自分自身でトラウマをケアする

▶自分自身でトラウマをケアする

 

子どもの頃から、トラウマがある人は、リラックスの仕方がよく分かっていなくて、常に身体を緊張させています。過緊張状態の人は、特に首と肩が緊張していて、頭や顔、胸、背中、お腹の方も力が入っていて、身体がガチガチ硬く、痛みがあります。脱力状態の人は、手足に力が入らず、上半身は凄く力が入っているか、抜けているかのどちらかで、身体が鉛のように重くなります。さらに、虚脱状態の人は、心拍数がかなり低く、エネルギーが尽きたような状態で、猫背で身体に力が入りません。

 

トラウマ症状を少しずつ改善させていくには、自分の居場所を見つけて、ストレスを減らし、安心・安全な環境作りが欠かせません。そして、自分に対して、慈愛や寛容な心を持って、自分自身を癒していく必要があります。癒す方法としては、瞑想やヨガ、マインドフルネス、呼吸法、自律訓練法、運動、ストレッチなどのエクササイズが有効です。複雑なトラウマを抱える人や、発達障害の人は、身体が固まる(凍りつく)か、虚脱(力が入らない)の方に向かっていくので、自分の身体の状態を把握して、固まっているかどうか、力が入らないかどうかに気づいて、力を抜くか、緩めていくか、意識を向けていくかをします。まずは、日常生活のなかで自分の身体がどういうときに固まるか、力が入らないかを理解していきます。人により様々ですが、例えば、人の話を聞いているとき、何かをさせられるとき、何かに集中しているときに身体が固まるかもしれません。自分の身体が固まることを理解できれば、その場その場で身体を緩ませるエクササイズを行うことが出来ます。

 

身体を緩ませるには、身体の内側に意識を向けていく習慣をつけて、過緊張や凍りついた部分をケアしていくことがポイントになります。注意点としては、複雑なトラウマを抱えている人ほど、身体が凍りついているので、その身体に意識を向けると、様々な生理的反応(防衛反応)が生じて、怖くなってしまうかもしれません。また、身体が緩んでリラックスできたとしても、すぐに緊張し始めたり、過剰な覚醒のスイッチが入ってしまうため、うまく自分をコントロールできずに無力感だけが増すかもしれません。さらに、性暴力被害者が自分の身体に意識を向けると、身体の中に閉じ込められたトラウマが蘇って、フラッシュバックやパニック、体調不良が起きる場合には、効果が期待できないでしょう。まずは、トラウマの専門家の助言のもとで、身体の反応を見ていって、自分がどういう状態にあるかを知ることからお勧めします。

 

▶日常的なトラウマケア

 

日常生活では、スポーツをする、外を散歩する、読書や音楽を楽しむ、家族や友達と過ごす、マッサージを受ける、瞑想やヨガをする、クリエイティブな趣味などがトラウマ解消に役立ちます。不快なことがあって、イライラしたり、落ち込んだりした時は、気分が悪くなっていることに気づいて、良い事を考えるか、心地良い気持ちに切り替えるか、気分良くなるようなイメージするかなど、気持ちを発散することを心掛けましょう。

 

家の中でやり始めるのは、呼吸法からが良いでしょう。複雑なトラウマを持つ人ほど、首から頭部(脳、表情、目、鼻、耳、口、喉)、胸辺り(気管支、心臓、肺)が硬くて、凍りついているかもしれません。喉に腫れや痛みがある場合は、慢性疲労などの重たい状態かもしれません。まずは、たくさん息を吸い込んで、酸素を体内に取り入れていきます。そして、横隔膜の上(首、顎、顔、頭、肩、胸)の凍りつきを取り除くために、「ヴー」と声を出して、息を長く吐くのを繰り返し、顔や喉、胸、腹を振動させて、そこに意識を向け続けると、身体の方から、少しずつリラックスしていきます。特に、トラウマ症状で過覚醒や低覚醒の間を行き来していて、心拍数や呼吸数が正常から外れている場合は、この呼吸法で、顔や首、胸辺りの圧迫感を緩めて、血液の流れを良くする効果があり、人間が人間らしく、社会の中で生きる力を育てます。

 

次に、リクライニングチェアの背もたれに頭を預けて、首と肩から胸や背中にかけて力を抜いて、くつろげるようにしてください。また、ベッドでは、身を委ねて寝るような楽なポーズで、ブランケットやクッション、抱き枕を掴んで、心地良いことを頭に思い浮かべて過ごしてください。さらに、なるべくネガティブなことを頭で考えるのは辞めて、身体感覚に意識を向けて、良いイメージをするように心掛けてください。例えば、片方の手で頭を触り、もう片方の手で身体のどこかを触り、思考に注意が向きそうになったら、これは駄目だと気づいて、身体の方に注意を向ける練習をしてください。ただし、トラウマの性質によって、リラックスしようとしても、すぐに頭の警報が鳴り、その場でじっとしていることが難しい人がいます。また、身体を楽に出来たとしても、それは一時的で、すぐにトラウマが疼いたり、不安や焦りを余計強くさせる結果になり、落ち着かなくなることもあります。さらに、凍りついた身体を緩めることで、全身に血液が巡って、熱くなっていきますが、それにより痒みが出てくる人がいます。トラウマという莫大なエネルギーを身体の中に閉じ込めている人は、トラウマを解放させる必要があるので、ソマティックエクスペリエンスなどの技法を並行して行う必要があります。

 

脱力型のトラウマがある人は、手で何かをするときに、手や指を使って何かを掴むなど実感を伴わせながら作業すると良いでしょう。さらに、外を歩くとき、足裏が道を蹴る感じとか、ふとももやふくらはぎの筋肉とか、足の動きに注目しながら動くと良いでしょう。自分の身体が自分のもので無くなっている場合には、身体感覚に着目して、時間をかけて、筋肉や皮膚、内臓の感覚を取り戻しましょう。その他にも、トラウマがある人は、緊張を緩めるような薬物療法が効果を発揮するかもしれません。トラウマがありながらも、生活していくなかで、重要なポイントは、休息やリラクセーション、適度な運動、好奇心の探求、不快な感覚の追体験、自分の身体を労わる、自分を責めない、望ましい自己イメージなどになります。日常生活を安心して過ごせるようになると、フラッシュバック、悪夢、パニック、チック症状、胃腸の痛みなど軽減されます。

 

解離症状がある人は、痛みの身体に注意を向けると、ぼーっとするか、すごい眠気が出て、頭の中の世界に逃げ込むようになります。解離しそうな時は、足を踏み込んで地面につかせたりするグラウンディングや、自分の腕時計を見たりしましょう。また、慈愛の心を持ちながら、自分の身体の感覚に注意を向けていくことが非常に役立ちます。さらに、呼吸に意識を集中させて、テンポよくリズムを刻むのが良いでしょう。その時は、吐く息を長くすることで、副交感神経が働いて、心身をリラックスさせる効果があります。その他、お気に入りの音楽を心の中で流すイメージや懐かしいイメージを思い出すことなど試してみても良いでしょう。

 

過覚醒症状がある人は、交感神経が優位で、心拍数や呼吸数が高く、非常に活動的に行動します、しかし、自分の身体の状態に気づけないで過ごしていると、休む間もなく活動することになり。エネルギーが消耗して、動けなくなります。過覚醒の時は、身体が休まらずに、オーバーヒート状態になるかもしれないので、まずは、心拍数を計るアプリをダウンロードして、心拍数を計りましょう。そして、心拍数が高い場合は、ヴーと息を吐く呼吸法して、自分の身体を落ち着かせてください。

 

自分自身でトラウマをケアする有効な方法としては、セルフコンパッションがお勧めです。まずは、自分がストレスを感じていることに気づいて、身体が過緊張で不快な状態にあることを知ります。次に、自分はとても困難な状況にあるけども、それと同じくらい苦しんでいる人達のことを想像します。そして、困難な状況にある人に対して、幸せに暮らせますようにとか、嫌なことから自由になりますようにと願います。さらに、困難な状況にいる自分に対しても、労わりの言葉をかけて、慈しみの感情やイメージを思い起こします。

 

▶トラウマを解放するには

 

これらの二つの方法は、トラウマを解放するのに役立ちますが、一人でやるのは大変です。複雑なトラウマがある人は、恐怖や不快感に向き合うと、痛みや身体の生理現象に圧倒されてしまう可能性が高く、まずは、トラウマ専門のセラピストと行うようにしてください。

 

日常生活でトラウマを解放して、健康な状態に変えていくには、不快な感覚があるときに、すぐに動かされるのではなく、身体を静止させながら、不快な感覚を追体験することが重要になります。トラウマがある人は、身体の中に莫大なトラウマのエネルギー(中断された闘争・逃走反応)を閉じ込めています。日常生活を過ごすなかで、何かの拍子にトリガーが引かれると、身体が疼き、集中力が途切れます。そして、体がソワソワ、モヤモヤ、ムズムズ、ゾクゾク、痒みなどが強くなると、イライラして、じっとしていられなくなり、思いがけない行動に出ることがあります。その時は、ヴーと息を吐く呼吸法をしても良いですが、心の余裕があれば、不快な感覚を耐え忍びながら、動かさずに身体をじっとさせて、凍りつくのを待っても良いでしょう。そして、凍りついていく身体は、鉛のように重くなったり、痺れたりしますが、その身体の内部を意識的に探索したり、遠くへ逃げるイメージをしたり、叫んで戦うイメージをしたり、実際に身体を動かしたりすると、凍りついた部分が解放されます。一方、凍りついた状態から、回復しきれないと、身体が沈んで、崩れ落ちて、手足の力が抜けて、起き上がれなくなります。

 

自発的にやる方法では、あえて怖いことを思い出して、自分の心拍や呼吸、不快感など体の感覚をしっかりみていって、追体験をしながら、呼吸を正常に保つのが良いでしょう。また、絶望の姿勢(体を縮ませて)を取って、怖いことを思い出しながら、心と身体をしっかり繋いで、不動状態に入ります。身体が不動状態にあると、寒気がして、呼吸が止まりそうになり、痛みで気を失いそうになるかもしれません。それでも、集中力を切らさず(解離せず)、身体を体験していくと、震え、痙攣、熱が出てきます。そして、全身の緊張がほどけるまで、ゆっくり自分の体の感覚を体験しつくします。また、それ以外の方法としては、その恐怖対象から、遠く離れた場所に逃げるイメージをして、そのまま様々な場所を走るイメージをしながら、最終的に天国に辿り着いて、ゆっくり身体を見ていくような方法が有効です。さらに、恐怖対象を、自分の頭のイメージと全身を使って、しっかり打ち倒して、身体を覚醒させるにも良いでしょう。

 

▶生活上のポイント

 

①起床時

寝起きは、睡眠中の不動状態のせいで、体が硬直や凍りつき、崩れ落ちており、原始的神経が優位で、異常な状態の身体になっているかもしれません。この状態で目覚めると、心拍数が低く、血の気が引いており、ベッドから起き上がるのが大変かもしれません、また、寝ているときの姿勢により、手足が麻痺していたり、力が入らなかったりします。まずは、心拍を計れるアプリで自分の心拍数を調べましょう。心拍数が低く、血液の流れが悪い場合は、頭の中でライオンから逃げきって安全な場所に着くようイメージして、動けない体を元の状態に戻しましょう。また、自分の体を観察して、おかしいと思う部分に対しては、マインドフルネスをしましょう。なるべく頭で考えるのは辞めて、良いイメージをしながら、体の感覚の変化を見ていってください。次に、朝目覚めたら、ラジオ体操やストレッチをして、関節や筋肉を使った運動や体を伸ばしていきましょう。体操はやらされているような感覚だとあまり意味がありません。自分の意志で手足を動かして、指で物を掴むなどのレベルで実感を伴わせてください。

 

②外出時

外では、トラウマがある人ほど、恐怖や警戒心が強くなりますが、一方で、自分に自信がつくと、好奇心が人一倍旺盛になります。体が張りつめているので、刺激に対して過敏だったり、集団場面が苦手だったりしますが、自分の特性を理解し、体調を気にかけながら、自分の好きなことに取り組むことが良いと思われます。ワクワクするような自分の好きなことをして、自分に自信をつけて、望ましい自己イメージを持ち、自分の過去や将来を肯定できるようにしていきましょう。また、外でウォーキングするなど軽い運動をしてください。

 

③家の中

家の中では、リクライニングチェアに座り、全身をチェアに預けて、首と肩の力を抜き、リラックスした状態を作ります。トラウマのある人は、常日頃、首と肩が緊張しているので、リクライニングチェアにより、首と肩が楽になると同時に、顔、背中、胸、お腹もリラックスできるようになります。また、ヨガマットの上で、ボルスター(大型のクッション)に身を委ねて寝るようポーズを取るのも良いでしょう。体のどこにも負担がかからないようにして、ゆっくり瞑想やヨガをすることで、体の内側から活力が出て、元気になります。離人感がある人の場合は、足の指先や足裏が弱い場合があるので、足のマッサージ器が役立つかもしれません。慢性的なトラウマの影響で、自分の体が分からなくなってる人は、入浴時のシャワーする際は、湯水を浴びる身体の皮膚感覚に注意を向けながら、いまここの感覚を取り戻すのが良いでしょう。また、自分の体を掴んでいって、体の内側から筋肉を感じられるようにしていきしょう。その一方で、一人で家にいると、体のトラウマが疼きだして、じっとしていられなくなるかもしれません。その時は、動いてもらってもいいですが、上に書いているようなトラウマ解放のために、体を静止させて、しばらく耐え忍び、そのあと体を動かして解放するエクササイズをしてもいいと思います。

 

④食事

栄養価が全くないのに、お腹がいっぱいになり、カロリーだけが高いようなファーストフードや麺類などを食べ過ぎると、炭水化物や糖類などを過剰摂取しすぎることになり、体を育てる、治す、癒すために必要な栄養が足りない状態となります。健康な体を維持するために必要な栄養素は、肉類、魚類、卵などのたんぱく質、緑黄色野菜、豆類、キノコ類、海藻類、炭水化物などが代表的な物であり、それらをバランスよく食することが重要です。心や頭は体の一部であるため、それらを良い状態に保つためには、体が健康な状態を維持することが大切になり、そのためにはバランスよく栄養価を取る必要があります。当然のことながら、体が不安定で健康ではない状態に傾いていくと、心の状態も悪くなっていくことになります。

 

⑤就寝時

就寝前は、お風呂で体を温めて、入浴後は、ストレッチをして、体を伸ばしてください。また、心拍数を計り、心拍数が高くなっている場合は、活動しようとするスイッチが入っているので、ヴーと息を吐く呼吸法をして、いつでも寝れる状態にしましょう。寝る前に体を緩めてあげることで、睡眠中の悪夢や再トラウマによる凍りつきを防ぐことができます。堅い床の上で布団を引いて寝ている人は、マットを置いたほうがい良いでしょう。また、皮膚感覚が心地よいパジャマで寝てください。ベッド上では、人形や抱き枕を抱いたり、ブランケットを掴みながら、体の緊張を分散させるのも良いでしょう。トラウマがある人は、睡眠中に自分の力で体を動かせないので、自動的に不動状態に入って、再トラウマ化する可能性があります。そのため、寝ている時は、固まり凍りついていき、悪夢を見るとか、動けなくなるかもしれません。

 

⑥その他

トラウマのある人は、心拍変動が激しいので、たびたび生活の中で、心拍数を計るアプリを見て、自分の状態を把握したほうが良いでしょう。安静時の正常範囲内は、心拍数60-90になります。闘争・逃走の過覚醒は、心拍数が90-100前後になります。背側迷走神経が過剰な低覚醒(虚脱)の時は、心拍数が50-60くらいです。心拍数が50以下くらいになると酷い虚脱状態ということになります。

 

▶まとめ

 

以上をまとめると、心の病(トラウマ)を回復させるためには、カウンセリングなどを受けて悩みに向き合ったり、精神科に通って薬を摂取したりするのみではなく、自分の普段の生活の中で、食事やエクササイズ、睡眠等の全体に意識的に注意して自身を高めることで心の病が少しずつ回復しているといえます。

 

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