ゲーム依存症とは、日常生活に大きな支障をきたすほどに、持続的かつ反復的にゲームに没頭してしまう状態を指します。これにより、仕事や学業、家庭生活などが破綻することも少なくありません。2018年にWHOが発表した国際疾病分類(ICD-11)では、「物質使用または嗜癖行動による障害」カテゴリに「ゲーム症/ゲーム障害」が追加され、ゲーム依存が正式に精神疾患として認められることになりました。この新たな分類は、ゲーム依存が単なる趣味や娯楽の範囲を超え、深刻な健康問題として扱われる必要があることを示しています。
現実世界は、時にくだらなく感じられるものです。学校や職場では、真善美といった価値よりも、損得勘定に基づく人間関係が優先されがちです。「自分が得すれば、他人のことはどうでもいい」といった考え方が蔓延し、職場や学校はまるでポジション争いの戦場のよう。そんな世界で生き続けることに耐えられないのは自然な感情でしょう。そのため、ネットゲームやバーチャルな世界に逃避するのは、むしろ正常な心理反応といえます。これ自体を病気と見なす必要はないのです。
ネットゲームに引きこもることは、単に優越感や幼児的万能感を満たすための行動ではありません。それは、現実の厳しさから心を守り、癒しをもたらす退行的な世界でもあるのです。仮想空間での時間は、ストレスを抱えた心に一時的な安らぎを与え、自己肯定感を回復させるための大切な手段となることもあります。
しかし、ゲームの魔力に囚われすぎると、次第に現実からの逃避が強まり、ゲームの中に閉じこもる時間が増えていくことがあります。こうなると、本人だけでなく、周囲の家族や友人にも苦しみをもたらす可能性が高くなります。ゲームが一時的な癒しから依存へと変わると、現実の人間関係や日常生活に悪影響が生じ、社会的な孤立感や心身の不調に繋がってしまうことがあるのです。
ネットゲームは癒しの場であり、自己回復の手段にもなりますが、現実とのバランスを保ちながら楽しむことが重要です。ゲームに過度に依存することで生じる危険性を理解し、適切な距離を保ちながら仮想世界と現実世界を上手に行き来することが大切です。
ゲーム依存症に苦しむ人々は、まるで魔法をかけられたかのようにゲームの世界に閉じ込められ、その中での生活に没頭しています。彼らは仮想空間での体験に耽溺し、現実を忘れたかのようにゲームの世界で生きることにのめり込んでいきます。しかし、こうしたゲーム生活が長期間にわたると、最初は創造的で癒しをもたらす場所だったはずのその世界が、次第に危険な要因となり、彼らの現実生活を脅かすようになります。最終的には、その人の人生そのものを破壊するほどの影響を及ぼすこともあります。
ネットゲームが提供する物語は、まるで呪いのようにプレイヤーを現実から引き離し、彼らが現実世界で直面する困難から逃避させます。ゲームの中での成功や冒険は、現実で満たされなかった自己価値感や満足感の代替となり、現実の苦しみから一時的に解放してくれるかのように感じられるのです。また、外の世界で他者との関わりによって受けた傷や失敗から守ってくれるため、ますますゲームの世界に依存するようになります。
さらに、現実の厳しさから逃げる手段として、防衛的ファンタジーの中で神秘的な世界を夢見るようになります。これは一見、安心感や救いを与えるように思えるかもしれませんが、やがては現実との接点を失い、孤立や精神的な消耗を引き起こす可能性が高まります。
ネットゲームは、現実の問題を一時的に忘れさせてくれる魅力的な世界を提供しますが、依存してしまうと、現実世界とのつながりが薄れ、自己の成長や社会的な関係に深刻な影響を与える危険性があります。ゲーム依存から抜け出すためには、現実と向き合う力を育むことが不可欠です。
ネットゲームの物語は、まるで魔法のように私たちの心を魅了し、その世界を豊かに彩ってくれます。ゲームの中では、美しく広がる幻想的な世界で、勇敢に戦い、仲間と共に冒険し、魔法を使って不思議なアイテムを手に入れることができます。まるで鳥のように自由に歌い、無邪気に幸せな時間を過ごすことができるのです。この仮想世界は、現実の厳しさを忘れさせてくれる、一時的な逃避場所として私たちを包み込んでくれます。
ゲーム内での生活自体は決して悪いものではありません。夢のような世界で自由に生き、感動や達成感を味わうことができるのは、私たちにとって大きな魅力です。しかし、その魔法の裏には「呪い」の側面も潜んでいます。ゲームの中の刺激的でドラマチックな展開に慣れてしまうと、現実の生活が色褪せ、単調で退屈なものに感じられるようになります。現実世界では、ゲームほど急激な変化や興奮がないため、日常の中で喜びや感動を感じることが難しくなるのです。
さらに、ゲームの中で優越感に浸りすぎると、私たちの心や身体は次第に麻痺し、感情の豊かさを失っていく危険性があります。痛みや喜び、そして日常の小さな幸せすらも感じにくくなり、現実とのつながりが薄れていくのです。ゲームの魔法に溺れることで、私たちは現実の喜びを見失い、虚無感や感情の鈍化に苦しむことになるかもしれません。
ネットゲームは心を豊かにする魔法の世界を提供してくれますが、その一方で、私たちが現実世界で感じるべき感情や体験を奪う「呪い」も隠されています。適切なバランスを保ち、現実と仮想世界を上手に切り替えながら、心の健康を守ることが大切です。
ゲームの世界は、一見、プレイヤーを慰め、現実の痛みや苦しみを忘れさせてくれるかのように思えます。特に、現実の困難や挫折を抱えている人にとって、ゲームは一時的な安らぎを提供し、心の避難場所となるでしょう。しかし、歳を重ねるごとにその慰めは悲しいドラマへと変わり、やがて自分を欺くいかさまに変貌していく危険性があります。ゲームの世界に閉じこもり続けることで、次第に自分自身が壊れていき、現実と向き合う力が弱まっていくのです。
この現実と関わる力の弱まりとともに、現実世界はますます自分に敵対的で、思うようにいかない場所として映り、不安感が増幅していきます。プレイヤーはゲームの中で感じる安心感やコントロール感を手放せなくなり、現実と向き合うことに恐怖を感じるようになるのです。この悪循環が続けば、現実逃避の結果、孤立感や絶望感がさらに強まってしまいます。
ネットゲームという仮想世界の魔法にかけられた人が、依存症や引きこもりの悲劇的状況から抜け出し、外の世界と再び繋がるためには、本人の強い意志と周囲の熱心なサポートが欠かせません。ゲーム依存者の心に取り憑く「悪の側面」と戦い、現実の世界を再び魅力的なものと感じられるようになるためには、根気強い努力が必要です。
そして、もしその努力が実を結び、現実世界が大きな喜びへと変われば、本人と家族は真の幸せを手に入れることができるでしょう。現実と再び繋がることで、ゲーム依存という呪縛から解放され、長く続く幸せな生活が待っているかもしれません。
ゲーム依存に苦しむ人々は、現実の問題やストレスから逃れるために、ゲームの世界に没頭し、自己を癒やしたり、優越感を得ていることが多いです。この依存状態から抜け出すためには、まず外の世界、つまり現実社会に希望や意義を見いだせるようになることが重要です。しかし、彼らが外の世界に出て、社会に参加することに価値を感じられるようになるには、多くのハードルが存在します。
ゲーム依存の背景には、幼少期からの家族関係や学校での人間関係の問題が潜んでいることがあります。彼らは、尊敬できる大人の姿を見つけられなかったり、成長過程でポジティブなロールモデルを得られなかったため、「こうなりたい」と思える人物がいないまま育ってきた可能性があります。さらに、大人たちの行動や社会の不公平さに疑問を感じ、それが現実社会に対する無力感を強めているかもしれません。社会に対するこのような不信感や虚無感が、ゲームの中の仮想世界をより魅力的で公平な場所だと感じさせてしまうのです。
ゲームの世界は、彼らにとってルールが明確で、努力が報われる公平な場所として映ります。それに対して、現実社会は混沌とし、不公平で、彼らを打ちのめすような場所として映ってしまうのです。そのため、現実社会よりもゲームの世界に価値を感じ、深くのめり込むことで、一時的な満足感や安心感を得ています。
このような状態にある人々を、ただ「ゲームをやめなさい」と説得するのは容易ではありません。本人が自分自身を変えたい、あるいは現実社会に価値を見いだしたいという強い意志を持たない限り、依存からの脱却は困難です。治療やサポートが効果を発揮するためには、まず本人の内面での変化、つまり「新しい自分になりたい」「外の世界でも喜びを感じたい」という願いが芽生えることが重要です。
ゲーム依存から抜け出すための最初の一歩は、ゲームの世界に潜む誘惑の正体を見極め、現実世界とのバランスを取り戻すことです。その過程で、外の世界にも楽しみや意義を見つけ、人とのつながりや喜びを分かち合える存在へと変わっていくことが目標です。依存からの脱却は簡単ではありませんが、少しずつ習慣を変え、自分を取り巻く世界を新しい視点で見直すことで、外の世界でも充実感を得られるようになるのです。
ゲーム依存からの脱却を目指すには、本人が「変わりたい」という強い意志を持つことが不可欠です。その意志が芽生えたとき、セラピストはその人の苦しみや葛藤に寄り添いながら、次のステップを共に進んでいきます。セラピーでは、まず「今ここ」での身体感覚や感情、視覚的なイメージ、瞬間的な思いつき、そして行動を丁寧に観察し、一緒に見つめていきます。
セラピストは、クライエントの内面世界を共感的に理解しながら、さまざまな価値観に基づいて解釈を行い、適切な質問を投げかけます。これにより、クライエントは自らの経験に意味を見出し、より深い思考を促されます。また、セラピストは、ゲーム依存者が内側から自然に湧き上がる意志や感情を引き出すためのサポートを行います。これにより、クライエントは自分の力で新しい方向へと歩み出すことができるのです。
さらに、セラピストは時には強いショックや深い感情の揺さぶりを伴う「カタストロフ体験」を通じて、大きな転機を迎えるような体験をサポートします。このような経験が、クライエントの心に深く刻まれ、新しい自分に生まれ変わるための大きなきっかけとなることがあります。
セラピストは、常にクライエントが目的に向かって美しく情熱的に生きていけるように後押しをします。セラピーのプロセスは、単なるサポートに留まらず、クライエントが自らの人生に積極的に向き合い、意義ある人生を再構築するための協働的な取り組みです。これにより、クライアエントはゲーム依存の苦しみから解放され、外の世界と再びつながりを持ち、より豊かな人生を歩むための大きな変化を遂げることができるのです。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平