> > 瞑想とマインドフルネス

瞑想とマインドフルネスによるトラウマ治療


日常生活において、瞑想やヨガ、マインドフルネス、ヒーリング音楽を取り入れることは、ストレス管理やリラクゼーションに大いに役立ちます。これらの実践は心身のバランスを整え、結果的にビジネスの効率や生産性を向上させる効果が期待されます。近年、グローバル企業では、社員の精神的な健康を支援するために、瞑想を積極的に奨励しており、リラックスすることで創造力やパフォーマンスの向上を目指しています。

 

瞑想やヨガ、マインドフルネス、ヒーリング音楽は、健康維持に対して高い効果を発揮するだけでなく、トラウマ治療の一環としても注目されています。これらの手法は、精神的な安定をもたらし、心の回復を促進するため、トラウマを抱える人々にとっても有効なアプローチです。

 

1.トラウマが身体に及ぼす影響と対処法

 

過酷な環境で育ち、トラウマを抱えた人々は、体内に「トラウマという時限爆弾」を抱えているかのように生きています。脳は防衛的なモードに入り、些細な刺激にも過剰に反応するため、交感神経が常に優位に働き、焦りや不安、動揺が生じやすい状態にあります。こうした状況では、日常生活の小さな変化にも体が緊張し、無意識のうちに筋肉に力が入り続けるのです。

 

さらに、トラウマが繰り返し刺激されると、身体が凍りつき、感覚が麻痺し始めます。その結果、無感情や意欲低下、思考のまとまりの欠如、頭痛や腹痛などの心身の不調が現れるようになります。長期間にわたって身体が萎縮し、酸素不足や血行不良の状態が続くと、自律神経やホルモンのバランスが崩れ、原因不明の身体症状に苦しむことになるのです。

 

トラウマに影響を受けた身体と脳を正常な状態に戻すためには、瞑想やヨガ、ダンス、ストレッチ、筋トレ、さらには演劇など、楽しく体を動かす活動が有効です。これらのアクティビティを通じて新しい身体の経験を生み出し、体が感じていることを恐れずに受け入れることで、神経の繋がりが徐々に変わり、心が落ち着いていきます。

 

体に意識を向け、自分自身の感覚を観察する習慣が身につくと、自制心が向上し、リラックスする力を学ぶことができるのです。これにより、身体と心の調和が整い、他者との交流を楽しむための自己調整スキルも向上していきます。

 

2.自分自身でトラウマを癒すセルフケアの方法

 

日常生活でトラウマをケアするためには、まずヒーリング音楽やお香を取り入れ、リクライニングチェアに全身を預けてリラックスすることが効果的です。頭や顔、首、肩、胸、背中などを楽にし、深呼吸をしながら内面に意識を向け、身体をゆったりとさせる習慣をつけることが大切です。

 

さらに、肩のエクササイズを行い、肩に力を入れて緊張を強めた後に、肩や腕の筋肉を自由に動かして柔らかくします。これにより、本来の手や腕の動きを取り戻し、指先まで意識を向けることで、身体全体の感覚が高まります。また、股関節のエクササイズでは、足や膝を動かし、柔軟な股関節や足の感覚を取り戻していきましょう。このプロセスを経て、体全体がひとつの感覚として繋がるのを感じられるようになります。

 

その後、頭や顔、胴体を優しくマッサージし、頭の天辺から足先までの一体感を感じることで、心地よい身体の状態を作り出すことができます。また、瞑想も有効で、ヒーリング音楽やお香を焚きながら、脳や顔の筋肉、表情筋に意識を向けることで、これまで気づかなかった痛みや疲労を発見することがあります。その不快感に意識を向け続けることで、最終的には身体が温かくなり、心身ともにリラックスする効果が期待できるでしょう。

 

3.トラウマ解消のための瞑想とリラクゼーションの実践

 

トラウマを抱えている人は、慢性的なストレスによって無意識に筋肉が過緊張状態になりやすいです。これを改善するためには、意識的に筋肉に力を入れ、緩めるというプロセスを繰り返し行うことで、身体を徐々にリラックス状態へと導くことができます。瞑想中に体が自然に緊張したり力が入ったりすることがありますが、その状態を無理に抑え込むのではなく、体に任せて自然な状態に戻していくのが理想的です。焦らず、段階を追いながら少しずつ進め、過緊張と脱力のバランスを取り戻していきましょう。

 

瞑想を行う時間は1日1分でも構いません。重要なのは毎日続けることです。瞑想の時間が3時間、5時間、10時間と積み重なる中で、心身にさまざまな良い変化が現れる可能性があります。しかし、瞑想を義務感で行うのではなく、自分の体と向き合い、仲良くなっていくことを目指しましょう。

 

注意点として、重度のトラウマを抱える人は、体に意識を向けると過覚醒やフリーズ反応、死んだふりといった防衛反応が強く出ることがあります。自分の体に向き合うことが怖くなる場合もありますが、体の感覚を強く感じ、それを受け入れることで心身の回復が進んでいきます。不快感や痛みが戻ってくるのは、体が感覚を取り戻している証拠だと捉え、感謝の気持ちで受け止めることが大切です。特に強い恐怖や不快感がある場合は、専門家のサポートを受けながら少しずつ行いましょう。

STORES 予約 から予約する

トラウマに焦点づけた瞑想


トラウマに焦点を合わせた瞑想では、ユング派の「凍漬地獄の瞑想」や「ソマティックエクスペリエンス」の技法を取り入れ、不動状態からの回復を目指します。これらの瞑想は、修行僧が行う正座の修行に似たものです。和室で正座を続けると、足が痺れ、感覚が失われ、正座を維持するのが次第に苦痛になります。しかし、この状態を耐え抜き、最後に正座を崩す瞬間、足に強いピリピリとした感覚が戻り、動き始めると本来の足の感覚が蘇るのです。

 

この過程は、トラウマに苦しむ人が、自分の身体から切り離された感覚を取り戻す道のりと似ています。瞑想を通じて、自分の身体に負荷をかけ、その状態と向き合うことで、徐々に身体感覚を再び感じ取れるようになっていきます。瞑想は、無意識に抑え込んでいた感情や感覚を解放し、トラウマによって分断された自己と再びつながる手助けをする重要なプロセスです。

 

1.トラウマ治療のための瞑想:身体と感覚を通じた自己再発見

 

トラウマ治療における瞑想は、自己を静止状態に置き、内側から湧き上がる感覚や衝動を観察することから始まります。この静止状態で、体を動かしたくなる欲求や、つい出てしまう癖や仕草に意識を向け、それらがどこから来るのかを見つめていきます。なぜそのような動きを取るのか、自分の感覚やイメージ、感情、行動、思考の流れを観察しながら、自己認識を深めていきます。

 

この過程で、普段無意識に行っている防衛パターンに気づくことができたら、次のステップとして、命の危険を感じた際に本能的に取る姿勢、例えば背中を丸めるポーズを意識的に再現します。この動作は筋肉を収縮させ、恐怖やトラウマと向き合うための準備です。その後、自発的に不動状態に入り、絶望感や無力感を存分に味わうことで、内面に溜まった感情を解放していきます。

 

この瞑想では、最終的に二つの選択肢が浮かびます。自分を無力にした恐怖の対象を打ち倒すか、安全な場所へ逃げるか、それとも無力感そのものを徹底的に感じ取り、受け入れるか。この選択を通じて、トラウマに真正面から向き合い、解放への道を探ります。

 

また、身体感覚レベルでの働きかけによって、居心地の良い状態から凍りついた段階、絶望の段階、覚醒の段階、そして「天国」ともいえる深い解放の感覚まで、さまざまな体験を通じて自己の変化を味わうことが可能です。このプロセスは、身体と心を同時に癒し、トラウマを克服するための重要なステップです。

 

2.瞑想で取り戻す自己の感覚:体と心のバランスを整える道

 

瞑想を続けることで、自分の体の感覚を再び取り戻し、日常生活でも自分の気持ちや体の反応をより意識して動けるようになります。瞑想を習慣化することで、心を落ち着けて物事を深く考えられるようになり、いつでも心地よい体の状態を保つことができるようになるのです。体への意識を日常的に向けることが当たり前になると、内側から自然に湧き上がる衝動や欲求に気づくことができるようになり、食欲や意欲が回復してくることもあるでしょう。

 

瞑想を熟達するにつれ、睡眠の質も改善され、疲れにくくなり、姿勢が整い、心身のバランスが大きく変わっていきます。瞑想を通じて、今までの自分と異なる、より健康的で安定した自分を実感できるようになるでしょう。

ボディスキャンによる体と心の調整


体の状態を観察し、自分の筋肉や皮膚感覚、内臓の状態に意識を向けることは、心身のリラックスに重要です。目を閉じて、自分の体を一つ一つ確認する「ボディスキャン」を行うことで、体のボディイメージを作り上げ、緊張から解放されていきます。体の反応に気づき、それを解放するステップを一緒に見ていきましょう。

  • ストレスや緊張のある状態
    体が収縮し、守りに入ろうとする準備が整います。このとき、心は不安や恐怖に支配されがちです。
  • 安全が確保された状態
    体は広がり、リラックスして穏やかな状態。心は幸福感や安心感を感じるでしょう。

全身の変化

  • 硬直 → リラックス
  • 冷たい → 温かい
  • バラバラ感 → 一体感
  • 縮こまる → 広がる
  • 自分の体でない → 自分の体である

手と足の変化

  • 力が入らない → 力が入る
  • 冷たい・痺れ → 温かい
  • 重力を感じない → 重力を感じる
  • 固まっている → リラックス
  • 感覚がない → 感覚がある
  • すくんでいる → 伸びる

お腹・骨盤の変化

  • 冷たい → 温かい
  • 固まっている → 柔らかい
  • 痛い → 痛みがない

背中の変化

  • 丸まっている → 伸びる
  • こわばっている → 温かい
  • 痛い → 痛みがない

胸・みぞおちの変化

  • 縮まっている → 広がっている
  • 胸が痛い → 痛みがない
  • 呼吸が浅い → 呼吸が深い
  • 動悸が激しい → 心臓が穏やか
  • 肺が固い → 肺が動いている

肩・首の変化

  • こっている → 柔らかい
  • 肩が上がっている → 肩が下がる
  • 首が痛い → 痛みがない
  • 喉が詰まっている → 喉の通りが良い

顔・頭の変化

  • 頭が重い → 頭がスッキリ
  • 頭が浮いている → 頭と体が繋がっている
  • 眉間にしわが寄っている → 緩んでいる
  • 目に力が入っている → 目がリラックスしている
  • 顎に力が入っている → 顎がリラックスしている
  • 奥歯を噛みしめている → 噛みしめていない

 

このボディスキャンを行うことで、全身の状態を把握し、意識的にリラックスを取り戻すことができます。

 

◎まとめ

 

トラウマによるパニック、フラッシュバック、悪夢、うつ、自責、自傷、希死念慮といった症状が出るとき、体は極度の緊張状態や虚脱状態にあります。これは、脳と体の神経ネットワークが過剰に興奮しているか、逆に遮断されているためです。胸が苦しく、手足に力が入らなくなるのも、この神経システムの乱れによるものです。恐怖に襲われると、体は縮んで凍りつき、その後に絶望感や無力感が広がると、呼吸が浅くなり、体がしぼんだように感じられる虚脱状態に陥ります。肩が内側に入り、首が前に倒れ、手足は冷たくなってしまうのです。

 

トラウマ治療では、絶望や無力感などの負のエネルギーが体に蓄積している状態を自覚し、あえてその感覚に向き合います。そして、徐々にそのエネルギーを解放していくことで、体から負担が抜け、全身が広がってリラックスした状態に移行します。この過程で、胸や肩が自然に広がり、呼吸も変わっていきます。

 

過覚醒状態のときは、呼吸が非常に早く浅くなり、1分間に20回以上の呼吸を繰り返すことがあります。リラックスした状態になると、この呼吸数が15回前後に落ち着き、呼吸が深くゆっくりと変化します。一方で、低覚醒状態にある場合、呼吸が1分間に10回以下となり、逆に浅すぎてしまうこともあります。こうした状態でも、リラックスを重ねることで、呼吸が正常なリズムを取り戻し、自然な体の調整が進んでいきます。

 

トラウマ治療は、体の感覚を徐々に取り戻し、無意識に溜め込んだ負のエネルギーを解放するプロセスです。呼吸と体のバランスを整えることで、過覚醒や低覚醒に伴う不調が改善され、日常生活をより健やかに送れるようになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平