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複雑性トラウマの身体的・精神的影響:蓄積された心の傷がもたらす闘い


トラウマは、瞬間的な出来事によって引き起こされることもあれば、幼少期からの虐待や病気など、長年にわたって蓄積された体験が原因となることもあります。これらの経験が、心に深い傷を刻み、その傷が人格や日常生活に影響を及ぼしている状態を「トラウマ」と呼びます。心的外傷とも言われるこの状態は、心が壊れ、その壊れた部分がその人の生き方に暗い影を落とすものです。

 

かつて、トラウマは得体の知れないものであり、心の中に潜む抽象的な問題と捉えられていました。目に見えず、身体のどこに潜んでいるのかも分からない、不可視の存在でした。しかし、近年の研究では、トラウマは身体の中に閉じ込められた爆発的なエネルギーとして理解されるようになってきました。過去の辛い経験が、まるで身体の一部に刻まれたかのように存在しているのです。

 

1. トラウマの身体的表現

 

トラウマは、日常生活の何気ない瞬間がきっかけとなり、身体に激しい反応を引き起こします。例えば、心臓が激しく鼓動し、神経が高ぶり、筋肉がギュッと縮まり、過覚醒から凍りつきへと移行する現象が見られます。長期間にわたって身体が警戒態勢を維持し続けると、脳の扁桃体は常に危険を察知し、自分を脅かす対象から身を守ろうとするのです。

 

トラウマが身体に与える影響は多岐にわたり、以下のような症状として現れます:

  • 怒りや恐怖
    トラウマは、瞬間的な恐怖や怒りを引き起こし、心臓が激しく鼓動し、全身が硬直します。

  • 身体的な苦痛
    胸の痛み、喉のつかえ、息苦しさ、首と肩の張り、胃の不快感など、身体各所に痛みや不快感が現れます。

  • 感覚の麻痺と凍りつき
    トラウマの影響で、身体は凍りついたように動かなくなり、感覚が麻痺することがあります。

  • 精神的な苦痛
    絶望感や無力感に襲われるとともに、パニック、悪夢、強迫観念、記憶喪失、感情の爆発などが頻繁に起こります。

2. 複雑性PTSDの闘い

 

複雑性PTSDを抱える人々は、これらの症状と毎日向き合い、過去の傷と絶え間ない戦いを繰り広げています。彼らにとって、トラウマは胸に刺さったナイフのようなものであり、その痛みを取り除くことができないまま、夜ごとに過去の悪夢と戦い続けているのです。

 

トラウマの影響は心だけでなく、身体にも深く浸透しており、それはまるで身体の中に隠れた爆発物が常に爆発の危機にあるような状態です。このような状態から抜け出すためには、適切な治療と支援が必要であり、時間をかけて心と体の両方を癒していくプロセスが重要です。

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戦うことも逃げることもできない恐怖の中で


トラウマとは、圧倒的な戦力差の中で、戦うことも逃げることもできない状況に置かれたときに生じる心的外傷のことです。例えば、逃げようと試みても、捕まえられ、力づくで押さえつけられ、まるで命が危ぶまれるような状況に追い込まれることがトラウマの原因となります。過酷な環境下で、目の前に迫る脅威に対して適切な対応ができれば、トラウマとしての影響は軽減されるかもしれません。しかし、現実には、感情が圧倒され、退避できない状況に陥ると、トラウマは深刻な形で心と体に刻まれます。

 

脅威に直面したとき、人は本能的に戦うか逃げるかを選択します。もし、適切に対処できれば、トラウマの影響は最小限に抑えられます。しかし、相手が強大で、感情が恐怖に支配されている場合、退避の成功は生死を分ける問題になります。逃げることができない場合、身体は恐怖で凍りつき、胸が締め付けられるような痛みを感じ、息ができなくなります。すべての望みが失われ、一瞬にして精神のブレーカーが落ちたかのように、頭の中が真っ白になることさえあります。

 

このような極度の恐怖の中で、身体は凍りつき、動けなくなります。闘争・逃走反応が途中で中断されることで、身体には行き場のない莫大なエネルギーが滞り、精神的にも身体的にも大きなダメージを受けることになります。恐怖に圧倒され、自分の身に何が起きているのかを理解することもできず、適切な処理ができないまま、心に深い傷を残すことがトラウマの本質です。

 

トラウマを負ったとき、人はその状況に対処する力を失い、動けなくなってしまうことがよくあります。まるで石のように固まってしまうか、危険をやり過ごすために死んだふりをする、あるいは身体を感覚から切り離し、離人症のような状態に陥ることがあります。全身が崩れ落ち、何も感じられなくなることさえあるのです。

生き延びるための闘争と虚脱


人が極度の恐怖やストレスに直面したとき、自分の身体や心がどのように反応するかは、その状況の過酷さに依存します。例えば、自分が「闘争人格」に明け渡された場合、別の自分が表に出て、脅威に対して戦う準備が整います。この状態では、激しい攻撃性が現れ、戦ったり、叫んだりすることで、自己防衛を試みます。こうした反応は、内なるエネルギーが一気に噴出し、自分を守ろうとする力が働く瞬間です。

 

しかし、脅威があまりにも圧倒的で、心と体が対応しきれなくなると、虚脱状態に陥ります。このとき、身体はまるで破裂したかのように崩壊し、心臓の働きが弱まり、足はガクガクと震え、全身が無力に包まれます。脅威から逃れようとする本能が働いても、身体がその負荷に耐えられなくなる瞬間です。

 

また、脅威から逃れるために「死んだふり」をして、攻撃者の注意をかわすこともあります。敵が背を向けた瞬間に、再び息を吹き返し、見境なく攻撃しようとする力が湧き上がることもあるでしょう。このように、自分を守ろうとする本能が極限状態で反応するのです。しかし、執拗な攻撃を受け続けると、身体は凍りつき、自分を守るためのエネルギーが尽きてしまいます。その結果、身体は冷たく重くなり、最終的には崩れ落ち、機能を停止してしまいます。こうした反応は、命を守るための最後の手段であり、最小限のエネルギーで生き延びようとする体の自然な反応です。

 

生きるか死ぬかという直接的な危機ではない状況でも、トラウマが形成されることがあります。例えば、親から見捨てられるかもしれないという恐怖や、親が離婚してしまうかもしれないという不安に直面したとき、子どもの心と身体は虚脱状態に陥ることがあります。このような状況では、全ての望みが失われたかのように感じ、心と体が凍りついてしまうのです。

 

特に、自己愛が強い親やボーダーラインパーソナリティの親、怯えが強い親に育てられた子どもは、その影響を強く受けることがあります。酷い仕打ちを受けながらも、逃げることができず、無理をして親に従い続ける子どもは、次第に疲労困憊し、心も体も固まり、閉ざされていきます。このような環境で育った子どもは、頭の中が真っ白になり、次第に感情や思考が麻痺していくこともあります。

トラウマがもたらす極限反応: 軽度から最重度まで


トラウマには様々なレベルがあり、それぞれが異なる心身の反応を引き起こします。トラウマを抱えた人は、常に脅威に備えた生き方を余儀なくされます。無意識のうちに苦手な相手に対してバリアを張り、相手の顔色を伺いながら過ごす日々が続きます。相手の機嫌が悪いと感じると、その場を避けるなど、自己防衛のための行動が自然と身についてしまうのです。

 

1. 中度のトラウマ反応: 闘争・逃走モード

 

中程度のトラウマ反応では、敵に対して闘争・逃走反応が現れます。これは生きるか死ぬか、戦うか逃げるかという極限の状況で引き起こされ、怒りや恐怖が心と体を支配します。このとき、身体は戦う準備を整え、交感神経系が活性化します。心臓が激しく鼓動し、呼吸は浅く速くなり、胸がざわつきます。毛は逆立ち、顎は下に引っ張られ、肩は緊張して上がり、歯を食いしばることで全身が戦闘態勢に入ります。また、こめかみの鼓動が強まり、瞳孔が開き、顔は赤くなり、発汗が増えるなど、全身に緊張が走り、四肢が無意識に動くこともあります。

 

2. 重度のトラウマ反応: 凍りつく恐怖

 

さらに重度のトラウマ反応では、切迫した状況下で全ての望みが断たれると、身体は凍りつくような反応を示します。この段階では、より原始的な神経系が優位に働き、胸の痛みや息苦しさが現れ、声を出すことも動くこともできなくなります。このような極度の恐怖体験は、闘争・逃走反応が完全に停止し、体内に膨大なエネルギーが行き場を失って滞る結果となります。身体は動けなくなり、心臓の鼓動が弱まり、全身が冷たく、重く感じられることがあります。

 

3. 最重度のトラウマ反応: 崩れ落ちる身体と意識の混乱

 

最も重いトラウマ反応では、筋肉が極限まで引き伸ばされ、身体はまるで崩れ落ちるかのようになります。交感神経系がシャットダウンし、筋肉が崩壊することで、心臓の鼓動が弱まり、血の気が引き、全身が鉛のように冷たく、重くなります。このとき、身体がバラバラになるか、ねじれるような感覚を覚えることもあります。原始的な神経の働きが過剰に活性化すると、手足は動かせなくなり、心臓と呼吸だけが辛うじて機能を維持しますが、胃腸の活動だけは逆に活発化し、嘔吐や下痢を引き起こします。

 

最重度のトラウマでは、頭は混乱し、身体が凍りつく中で窒息感や心臓の激痛が襲います。この状態においては、意識が朦朧とし、現実から逃避しようとして意識が「別の世界」に飛んでいく、いわゆる神秘体験をすることがあります。逆に、ブラックホールに吸い込まれるような感覚に陥り、自分が消えてしまうかのような体験をすることもあります。このとき、身体の反応としては、顔色が白くなり、指先が青白く変わり、全身が冷たく重くなります。また、胸の痛みやお腹の不快感が現れ、痛みによって身体が身悶え、動くことすらできなくなるのです。

トラウマを抱える人々の理性と身体の葛藤


トラウマを抱えた人々は、日々の生活の中で、相手との力関係を冷静に見極めながら、理性を駆使して感情や身体の反応を抑制しようとしています。彼らは、圧倒されるような強烈な感情や過覚醒状態に陥りやすく、それらの反応を理性で何とか抑え込もうとするのです。しかし、社会化された動物である人間は、こうした強い感情を自然に解放し、身体を震わせて終息させる場所を見つけることが難しく、感情を抑圧する傾向があります。

 

現代人は、頭で考えることに偏りがちであり、身体の反応に意識を向ける機会が少ないため、トラウマが身体に及ぼす影響に慣れることができません。トラウマを抱えた人は、常に脅威に備えているため、五感が鋭敏になり、一人で安心して過ごすことが難しくなります。さらに、嫌な刺激に曝されると、内臓が危険を感じ、筋肉がこわばり、動悸や焦燥感、イライラ、モヤモヤ、ザワザワといった不快感が次々と現れます。この結果、心身が安定を失い、頭痛や吐き気、腹痛、耳鳴りなどの身体症状が生じ、日常生活が苦痛に満ちたものになります。

 

トラウマによって引き起こされる不快な状況に対して、解決策が見つからないと、彼らは次第に追い詰められ、理性が崩壊していく感覚に陥ります。その結果、叫び声を上げる、走り回る、外に飛び出す、自傷行為や他者を罵倒するなど、捨て身の自暴自棄な行動に走ることがあります。これらの行動は、彼らが何とかして現実の脅威や内なる苦しみから逃れようとする無意識の表れでもあります。

 

さらに、こうした激しい感情が一時的に過ぎ去った後、身体は次第に麻痺していきます。この段階に入ると、彼らは自分が何をしたいのか、なぜその場にいるのかすら分からなくなり、無力感と混乱の中で立ち尽くすことになります。この麻痺状態は、トラウマの深刻さを物語るものであり、心身に深い傷跡を残します。

トラウマがもたらす混乱と不適応行動のメカニズム


トラウマを抱える人々は、日常生活の中で自分でも気づかないうちに、不快な感覚に支配され、次第に心身のバランスを失っていきます。たとえば、自分の手足や身体に意識を向けるだけで、過去の嫌な出来事が突然蘇り、心拍が急激に上昇し、息苦しさや過覚醒状態に陥ることがあります。こうした状態では、脳と身体が「不快」や「危険」を感じ取り、無意識のうちに闘争・逃走反応が発動されるのです。

 

トラウマを抱える人は、心の中では「大丈夫だ」と思っていても、身体の方が勝手に「危険だ」「嫌だ」「来ないで」と反応し、自分を守ろうとするのです。しかし、この身体の反応に逆らい、抑え込もうとすると、身体が麻痺し、次第にガチガチに凍りついてしまいます。この凍りつき反応は、神経に痛みをもたらし、血の気が引き、息が詰まるような恐怖感を引き起こします。そして、この恐怖感が凍りつきをさらに強化し、慢性化させる悪循環に陥るのです。

 

トラウマを抱える人が不適応な行動に走る背景には、この不快感が存在します。トラウマによる身体反応を無視したり、抗ったりすると、不快な感覚が増大し、視野が狭まり、心身ともに落ち着きを失います。居ても立っても居られないような不安定な状態に陥り、その結果、質の低い不適応行動が現れます。

 

こうした不適応行動を取っているとき、過覚醒から凍りつくまでの間で感じる不快感が、行動を支配しています。この状態では、理性的な判断が難しく、自分に対して言葉をかけて落ち着かせようとしても効果がなく、他のことに注意を向けようとしてもうまくいきません。そのため、不適応行動はさらに増長され、トラウマの影響を深める結果となります。

トラウマがもたらす慢性的なストレスとその代償


トラウマの衝撃は、私たちの神経を過敏にし、身体に過剰な力が入るようになります。日々の生活でストレスに立ち向かい、常に張りつめた状態で過ごすうちに、さまざまな身体症状が現れることがあります。例えば、胃や腸、皮膚などに炎症が生じたり、気管支が細くなって呼吸がしづらくなったり、喉が詰まったような感覚や扁桃腺、リンパの腫れ、さらには神経を圧迫する痛みが生じることがあります。

 

トラウマを抱える人の脳は、危険を瞬時に判断しようとするため、情報処理能力が過剰に働きます。通常の人よりもストレスホルモンが減少する速度が遅いため、いつまでも脅威や不安、イライラ、怒り、不快感が体に染みついた状態が続きます。この状態が長く続くと、身体は常に警戒態勢にあり、緊張が解けることなく、心身に大きな負担をかけることになります。

 

凍りつくようなトラウマを抱えた人は、人からの悪意や攻撃を恐れるようになり、臆病な性格が形成されます。身体は固まりやすくなり、ちょっとしたことで不安や動揺を感じ、身体の痛みやうつ、被害妄想、解離症状、さらには身体症状に苦しむことが多くなります。こうした影響は、トラウマによって神経が過敏化し、身体が常に警戒態勢を保っていることに起因します。

 

長年にわたって積み重ねられたストレスや緊張は、身体を慢性的に凍りつかせ、過去のトラウマの世界に引き戻してしまいます。これにより、自分自身の感覚や感情が分からなくなり、慢性疲労や慢性疼痛、不眠が続くと、全身が衰弱し、生きる屍のような状態に陥ることがあります。慢性的なストレスが身体に与える影響は計り知れず、その影響は日常生活にも大きく響きます。

恥が引き起こすトラウマ反応とその心理的影響


トラウマは恐怖だけでなく、恥の感情からも引き起こされることがあります。特に、幼少期から様々なトラウマを経験し、自律神経系の調整不全を抱えている人は、恥の感情に対して非常に脆弱です。大勢の人の前で発表する場面などでは、緊張が極限に達し、フリーズしたり赤面、手の震えや声が出ないといった自己コントロールの喪失が起こりやすくなります。

 

恥をかかされる場面では、相手との力関係で太刀打ちできないことが多く、これがトラウマ化します。赤面したり、震えたり、あるいは怒鳴ってしまうことで、自分が自分をコントロールできないことが明らかになり、社会的に不利な立場に立たされてしまうため、こうした反応を自分で抑えるしかなくなります。しかし、その場から逃げ出すことも社会的に不適切とされるため、逃げ場がない状況に追い込まれるのです。

 

恥をかかされた際、人は立ち尽くしながらも、動悸や焦燥感、胸の痛み、冷や汗、手足の震え、赤面、血の気が引くといった身体反応を経験します。同時に、思考がフリーズし、足や内臓が捻じれるような感覚に襲われることもあります。これらの反応が積み重なると、過覚醒や凍りつき、崩れ落ちるような感覚がトラウマとして定着し、さらに恥を恐れるようになります。

 

恥を感じることで、自己コントロールを失う恐怖が増幅し、二重、三重の恐怖サイクルが生まれます。このサイクルに陥ると、恥をかく場面を避けるようになり、失敗を恐れる完璧主義が強まります。人の顔色を伺い、自分がどう思われているかを気にするあまり、学校や組織といった集団場面を恐れ、敵視することもあります。

 

学校は教育理念の枠組みから外れると、人前で吊し上げられたり、公開処刑のような恐怖や恥を味わう場面が多々あります。こうした経験は、恥のトラウマを強化し、周囲の反応に過剰に注意を払うようになります。その結果、自分を良く見せることで安全を確保しようとする傾向が強まります。

 

高められた自己像と低められた自己像の間でスプリット(分裂)が起こり、自分は正しいが他者の意見は間違っている、または不快なものを避けるなどの極端な認識が形成されます。これにより、危険があるかどうかを細かく見極めようとし、疑い深く心配性で神経質な性格傾向が生じます。こうした傾向が強まると、自己イメージの歪みや他者に対する過度な期待が生まれ、最終的にはパーソナリティ障害へと発展することがあります。

トラウマがもたらす自律神経の混乱と心身への影響


人は大きなトラウマを負うと、恐怖によって筋肉が硬直し、心拍が不安定になり、自律神経系が乱れることで、さまざまな身体的・心理的な不調が生じます。外傷体験の際、身体は過度に緊張し、交感神経が過剰に興奮して「アクセル」が踏まれた状態になります。しかし、恐怖が非常に強い場合には、原始的な背側迷走神経が「ブレーキ」として働き、凍りつきや激しい攻撃性、体調不良といった反応が現れます。

 

トラウマを負った人は、交感神経と原始的な神経反応の間を行き来するようになります。これにより、人から傷つけられるのではないか、悪意を向けられているのではないかという思いが募ると、胸が締めつけられるような痛みを感じます。トラウマによって、わずかな刺激でも筋肉が硬直し、心臓や脳に影響を及ぼし、様々な症状が現れるのです。

 

このような身体症状は、原因が自分の神経系にあるとは気づかずに、外の世界に原因を求めてしまうことが多いです。その結果、トラウマによる外傷体験だけでなく、原因不明の身体症状を引き起こす外の気配にも怯えるようになります。この悪循環が続くことで、身体症状や外界への恐怖が増幅され、トラウマによる原始的な神経反応にますます縛られてしまいます。

 

年齢を重ねるごとに、この傾向はさらに強まり、身体と心が切り離されてしまいます。心の成長がアンバランスになり、外の世界を生き生きと感じることが難しくなるとともに、解離傾向が高まります。さらに、慢性的な疼痛や疲労感が増し、社会交流が困難になり、活動性が低下していくのです。

家庭・学校・医療現場でのトラウマ体験が与える影響


家庭や学校、医療現場など、私たちが日常生活を送るあらゆる場所で、トラウマが生まれる可能性があります。特に、家庭環境において、親から子どもへの虐待がトラウマを引き起こす大きな要因となります。

 

たとえば、家庭環境において、養育者から性的虐待を受けた子どもは、深い恥辱や凍りつき、崩壊感、身体の一部がバラバラになったような感覚を伴うトラウマを負いやすいです。身体的虐待を受けた子どもでは、身体的な闘争反応や凍りつき、そして時には全身が崩れ落ちるようなトラウマ反応が見られることがあります。

 

心理的虐待やネグレクト(育児放棄)を受けた子どもは、感情や自己調整機能に障害を抱えやすく、凍りつきや崩れ落ちるようなトラウマに苦しむことが多くなります。また、両親の激しい喧嘩を目撃した子どもは、過剰な警戒心や闘争反応、凍りつきといったトラウマを負う可能性が高まります。さらに、母子関係がこじれたり、兄弟間での葛藤が生じたりすると、子どもは親の顔色を伺いながら成長することになり、その結果、疲れ果ててうつ状態になったり、凍りつくトラウマを経験したりすることがあります。

 

学校や施設での生活もまた、トラウマを引き起こす場面となることがあります。例えば、大人が「問題児」として扱う子どもに対して、「ホールディング」と称して身体を押さえつけるような行為は、子どもに闘争反応や凍りつき、崩れ落ちるようなトラウマを引き起こすことがあります。また、学校でいじめに遭ったり、教師から不条理な扱いを受けたりすると、子どもは深い恥を感じ、さらに闘争反応や凍りつき、崩れ落ちるようなトラウマを負う可能性が高くなります。

 

医療現場においても、患者がトラウマを負うリスクがあります。医療関係者による身体拘束は、患者に凍りつきや崩れ落ちるようなトラウマを引き起こすことがあります。また、手術のミスや医療事故に巻き込まれた場合、患者は身体的にも精神的にも崩壊感を伴う深いトラウマを負うことが考えられます。

 

自然災害や交通事故といった予測不能な災難もまた、凍りつきや崩れ落ちるようなトラウマを引き起こします。これらの経験は、外部からの激しい衝撃によって、心身に深い傷を残し、長期間にわたる回復のプロセスを必要とすることが多いです。

 

トラウマは、ただ一度の出来事から生じることもあれば、長期間にわたって積み重なっていくこともあります。特に仮死状態で生まれてきた子どもなどは、生まれながらにして凍りつくようなトラウマを抱えていることがあり、その影響が一生にわたって続くことがあります。これらのさまざまなトラウマ体験は、心身に深い影響を及ぼし、生活の質を大きく損なうことがあります。

トラウマ反応の闘争・逃走・凍りつきのメカニズム


トラウマのストレスを受けた人が経験する「3F」とは、闘争(Fight)逃走(Flight)、**凍りつき(Freeze)**の3つの反応を指します。これらは、身体と情動を司る大脳辺縁系で発生するもので、危機的状況に対処するために人間が本能的に発揮する防衛反応です。

 

この反応は、人類の祖先が原始時代に経験した生存のための戦いから受け継がれたもので、危険な場面に遭遇した際、脳の中にインプットされた生存メカニズムが働くことで生じます。凶暴な動物に襲われたり、生命の危機に直面したとき、脳は瞬時にこの「3F」反応を引き起こし、私たちを守ろうとします。

 

しかし、トラウマ反応は「3F」だけにとどまりません。凍りつきの状態からさらに追い詰められると、手足に力が入らなくなり、全身が捻じれるように感じたり、バラバラになる感覚に襲われたりします。また、トラウマのブラックホールに吸い込まれるような死の恐怖や、制御不能な激しい攻撃性が表れることもあります。

 

このような深刻なトラウマを負うと、私たちの脳と身体は原始的な神経の働きが優位になり、いわゆる「トラウマティックな脳」の状態になります。この状態では、脳は常に過剰な警戒態勢を維持し、あらゆる危険の兆候を探知しようとします。

 

具体的には、脳は視覚や聴覚をフル稼働させ、細かいところまで危険がないかを調べようとします。例えば、目の前に危険があると感じた場合、脳はその対象を凝視し続け、身体はすぐに戦うか逃げるかの準備を始め、緊張感が一気に高まります。このような反応は、日常生活においてもしばしば見られ、特にトラウマを抱える人にとっては、日常的な状況でも過剰に反応してしまうことがあります。

 

この「3F」反応や、それに伴う深刻な身体的・精神的反応は、私たちの生存本能が極限まで高まった結果として現れます。しかし、これが長期的に続くと、心身に深刻な負担を与え、生活の質を著しく低下させることがあります。

トラウマがもたらす恐怖と不動化の悪循環を理解する


トラウマとは、予測不能な瞬間に襲われる圧倒的な恐怖と無力感を伴う反応です。人が戦うことも逃げることもできない状況で、恐怖によって身体が凍りつきます。この瞬間、合理的な脳は機能を停止し、激しい怒りや恐怖が全身を支配します。その結果、筋肉が崩壊し、心臓が弱まり、呼吸ができなくなり、頭が真っ白になる。そして、まるで**黒い渦(ブラックホール)**に吸い込まれるような感覚を伴い、心身は機能停止や崩れ落ちる体験へと追い込まれるのです。

 

トラウマを抱える人が何か危険を感じると、焦燥感が一気に高まり、ソワソワとした落ち着かなさが全身に広がります。心臓がバクバクと早鐘を打ち、呼吸が速くなる。もしその不安が現実となれば、胸は締めつけられるように苦しくなり、息がしづらくなります。恐怖が増すと、身体が震え、興奮がピークに達し、ついにはパニックへと突入します。

 

パニックに陥ると、頭の中は真っ白になり、自己の声すら聞こえなくなることがあります。時には、まるで自分を後ろから見ているかのような感覚に陥ることもあります。また、全身が動かなくなり、まるで黒い渦に吸い込まれるような、無に包まれた感覚に囚われることもあるでしょう。

 

ピーター・ラヴィーンは、トラウマの恐怖と不動のサイクルについて次のように述べています。逃走の失敗は恐怖と無力感を引き起こし、その結果、**身体は不動化(凍りつき)**します。この不動化がさらに覚醒をもたらし、恐怖と不動が互いに燃料を供給し合う悪循環が生じます。このサイクルは私たちを飲み込み、**トラウマの「ブラックホール」**に閉じ込めるメカニズムを形成します。

 

この悪循環は、トラウマを抱える人々にとって非常に危険です。彼らはこのブラックホールのような体験の中で、繰り返し恐怖と無力感に苛まれ、ますます深いトラウマに閉じ込められていくのです。トラウマがもたらす反応は、単なる恐怖以上のものです。それは身体と心の両方を支配し、凍りつきやパニック、機能停止といった極端な状態に陥らせます。

自己愛的加害者による支配—被害者が陥る心理的トラウマ


自己愛的な加害者は、被害者に対して無慈悲に力を行使し、意志の自由を奪い、服従を強要します。被害者は加害者の理不尽な命令に従わざるを得ず、次第に自分の意志を押し殺すようになります。このような状況に追い込まれると、被害者は自分の選択肢がなくなったと感じ、焦燥感が高まり、思考力や判断力が低下してしまいます。過酷な状況が長引くと、精神的に疲弊し、気づかないうちに感情や感覚が鈍化し、失感情症や離人症、うつ病などの深刻な状態に陥ることがあります。さらに、身体的には不眠やめまい、頭痛、腹痛、吐き気などの症状が現れ、被害者は苦しみ続けます。

 

過酷な環境に置かれた被害者は、自分を守るために境界を張ろうとしますが、加害者に執拗に追い詰められると、次第にその境界を維持することが難しくなります。加害者がその境界を破ってくると、被害者は自分自身に過酷な要求を課し、自然な自分の状態を否定するようになります。この結果、被害者は自己否定の悪循環に陥り、自分を貶める行動や服従を繰り返し、加害者の感情が収まるまで耐えることを余儀なくされます。この状況が長引くと、被害者は加害者のテリトリー内に閉じ込められ、凍りつくような痛みに苛まれながら、抜け出すことがますます困難になります。

 

自己愛的加害者の支配下で被害者が受ける影響は、心理的にも身体的にも深刻です。加害者による支配が続くと、被害者は自己肯定感を失い、自分を守る手段もなくなります。これにより、被害者は自分を追い詰め、自然な自分を否定するという悪循環に陥ります。このような状態に長期間さらされることで、被害者は心理的トラウマを抱え、精神的にも身体的にも崩壊してしまう危険性が高まります

  

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論考 井上陽平