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心の傷と向き合う勇気—トラウマ治療の恐怖


トラウマに向き合うことは、非常に困難で大きな勇気が必要です。トラウマの記憶やそれに伴う渦巻く感情、そして麻痺した身体に向き合うことは、あまりにも怖いため、逃げようとするのは自然な反応です。トラウマは、心の深い井戸の底にある絶望であり、その場所は息ができず、頭が真っ白になり、身体がバラバラに動いたり捻じれたりする恐怖を伴います。それは、瀕死の状態で誰にも助けを求められず、一人で逃げ込んだ暗闇の場所です。

 

トラウマを抱える人は、そこで感じた孤独や無力感と向き合うことが非常に困難である一方、そこに勇気を持って向き合うことで、心の解放と癒しへの第一歩を踏み出すことができます。トラウマの影響を理解し、その恐怖に少しずつ立ち向かうことが、回復への重要なプロセスです。

トラウマに向き合う恐怖—深い苦しみから安心感を得るために


トラウマに向き合うと、予期せぬ悲しみや怒り、虚しさが次々と引き出されます。息苦しさや胸の痛み、胃の不快感、手足の異常な動き、震え、涙など、これまで無意識に避けてきた感情や体の反応が一気に表面化します。そのため、トラウマに向き合うには、トラウマを理解している専門家の支えが欠かせません。専門家のもとで、地獄のような経験をもう一度乗り越えることで、耐え難い記憶を処理していくのです。

 

しかし、トラウマと向き合うということは、自分自身が崩れ去る恐怖にも向き合うことを意味します。それは、いつ奈落の底へ落ちるか、宇宙の外に投げ出されるかわからない、非常に危険で深い内面の旅です。この危険な道のりを進むためには、専門家の伴走が必須であり、彼らの助けを得ながら進むことで、少しずつ回復への道が開かれていきます。

 

トラウマに向き合うことは非常に大変な作業ですが、トラウマの状態に固着してしまうと、心身が麻痺し、何も感じなくなったり、動けなくなる可能性があります。脳や神経が常に危険を警戒するようになり、焦燥感に駆られてしまい、疲れ果てることもあるでしょう。体がトラウマに染まると、ネガティブな考えに囚われ、人との深い関わりができなくなり、意欲や自信を失いがちです。

 

また、トラウマの蓋を開けようとすると、嫌な記憶や感覚が蘇り、その渦に飲み込まれることを恐れて、向き合うことを避けたくなるかもしれません。トラウマ記憶が蘇ると、胸の痛みや身体の緊張、気持ち悪さを感じ、自分の殻に閉じこもりたくなることもあります。トラウマのコアに近づくほど、身体の反応は激しくなりますが、問題解決の糸口を見つけ、自分なりに納得できる答えにたどり着くことで、緊張が解け、深い安心感を得ることができます。

トラウマ治療のステップ—凍りついた感覚を解き放ち、安定した日常を取り戻す方法


トラウマ治療では、自分の体が感じる震えや不快な感覚、そして感情に向き合い、それによって体が凍りついた状態を解放していく作業が必要です。まずは、トラウマの「地獄」と「天国」の間を少しずつ行き来しながら、健康状態を徐々に向上させます。不快な感覚や感情と向き合い、不動状態に陥る体験を繰り返すことで、嫌な出来事が起きても体が凍りつきにくくなります。

 

体が凍りつきにくくなると、迷走神経系の不快な反射が減少し、さまざまな症状も次第に軽減されていきます。その結果、社会的交流を司る腹側迷走神経系が優位になり、日常生活をより安定した状態で過ごすことができるようになります。これにより、交感神経系や背側迷走神経系の過剰な働きを抑制し、トラウマの世界から抜け出すことが可能になるのです。

 

長年にわたり、トラウマを抱えている人は、不快な感覚や感情を麻痺させ、表面上は正常に見える日常生活を送ってきました。しかし、トラウマ治療が進むにつれ、体験を追体験し、抑え込んでいた感情や感覚が蘇ります。これにより、心と体が再び一致していく一方で、フラッシュバックによって怒りや悲しみ、恥辱、恐怖、さらには復讐心などの強烈な感情が溢れ出ることもあります。

 

特に、加害者への復讐心が強く湧き上がる場合には、その感情を健全に表現することが重要です。実際に復讐に走ると、刑事罰を受けるリスクがあるため、過剰な覚醒状態においても、自分の攻撃性を適切にコントロールする必要があります。また、治療の過程では、心と体を切り離すことなく、自己調整のスキルを身につけることで、不快な感覚に振り回されずに日常生活を送ることができるようになります。これがトラウマからの真の回復の重要なステップです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平