、無条件にかみ合った関係を築き始めます。その結果、生き生きとした情動が互いに引き起こされ、母子間の絆が深まります。このような親密な関わりが感情の基盤となり、乳幼児は安心感や愛情を感じることで、心理的に安定して成長するのです。

 

さらに、生後6か月を迎える頃には、乳幼児は母親の心の中にある感情を読み取る能力を発達させ、母親とともに興味のあるものを共有しようとします。このような相互作用を通じて、母子の間に生まれる感情的な調和を「情動調律」と呼びます。情動調律は、母親と子どもが互いの感情に合わせて応じ合うプロセスであり、子どもの感情的な発露や表現を引き出します。

 

母親の情動的な応答性が育まれることにより、子どもは自分の感情を自然に表現できるようになり、その感情を通じて「自分が自分である」という自己感覚を形作っていきます。情動調律は、自己感覚の発達と密接に関わっており、このプロセスがしっかりと機能することで、子どもは心の中で安心感と自己の存在感を確立していくのです。

プレイセラピーが子どもにもたらす力


子どもは常に一緒に遊んでくれる存在を探しています。遊びは、子どもの生活そのものであり、彼らが感情を表現し、他者と関わり、学びを深めるための最も自然な手段です。遊びの中で、子どもは自分の内面を他者と共有し、模倣や試行錯誤を通じて、世界を少しずつ理解していきます。

 

プレイセラピーでは、セラピストはただ子どもの遊びを観察するだけではなく、子どもと一緒に遊びに参加し、共感的な関係を築いていくことが重要です。セラピストは、子どものファンタジーの世界を大切にし、その世界を壊さないように細心の注意を払いながら、子どもの内的な体験に言葉や表情で応答します。これにより、子どもは自分の心の中で起こっていることをセラピストの言葉や態度を通じて再確認し、自分の感情や思考に向き合うことができるのです。

 

このプロセスの中で、子どもは自身の内なる世界とセラピストの反応が一致する瞬間に、特別な喜びを感じます。内的な体験が外的な現実と「ピタッ」と合う体験は、子どもの自信を高め、目を輝かせて生き生きとしたエネルギーを引き出します。さらに、セラピストが楽しそうに子どもの遊びに関わる姿を見ることで、子どもは自分が価値のある存在だと感じ、自尊心が育まれます。

 

こうして繰り返される遊びの中で、子どもはこの世界を意味のある場所と捉え、将来に向けての可能性を広げていきます。プレイセラピーは、発達に課題のある子どもたちだけでなく、健康な子どもにとっても、心の成長と自己理解を深めるために有効な手法であると考えられます。

遊びによるトラウマからの回復


想像を絶するようなトラウマを負った子どもは、自我と現実の外的世界をつなぐ大切な「移行空間」において、計り知れない恐怖と破壊的な出来事を経験します。この強烈なトラウマによって、子どもが本来持つ心理的な創造性は失われ、生き残るための厳しい防衛機制が形成されていきます。その結果、身体症状や憂鬱な空想、依存症などに発展し、やがてパーソナリティ障害を引き起こす可能性が高まります。

 

こうした破壊された移行空間を回復するためには、精神分析家ウィニコットが提唱する「遊ぶこと」が非常に重要です。遊びは、トラウマを抱えた子どもにとって自己を再発見し、内的世界を再構築する手段となります。子どもは遊びの中で、やりたいことや楽しい活動に没頭しながら、外的な世界から新たな経験や物事を取り入れ、徐々に自分の内的世界を豊かにしていきます。

 

トラウマによって破壊された自分自身を取り戻すこの過程は、単なる遊び以上の意味を持ちます。それは、子どもの心が再び自由に想像し、創造する能力を取り戻すことを助け、外的世界との健全なつながりを再構築する重要なプロセスです。

 

トラウマを専門とするセラピストは、この遊びのプロセスを通じて子どもの回復を支え、共に歩んでいきます。遊びを通じて子どもは、自分の傷ついた心を癒し、目標や目的を持って外界と向き合う力を取り戻していくのです。この治療的な遊びは、子どもが本来持っている創造性を再発見し、自分の内なる世界を豊かに育てるための重要な一歩です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平