ボーダーラインカップル

▶ボーダーラインカップル

 

ボーダーラインカップルという用語は、「精神医学ハンドブック」のなかで小此木啓吾が使っていた言葉です。自己愛性人格障害と境界性人格障害のカップルは、一定程度の関係を築けることがあるようです。確かに、自己愛性の人も境界性の人も魅力的なところがあるので、自己愛性男子の仮面の使い分け、演じ方、言葉巧みな操作性の高さから、境界性女子の不安定さに打ち勝てるのかもしれません。一般的に、境界性女子が求めている相手は、自分を家族としてもらってくれるような理想的な両親像の相手か、魂を引き合わせてくれるような運命の人でしょう。そして、自分だけを見てほしい、何時でも自分の味方になって安心させてほしいと思っていています。パートナーまたは、親が他の人と話すと、ひとりぼっちの気分になって落ち込んだり、発汗して身体がこわばったり、傷ついて自分なんていらない存在と思ったり、みるみる自分が小さくなってどこか遠くにはじかれたりと、恐ろしい体験をしているかもしれません。

 

ボーダーライン女性は魅力的だと言われています。生と死が身体のなかでせめぎ合っており、顔、顎、首、肩、胸辺りが常に緊張していて、姿勢がよく、胸より上の鎖骨の部分、華奢な首、端正な顔立ちの方が多いです。さらに、見捨てられ不安が強く、人のよく思われたいと思っているので、自分自身の見た目に気を使っています。社会に適応的な男性は、生まれてきたときから負を背負って、怖がりで、悲しみが似合い、傷つきすぎた姿に恋をします。また、感受性豊かで、親に求めて叶わなかったことを、してほしいと求める子どもっぽさや大人の振る舞いができるそのギャップに魅力を感じます。

 

境界性パーソナリティ障害の方は、もちろんのこと、周りの人もとても苦しい思いをしていることが多いです。最初のうちは、ボーダーラインの人を守りたいとか、助けてあげようとして手を差し伸べますが、何度も振り回されているうちに、うんざりして、疲れ切ります。思いやりのある人や孤独で愛に飢えている人ほど、ボーダーラインの人に巻き込まれやすいと言われています。一般的に、不幸な生い立ちで見捨てられ不安の強い女性に対して、救済的な幻想を抱く男性との間では、一定の安定した関係性が継続されることがあります。あなたがいないと生きていけないというかよわい女性の想いに、男性はありったけの愛情で答えますが、女性は些細なことで幻滅し、苛立ち、男性は翻弄されてしまって関係が破綻します。しかし、その後、償いや許しのドラマが繰り広げられた場合は、劇的で際限のない愛の世界へと発展します。

 

▶ボーダーラインカップルの破綻 

 

ボーダーライン特有の女性の不安定さに振り回されて、男性の方がクタクタに疲れ切りますが、感情的にも金銭的にもたくさん投資してきたために未練がましくなります。そして、男性の方が社会的に成功して力があれば、女性は男性に支えられ限りなく関係を続けていくことが可能です。しかし、男性の方が投資出来なくなると、ボーダーライン女性の不安定さを操作できなくなるので、抑うつ感や絶望感に落ちていきます。ボーダーライン女性がとても魅力的な場合は、関係が破綻しそうになると男性の方が暴言暴力で脅すか、自殺をするなどの脅しをして、女性が心配して探し回るという初期の関係とは反対になっていくことがあります。また、ボーダーライン女性の魅力が乏しい場合は、男性の方が何もしなくなっていきます。女性は、男性の態度に腹が立ち、イライラして、手を出してたり、やり返されたりして、体も頭もおかしくなっていきます。男性か女性かのどちらかが別れを切り出して、どちらかがしがみきつくことを繰り返して、やがて関係が破綻するか、ダラダラとした膠着状態が続くかもしれません。

 

▶ボーダーラインカップルの夫婦関係

 

ボーダーライン妻とその妻を支える夫との関係を描いた一文があるので紹介します。
「母親的な夫との間では安定していたのに、子育てで境界症候群をあらわす。夫と恋愛、結婚することによって、彼女は、見かけ上、大変安定した結婚生活を送った。寝食を共にするだけでなく、仕事も一緒にして、一日じゅう、そばで夫の仕事を手伝い、全面的に二人だけの共生的な間柄が出来上がった。夫も、このことで満足を得て、妻も自分の不安が緩和され、特有な依存関係が出来上がっていた。ところが、妻が妊娠し、出産することによって、子どもの世話を実家の母に頼ることもできず、ひたすら自分と夫だけを育てようとしたのであるが、夫が少しでも自分より優先して、赤ん坊をかわいがると、夫、ひいては赤ん坊に当たり、しまいには、夫のつくった商品を包丁でズタズタにして、床に投げたり、赤ん坊をほうり投げたりするようになった。夫の関心が赤ん坊に移った分、夫との間も嫌悪になり、子どもに対する対する虐待がしだいに深刻化した。本来、夫は自分が母にしてもらったケアを妻にしていたのだが、赤ん坊が生まれて、その母性的なケアが赤ん坊に移り、妻は、この三角関係の中で、夫から自分への愛情を奪った子供に憎らしい妨害者に対する攻撃を向けるようになったのであるこのように、子どもさえいなければ、二人だけで共生的ー自己愛的に安定しているボーダーライン妻と夫との夫婦関係はしばしば見受けられる。

▶境界性パーソナリティ障害の彼女との恋愛

 

境界性パーソナリティ障害の方と一生を添い遂げようと思うまでは誰でもできますが、一緒に暮らすとなるととてもリスキーで大変だと思います。たとえ無事に結婚できたとしても、あなたが境界性パーソナリティ障害の人の精神状態を悪くするトリガーそのものになってしまったら一緒に暮らすことが難しくなり、関係は破綻していきます。基本的に、境界性パーソナリティ障害の人は、ストレスや不安への耐性が著しく低くなっているため、ほんの些細な刺激に対しても不安、恐怖、寂しさ、孤独、苛立ち、興奮を感じてしまい、不確かさの感覚に耐えれません。そのため、物事を善か悪か、白か黒か、快か不快か、敵か味方かといった二分法の中に確かさを求めて、自分を守ろうとします。また、境界性パーソナリティ障害の人は、自分の内側に情動的人格部分を抱えているので、自分が自分で保てなくなることを恐れて過剰に適応します。常に人に良く思われたいと思っていて、自分の悪い部分は分裂排除されています。人間関係に失敗しないように相手に合わせようとしていますが、次第にそれが無理になり、相手に合わせることが耐えられなくなって、相手が失敗したりすると怒りの感情でいっぱいになります。また、相手を自分の思う通りに動かしたいと思っていて、自分の望むマイルールを押し付けたり、周囲を操作したりします。さらに、情緒不安定で、今の苦しい状況に耐えることが難しく、目先の利益にこだわるため、長期的な展望を持てません。従って、普通の家庭で育った人は、境界性パーソナリティ障害の人のこころの世界を理解することが難しく、安易に傷つけて、振り回してしまう結果になります。まずは、境界性パーソナリティ障害についての最新の書籍をお互いに読み合うことから始めて下さい。

 

境界性パーソナリティ障害には、さまざまな症状がありますが、感覚過敏で神経質でストレスを感じやすく、情緒不安定です。ストレスによる過覚醒や部分的なフラッシュバックが生じているときは、左脳の働きが鈍くなっているので、理性的な判断を求めても難しいです。さらに、解離性症状でいきなり倒れたり、身体が固まったりしているのは、わざとしているのではないので、手を握ったり、抱擁してあげてください。また、情動の嵐のときは、記憶が抜け落ちたり、客観的に自分のことを分析できないので、すぐ人のせいにして、いつも傷つけられた被害者でいるかもしれません。あとは、自傷行為などはかまってほしくてしているわけではなく、自分への罰とか、生きている感覚を取り戻すためとか、胸が潰れそうな思いや耐えられない痛みよりはまだましだからしています。

 

境界性パーソナリティ障害の方のパートナーになるのでしたら、長い時間とお金はかかりますが、心理療法やカウンセリングなどの治療を受けるとか、ヨガやダンス等の習い事をすることをお勧めします。境界性パーソナリティ障害に人は、通常の人よりも、些細なことでストレスや不安を感じやすく、交感神経が活発に働き、ときに原始的な背側迷走神経が主導権を握り、脳のシャットダウンが起こります。治療では、環境調整をしていきながら、腹側迷走神経の働きを優位にして、社会交流システムを活性化させることが一番の早道です。従って、外の世界の人々の繋がりながら、自分のやりたいことに取り組み、穏やかに過ごしていくことが回復の道のりになります。まずは、カウンセリングやマインドフルネス瞑想、ヨガ、ダンスなどを受けて、頭をスッキリさせて、今ここの集中力を高めていき、目的意識や方向性を見つけていきます。そして、彼らがやりたいと思っていることに存分に取り組んでもらい、幸せを実現させる方向に持っていくのが良いです。また、親にしてほしかったことをパートナーに求めてくるので、しんどくなることもあるでしょうが、できるかぎり一緒のことをして、一緒に楽しんで、たくさんの時間を過ごすことが必要です。ある程度、健康になれば、認知行動療法や分析的カウンセリングを受けて、知覚や認知の歪みを修正していった方が生きやすくなると思います。

 

参考文献

小此木啓吾、深津千賀子、大野裕「精神医学ハンドブック」創元社 2004年

 

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