恥と自己愛トラウマ


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1.恥がもたらす身体反応と精神的影響

 

人は恥をかかされると、平静さを保つことが難しくなり、強いストレスを感じます。このストレスは、動悸や焦燥感、イライラといった生理的反応を引き起こし、その場にじっとしていられなくなるほどの不安を伴います。しかし、他者の視線に晒されている状況では、怒りを表現することも適切でなく、逃げることもできないため、屈辱感が身体内部に強く作用し、さらなる生理的な混乱を招きます。

 

恥を感じると、人の自律神経系は調整不全に陥り、手足が震える、顔が赤くなる、胸が苦しくなる、怒りを感じる、逃げ出したくなる、全身に汗をかく、お腹の調子が悪くなる、身体が硬直する、頭が真っ白になる、言葉に詰まる、涙が出るといった反応を示します。このような反応は、恥がトラウマとして心身に刻まれ、過剰な覚醒状態に陥ることから生じます。結果として、怒りや逃走、自己否定感が強まり、自分自身が自分でなくなるような感覚に囚われることがあります。さらに、このような状態が進行すると、呼吸が浅くなり、心臓の鼓動が弱まり、お腹に痛みを感じ、めまいから倒れ込むこともあります。

 

2.トラウマと自律神経の関係

 

恥がトラウマになると、緊張するたびに交感神経が刺激され、動悸がして呼吸や心拍、体温、血圧が上昇します。一方で、背側迷走神経が過度に働くと、身体は凍りつき、麻痺状態に陥り、呼吸や心拍、体温、血圧が低下します。このような生理的な反応の混乱が、トラウマによって神経が繊細になった人々にとっては大きな負担となります。自分の感情や興奮をコントロールすることが難しくなり、人はこれらの身体反応が再発しないよう、人目を気にして警戒し、頭の中で対策を立てようとします。社会的な場面でも、世間体を気にし、自分の変な部分が他人にバレないように、また他人から傷つけられないように過ごすことが習慣化します。

 

3.恥のトラウマと自己愛の病理

 

恥のトラウマは、特に自分の所属する集団の中で孤立し、馴染むことができない場合、深刻な影響を及ぼします。些細なことでも恥を感じると、怒りや凍りつきの反応がトラウマとして身体に刻み込まれます。職場や学校、家庭の生活空間で八方塞がりの状況に陥ると、自分の感情を抑え込み、凍りつきや死んだふりの不動状態に陥りやすくなります。これが続くと、身体機能は衰弱し、被害感情が増大し、自分の周りには悪意のある人々がいるという被害妄想が膨らむことがあります。さらに、悪い噂が流されていると感じたり、自分は嫌われていると思い込んだりし、敵対的な言動を取るようになります。

 

日常生活でも、周囲が自分をどう思っているのかを過度に気にするため、他人の目が怖くなり、自分らしく過ごすことができなくなります。このような状況では、自己防衛のために見た目を着飾り、分厚い鎧を着て過ごすことが増えることがあります。これにより、恥のトラウマが自己愛の病理に繋がり、複雑な精神的問題を引き起こします。

 

4.恥と自己愛トラウマの相互作用

 

精神科医で精神分析家の岡野憲一郎氏は、「自己愛トラウマ」という概念を提唱しています。自己愛トラウマとは、自己愛が傷つけられることで生じる心的なトラウマであり、特に自己意識が強い人々に見られる現象です。これにより、人は他者からの評価に敏感になり、些細なことで激しく傷つくことがあります。この傷つきは、トラウマとして体験されるために、反動として爆発的な怒りを生み出し、曖昧な加害者たちに対して敵意を向けることになります。このような自己愛トラウマは、社会的問題を引き起こし、他者との関係を複雑化させます。

 

恥は自己愛の病理と密接に結びついており、他者の目に晒されることに対する恐怖が強くなります。自己愛性パーソナリティ障害の人々は、恥ずかしがり屋で臆病な性格を持ちながらも、周囲に対して過敏に反応し、自己防衛のために鎧を着て生きています。自分に対する被害妄想と誇大妄想の間を行き来しながら、他者に対しては関係妄想を抱くことが多いです。このような状態に追い詰められると、身体症状が現れ、感情をコントロールできなくなります。そして、自己否定感と自己愛が複雑に絡み合い、自己愛性パーソナリティ障害へと発展することがあります。

 

5.自己愛性パーソナリティ障害と恥

 

自己愛性パーソナリティ障害の人々は、他者からの評価に過敏であり、世間体や他人の目に対して強い関心を持っています。一方で、自分にとって不都合な感情や体験に対しては、防衛的に反応し、自己を守ろうとします。このような防衛反応が過剰になると、他者との関係において攻撃的な態度を取り、自分を過大評価する傾向が強まります。

 

特に、自己愛性パーソナリティ障害の人々は、恥を感じる場面では強い緊張と不安を抱えます。人前で失敗したり、恥をかいたりすることに耐えられず、その結果、他者に対して過剰な反応を示すことがあります。このような行動は、自己愛過敏型と自己愛無関心型の間を行き来する傾向があり、過敏な時には他者の目を気にし、無関心な時には他者の評価を無視しようとする心理が働きます。

 

まとめ:自己愛と恥の相互作用が生む心理的課題

 

恥とトラウマが自己愛に与える影響は非常に大きく、その結果、自己愛性パーソナリティ障害のような問題が生じることがあります。しかし、この問題に向き合い、自己愛と恥を統合することで、人はより健全で成熟した自己を形成し、内的な平和と外部世界との調和を達成することができます。

 

自分自身を受け入れ、内面の光と影の両方を認識することは、自己成長のための重要なステップです。そして、他者との関係を見直し、共感や理解を深めることで、自己愛の問題を乗り越え、より豊かな人生を築くことが可能になります。このプロセスは決して簡単ではありませんが、それは自己実現への道でもあります。内的な平和を追求し、他者との調和を図ることで、人は真の意味での幸福を手に入れることができるでしょう。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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