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重大な犯罪と児童期の逆境体験


 第1節.

解離性同一性障害と犯罪


以前、仲間由紀絵恵が演じる人物が解離性同一性障害という疾患を装って犯罪を繰り返すという設定の「ミスターブレイン」というドラマがありました。解離性同一性障害は、かつては多重人格障害と呼ばれており、幼少期の虐待などの強い心的外傷を受けると、そのつらい記憶を意識にのぼられないように人格が解離し、人格の同一性は損なわれることが原因で、犯罪が引き起こされる可能性があるかどうかを考えてしまいます。

 

人は大きなストレスやトラウマなど耐えることができない苦痛に遭遇した時、自己防衛機能のため、その時の感情や記憶を切り離すことによって苦痛を一時的に回避することがあります。さらに、切り離された感情や記憶が成長して別の人格になることによって引き起こされる障害を解離性同一性障害と呼んでいます。

 

解離性同一性障害と犯罪との関係については現実の世界においても色々と話題になっています。実際に司法では、被告が犯行時に心神喪失の状態であったかどうかが争点となり、医師による精神鑑定が重要になっています。「解離性同一性障害があり、心神喪失の状態で意思能力に欠けている」、「別人格の犯行を装っているが詐病でる」などの主張がなされ、責任能力の有無が争われます。

 

解離性同一性障害の人が犯罪を行った場合、裁判時に自分の中の別人格が犯したのであって自分は無罪であると主張し、精神鑑定が行われ、病気が主原因であると無罪になることがあるため、病気か演技かどうかが争われます。このような解離性同一性障害と犯罪の関し、1977年、米国のオハイオ州立大学で起こったビリー・ミリガンの事件がダニエル・キイスによって「24人のビリー・ミリガン」という題名で小説家されたこともあって世界中で有名になりました。

 

23才のビリー・ミリガン(1955年~2014年)は大学キャンパス内で3人の女性に対する強盗強姦の容疑で逮捕されました。しかし、彼には犯行の記憶がなく、なかなか真相が明らかになりませんした。最初、彼は嘘つきか二重人格だと思われていましたが、彼の担当弁護士が彼の異常性に気づき、精神科医を呼び、調査した結果、彼が複数の人格を持つ多重人格者であることが分かりました。驚くべきことに彼の中に彼以外に一人一人鮮明な感情、性質、成育歴、言葉使いを持ち、3才から29才の年齢の異なる23人もの人格が存在することが判明し、捜査に携わった人々に大混乱をもたらしました。

 

結局、彼は裁判では無罪を言い渡されましたが、その後10年ほど精神病院を転々とし、1991年、裁判所は精神が安定したとして開放されました。なぜ彼が多重人格者になった理由として、精神科医の見解によると、実の父親が自殺し、養父による幼児期の虐待と母に対する分離不安が影響していると考えられています。

 

解離性同一性障害の人たちは、精巧に作られた人格間システムを要しますが、外界の精神的ショックを期に、内部崩壊を起こしてしまうと、危険な人格部分が表に出てくる可能性があります。危険な人格は、人間を邪魔する敵のように認識し、暴力を振るう、器物を破損させる、物を盗む、自分を傷つける方法しか知らないために、犯罪に手を染めるか、犯罪を好んで行うようになるかもしれません。解離性同一性障害の人は、何度も警察のお世話になることがあり、自分が自分でなくなることや人格交代してしまうこと、記憶がない間に何をするかわからないことに恐怖し、身動きが取れなくなり、慢性的な自殺志向につながるかもしれません。

 

ここからは、解離性同一性障害者の犯罪だけでなく、小児期の逆境体験により、生きづらさを抱えてきた人に焦点を当てます。複雑なトラウマを抱えている人が、フラッシュバックのトリガーが引かれると、人の身体は過覚醒や凍りつきますが、その時に、錯乱等の解離状態、解離性フラッシュバックに陥って、被害者や加害者、時には両方の役をとりながらをトラウマの再演を繰り返すという犯罪について述べていきます。

 第2節.

犯罪に至る攻撃性


犯罪に至る攻撃性は、合理的な脳が働かず、激しい感情をコントロールできなくなるときに起こりますが、この攻撃性は2種類あります。一つ目は、危険を感じた人が交感神経系に乗っ取られて、過覚醒のときに生じます。このときは、脳と身体の神経が脅威を遠ざけようとして、大脳辺縁系の働きが強くなり、情動脳と理性脳のバランスが崩れて、闘争・逃走反応の攻撃性が出ます。二つ目は、危機的な状況において、身動きが取れなくなり、背側迷走神経に乗っ取られている人が、死んだふりからの過剰な覚醒のときに生じます。このときは、爬虫類脳が優勢で、周囲を警戒し、敵を見つけたら飛び掛かろうとする激しい攻撃性になります。

 第3節.

犯罪者の子ども時代


犯罪者の多くは、酷い子ども時代を送っていて、様々な虐待とか、事件や事故に巻き込まれたり、差別されたりして、複雑なトラウマを負うような被害体験をしています。例えば、家庭が貧しかったり、お母さんが家出していたり、父親から暴力をふるわれる母親の姿をみていたり、あまりにもしんどくて小さい頃のことをほとんど覚えていないことがよくあります。特に、虐待被害を受けている子どもは、肌を包んで安心させてもらえる温もりの代わりに、暴力や暴言に怯えているため、恐怖に凍りついて、慢性的に収縮した状態で生活しており、ちょっとしたことでも、頭の中が真っ白になり、自分が自分で無くなります。その一方で、自分が自分でなくなり、交感神経系に乗っ取られて、情動的な部分が表に出てくる場合には、大人に反抗的で挑戦的な態度を取る部分が反撃しようとして、更なる虐待を呼び込みます。

 

彼らは、子どもの頃から人に対して臆病ですが、神経を尖らすことで自分を守ってきました。そして、虐待やいじめにあったことを、大人に助けてほしいとか、分かってほしいと訴えても、自分の辛さを分かってもらえず、関係性に疲れて、どうせ自分は駄目な人間なんだと悲しんできました。いつの間にか、痛みが大きくなりすぎて、自分のことなんかどうでも良くなり、自分を傷つけたり、人がやらないようことをやったり、あえて悩ましい状況を作るようになります。

 

幼少期にトラウマがある人が、生活全般の困難が増していくと、考えがネガティブになり、不安や動揺を感じていくようになります。脳や身体の神経は、反射的に危険があるかどうかを細かいことまで警戒するようになり、ストレスホルモンは絶えず高くなります。ストレスホルモンが高い状態にあると、サバイバル脳になっていき、落ち着きがなくなり、集中力を欠くようになります。また、過覚醒になると、前頭葉が十分に機能しなくなるために、自分や他者の精神状態を十分に読み取り、受け取ることが下手になり、理性的な判断が出来なくなります。そして、トラウマのトリガーが引かれると、合理的な脳が働かなくなり、扁桃体の暴走を止めれず、抑制力や先を見据えた判断力を失ってしまって、自動的に逃走モードや闘争モードに入ります。そういう状態では、学業でつまづきやすく、学校という枠組みのなかには収まりきらず、家庭では理不尽に扱われて、自分なんて生まれてこなければ良かったと思うようになります。そして、明るい世界を見ていくことがつらくなり、人から軽蔑されるようなことを態度をとって、社会から逸脱しようとする力の方が強くなります。

 

不条理なトラウマの影響により、慢性的なストレスと緊張が続くと、体は縮まり、常に凍りつくようになります。凍りついた体を持つ人は、自分の体の感覚が分からなくなり、自分が何者かも分からなくなります。自分というものが無くなると、人の心が分からなくなり、人の権利なんかどうでもよくなります、体は動かしづらく、固まり続けているため、ストレスを感じると何者かに押さえつけられているような重圧を感じます。固まり凍りつく時間が長くなるほど、体の中には莫大なエネルギーが滞るようになり、エネルギーを持て余していますが、ある時、押さえつけられていたものが取れると、突き抜けた行動をとり、達成感を感じます。犯罪傾向が進んでいくと、暴飲暴食、買い物、アルコール、薬物などの依存だけでなく、自暴自棄な犯罪に手を染めるようになります。その後、不適応な代償行動を取ってしまった自分を責めます。

 

また、最近では、子どもの頃の医療トラウマが犯罪者を作り出しているとも言われています。例えば、デッド・カジンスキーやジェフリー・ダーマ―など…。医療トラウマでは、身体を手術台に無理やり固定されて、麻酔を使わなかったり、中途覚醒しているときに、お腹を切られ、熱いものを入れられることで、恐ろしいトラウマ体験になります。子どもは、身体を動かせず、正常な反応が妨げられ、激しい痛みに圧倒されることで、離人症や機能停止、身体は崩れ落ちていきます。手術後は、PTSD症状のフラッシュバックやパニック発作、悪夢、対人恐怖、過覚醒、回避行動を取るようになります。特に、痛みを感じることに対して、異常に恐怖を感じて、恐ろしいトラウマ体験をした破壊的な生理的反応に結びつくために、体は固まり凍りついて、痛みや辛さが消えていきます。そして、何も痛みを感じなくなれば、人間らしさもなくなるので、共感性や思いやり、責任感は欠如していきます。その結果、自己中心的な性格に変わり、人間らしさを味わうために、スリルや快感を追求していくようになると、ある生物学的ドラマ(自分が過去されたことを無意識に覚えていて再現させる)を演じてしまった場合には、小動物を殺すことから、殺人者になる可能性まであります。

 第4節.

解離性フラッシュバックや解離状態などの犯罪


解離性フラッシュバックとは、過去と似たような状況に遭遇すると、現在と過去とが折り重なり、目の前の関係のない人などに対して、過去のトラウマが反射的に光景として蘇ります。そして、同じ臭いを嗅ぎ、同じ身体的感覚に見舞われ、それに対する欲求とか不合理な衝動に圧倒されて、半ば自動的に行動や態度であらわしてしまい、解離状態のなかでトラウマを再演させます。また、子どもの頃に衝撃的な体験をして、解離状態にある人が酷い目に合うと、反撃しようとする部分が身体を乗っ取り、その暗黒の力は弱い相手に向いてしまって、やがて凶悪犯罪に手に染めることがあります。

 

例えば、性加害行為(性犯罪)を繰り返してしまう背景には、こどもの頃に性被害に遭っていることがあります。何年経った後でも、過去と似たような状況に遭遇すると、解離性フラッシュバックが起こり、現在と過去とが折り重なり、目の前の関係のない人に対して、反射的に性被害にあった光景が蘇り、半ば自動的に行動や態度であらわして、解離状態のなかで性被害、性加害行為に及びます。本人はこの衝動を恐怖に感じていて、家から出られなくなることもあります。

 

また、痴漢を繰り返して行う背景には、最初は、見つからないから大丈夫と思ってやっていますが、そのときの背徳感がたまらくなくなり、善悪なんかどうでもよくなり、頭が麻痺したように異常な興奮やスリルを楽しむようになります。たとえ本人がもう辞めようと思っても、似たような場面に遭遇すると、身体と脳が自動的に反応するモードになってしまい、合理的な脳が働かずに、痴漢を辞めれないことがあります。

 

次に、内から湧き起こる攻撃・破壊衝動に悩まされ、その衝動を抑制しようとする背景には、子どもの頃に生きるか死ぬかの命懸けの体験をしていることがあります。例えば、子どもの頃に包丁を持った親に追いかけ回される体験をした人は、現在でも自分が包丁を持つか、親に似た人が包丁を握っているのを見ると、生きるか死ぬかの生々しい潜在的な自己保存エネルギーに頭が支配されます。脳と身体の神経は、当時の恐怖を覚えており、この環境は安全であると知っていても、納得させることができずに、極端な意識野の狭窄から、不快な感情に圧倒されて、おかしな行動に及んでしまうことがあります。本人は、情動に支配されて自分を見失う恐怖や、殺意に満ちた衝動をとても恐ろしく感じています。

 

次に、恋人から別れ話を聞かされた後に、別人のようになり、脅迫、暴言、暴力、ストーカー化する背景には、子どもの頃に大切な人を喪失した経験をしていることがあります。例えば、子どもの頃に母親が家出をして二度と帰らなかった体験をした人は、現在でも配偶者や恋人に別れを切り出されると、混乱と絶望と苛立ちと無力感と孤立感が入り混じり、不安と恐怖で体は凍りついて、心を閉ざします。そして、自分では全く統制できない解離状態になり、暴れ回って、物を壊して、逃げようとする相手をどこまでも追いかけるストーカーになります。本人は、暴れ回ったあと、意識が戻り、自分のとった行動をなんて非常識と反省します。

 

ピーター・ラヴィーンは、「激しい怒りは(生物学的に)殺生の欲求に関わるものである。レイプ被害に遭遇した女性がショックから抜け出し始めたとき(多くは数カ月後か数年後)、加害者を殺したいという衝動にかられることがある。時として、彼女らはこの衝動を実行に移す機会を得る。こうした女性のうち何人かは実際に実行し、殺人罪に問われている。というのも、経過した時間が計画的犯行の証拠と見なされるからである。このような女性が演じている生物学的ドラマは一般的によく理解されていないため、明らかな不公平が生じている。」と述べています。レイプされた被害者は、事件のショックのときに凍りつきますが、その凍りつきが解け始めたときに、被害者の痛みや怒りは物凄くて、殺意になります。

 

以上のことから、人が危害や物損などの問題行動を起こすのは、

①故意の行動か、

②傷ついた扁桃体が過剰に働き、闘争モードから半ば自動的に手足が動いての行動か、

③体が凍りつき、固まるように閉ざされて、自分では全く統制が出来ないような錯乱状態の行動か

④生物学的条件に縛られて演じられた行動か

発生する問題行動を生物学的視点にたって十分に検討する必要があるでしょう。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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