現実体感療法によるトラウマ回復:心と身体の調和を目指すアプローチ


現実体感療法は、トラウマの影響を軽減し、心身の回復を目指す治療法です。この療法では、日常生活での親切な体験や自然に触れること、新しい経験を増やすことが重要な要素とされています。治療の中で、クライエントは現実の様々な刺激に触れながら、身体の反応や心の動きを感じ取ることを学びます。そのプロセスを通じて、安心感や幸福感を身体全体で実感し、それを徐々に身体に馴染ませていきます。

 

こうして「今ここ」で感じる安心感を自分自身のものとしてしっかりと認識できるようになると、トラウマによる嫌な記憶は次第に影を潜めます。たとえ過去の辛い記憶を思い出したとしても、それに引きずられることが少なくなり、過去の出来事が現在の自分を支配する感覚が和らぎます。

 

また、治療を通じて得た新しい体験が増えるほど、現在の自分の感覚が統合され、過去のトラウマを負っていた自分とは異なる成長した自分に気づくことができます。現実体感療法は、新たな経験を通じて心身を癒し、過去との健全な距離感を保ちながら、今の自分を強化するための有効なアプローチです。

 

1.身体感覚を活用した現実体感療法

 

従来のセラピーが主に言葉やエピソード記憶、思考に働きかけるのに対し、現実体感療法は身体の感覚や反応を使った体験に重きを置きます。この新しいアプローチでは、過去の出来事に焦点を当てるのではなく、日常生活や新しい体験を通じて、自己感覚の流れを観察し、トラウマ克服を目指します。生活の中で実際に経験した現実の場面を通して、心と体のつながりを深く理解することが重要です。

 

この現実体感療法は、パニック発作やフラッシュバック、解離症状、対人恐怖、現実感喪失など、身体に深く刻まれたトラウマによるさまざまな症状を抱える人にとって、特に効果的だと考えられています。トラウマを経験した人は、過剰な警戒心や緊張から体が常に過覚醒状態になりやすく、心身ともに大きな負担を感じ続けます。これにより、生体リズムが乱れ、自律神経系の調整不全が生じ、精神的・身体的な不調が現れることが少なくありません。

 

さらに、過度な緊張が続くと、身体の防御機能として背側迷走神経が過剰に働き、結果として身体の動きや感覚が制限されることがあります。このように、長年にわたりトラウマが心身に蓄積されると、バランスが崩れ、自己では対処しきれない現象が増えてしまいます。現実体感療法は、こうした深刻な状況に対して身体感覚を通じてサポートし、心身の回復とバランスの回復を促す効果的な手法です。

 

 2.トラウマ治療の最前線:現実体感療法

 

この治療法は、世界的に見てもまだ限られた範囲でしか実践されていませんが、トラウマ研究の第一人者であるヴァン・デア・コルク博士は、トラウマ治療の究極のアプローチとして「現実体感療法」や「生活場面臨床」が重要であると指摘しています。従来のセラピーとは異なり、体験を通じて身体感覚を活用することで、トラウマの影響を軽減する方法が注目されています。

 

最近のトラウマ研究では、マインドフルネス瞑想やマインドフルネス逓減法がストレス反応に及ぼす影響についての調査が行われています。その結果、一回の8時間の瞑想セッションでも、ストレス反応や炎症ホルモンの値が大幅に減少することが確認されました。さらに、参加者は通常よりも早くストレスから回復し、ストレスに対する過剰反応も軽減されました。

 

特に複雑性PTSDや強い離人感を抱える人々にとっては、長期にわたって自分の身体を注意深く観察し、本来の身体機能を取り戻すことが有効であるとされています。こうした身体への働きかけは、心身のバランスを整え、トラウマからの回復を促進するための重要なステップとなります。現実体感療法やマインドフルネスを取り入れた治療は、トラウマに苦しむ人々にとって、非常に有望な選択肢となるでしょう。

 

3. 現実体感療法の起源と効果:新しい経験がトラウマを癒す

 

現実体感療法は、精神分析家シャンドール・フェレンツィが提唱した、生活場面を利用した長時間リラクセーションや相互分析から始まったとされています。この療法は、単なる言葉を使った治療とは異なり、現実の体験を通じて心身に働きかけるアプローチです。

 

虐待や犯罪被害を受けた人々が、お互いに助け合いながら試行錯誤してきた経験や、幼少期のトラウマから回復してきた人々の今の様子から、現実の生活場面で新しい経験を積み重ねることが、トラウマからの回復に不可欠だと感じられるようになりました。ただ新しい経験を得るだけでなく、安心感や幸福感を伴う経験が特に重要です。その瞬間に生じる身体の感覚や変化に気づくことが、回復のプロセスの鍵となります。

 

このように、安心できる環境で新しい体験を通じて身体感覚を育み、トラウマからの回復をサポートする現実体感療法は、心身のバランスを整え、より充実した人生を取り戻すための有効な手段とされています。

 

4.トラウマ回復:身体と心を取り戻すプロセス

 

現実体感療法では、クライエントの気持ちやニーズを最優先にし、セラピストも共に体験を共有していきます。まず、現実場面で感じる緊張や不安を観察しながら、セラピストの適切なサポートのもとで、身体の反応や心の動きに意識を向けます。これは瞑想のように、自己の内面に集中し、どのような新しい変化が生まれるかを体験するプロセスです。

 

この治療では、自分の体感を重視し、特に「最も安心できる場面」を見つけることが重要です。心地よさや安心感を感じる場面を特定することで、心身がリラックスし、自然で人間らしい呼吸ができるようになります。呼吸が整ったら、次に身体の中でどのような変化が起こっているかを観察します。その過程で、身体の感覚に徐々に馴染んでいくことで、自己の変化を実感し、本来の自分を取り戻すことが可能となります。

 

この療法の最終的な目標は、外の世界や人々と再び触れ合いながら、能動的に喜びを追求できる自己感覚を確立することです。現実体感療法を通じて、クライエントは過去のトラウマを乗り越え、自己を深く理解し、回復への道を歩んでいく支援が提供されます。

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トラウマケアにおける心と身体の統合:幸福感を育むアプローチ


セラピーを受けるクライエントは、自分が好きなことをしているときに身体の内部や心の内的世界がどのように変化するのかをセラピストと共有しながら、新たな感覚や感情を発見していきます。特に、脳の扁桃体や自己感覚を司る島、帯状回の回復に役立つ方法として、日常の中で自分の興味を引くものに注意を向けることが重要です。例えば、スーパーの陳列棚を見て、どの商品が一番好きかを頭の中で評価するプロセスが挙げられます。その際、サポートしてくれる人が的確にその選択を見つけてくれると、快感や驚き、喜びが生まれます。その商品を購入して食べたり、遊びに使ったりすることで、幸せな時間を体験できるのです。

 

トラウマを負った人がこのような幸せな体験を重ねることで、次第に前向きな気持ちになり、心と身体が繋がり始めます。真のトラウマケアにおいては、セラピストとの関係性だけでなく、親子や夫婦、恋人間でのポジティブな体験を繰り返すことが、効果的かつ効率的だと考えられます。特に、こうした関係の中で心がワクワクするような体験を共有することで、回復が促進されます。

 

当相談室では、夫婦や恋人、親子間での関わり方について、生活場面を通じたアドバイスやカウンセリングを提供し、トラウマケアをサポートすることが可能です。

トラウマ回復のための個別プログラムと料金案内


現実体感療法では、クライエントのニーズに合わせたオーダーメイドのプログラムを作成し、実生活の場面でトラウマ回復をサポートします。以下の料金プランをご用意しています:

  • 3時間:¥15,000
  • 5時間:¥20,000
  • 8時間:¥25,000

治療内容
クライエントと共にプログラムを作り、食事や運動、買い物、車での移動など、日常生活の様々なシーンを活用して行います。トラウマの回復には、環境調整が非常に重要です。そのため、ストレス管理や睡眠の改善にも重点を置きながら進めていきます。

 

注意事項
この治療法で一度にトラウマが完全に治るわけではありません。1回のセッションで即効性が期待できない場合もありますが、繰り返し行うことで、脳の理性や感情を司る部分に徐々に良い影響を与えることが期待されます。

 

予約と料金について
現実体感療法は長時間にわたるセッションとなるため、予約制で行っています。料金は前払いとなりますので、ご予約の際にお支払いください。

 

お客様の生活場面に寄り添い、トラウマ回復をサポートする治療を提供いたします。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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