心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの対応は
トラウマの対処法

 

トラウマ記憶を思い出すことはつらいことなので、目を背けたくなるのは、人間の正常な心理です。しかし、トラウマから目を背け続けると、こころと身体に傷として残り、いつまでも生活に支障をきたす場合があります。トラウマの対処法は、自分のトラウマ体験をたくさんの人に話すことが良いと思われます。親や夫婦、友人に対して、たくさん話して、その出来事に対して距離を置いて見れるようにすることで、締めつけられるような胸の苦しみや身体の怠さが減っていきます。そして、身体を伸ばして、深呼吸して、安心感のなかで生活することを心掛けて、リラックスする環境に身を置いていると勝手にトラウマは小さくなっていきます。

 

ただ、子どもの頃から、複合的なトラウマを負っている場合は、身体にネガティブな感覚や感情、記憶が植え付けられており、否定的なものが蘇ると、身体は硬直し、全身が固まり凍りつきます。過去の外傷体験の影響により、神経の働きが繊細になり、些細なことでも過敏に反応するようになります。身体が異常な状態になっていくと、免疫系、神経系・内分泌系の調整が上手く働かず、脳にも悪影響が出て、日常生活や人間関係がスムーズにいきません。生活全般が困難になると、様々な症状が現れていくので、人に話すだけでは回復しない場合が多くなります。また、トラウマを負った人は、人にトラウマ体験を語ることの抵抗や困難の壁にぶつかるようになります。親や友人は、最初のうちは話を聴いてくれますが、通常の人は、トラウマを負った人に同調することが次第に難しくなります。最悪の場合は、それは現実に起こったことなの?とか、みんなそれぐらいは辛い思いをしているとか、あなたの方も悪かったじゃないとか言い出しかねません。そして、トラウマを負った人は、自分のことを話すときも、相手の顔色を見て話すようになり、本当に言いたいことを言えなくなります。また、自分のことを分かってくれないとイライラしたり、自分の気持ちを押し殺したり、自分を理解してもらうことを諦めます。被害にあった苦しみや今の症状を誰にも話せず、悟られないように必死になり、周りの人々から距離を置き始めます。周りの人々から、距離を置けば置くほど、孤立していき、疎外感を感じるようになり、世間一般の人々がする会話を全く楽しめなくなります。

 

ですから、最初は、安全・安心な関係を作るために、自助グループや支援施設、SNS等で同じような背景を持った人同士で会話していくのが良いかもしれません。また、トラウマ体験を誰にも相談できず、話せる相手が見つからない場合は、早い段階で信頼できるトラウマやこころの専門家に相談してみるのが良いでしょう。子どもの頃からトラウマを負っている人の場合は、トラウマを専門にしている専門医や治療施設、カウンセリングルームに行くのが一番良いと思われます。トラウマを専門にしてカウンセラーであれば、しっかりと話を聴きますし、どんな話の内容でも態度を変えることなく接して、できる限り、安心できるように、自分が思ったことを話していけるようにと心掛けていると思われます。しかし、その一方で、トラウマやいじめ、犯罪被害者は、医療や学校、警察、ワンストップでの対応が悪く、あるいは支援する側に限界があるため、二次被害にあって、救われないケースが数多くあります。そして、実際の被害よりも、支援者から受けた二次被害の痛みのほうが大きくなりすぎて、社会から孤立していくことがあります。

 

トラウマへの心理療法は

 

一般的な心理療法では、自己理解を通して自分の長所や短所を知ることにより社会を上手に生きていけれるように支援しています。しかし、トラウマにより心の余裕を失った状態では自己理解することが難しいものです。さらに、トラウマを負った人の症状や問題行動を繰り返すのは、心理的・精神的問題というよりも、脳内で実際に起こった変化や身体の中のトラウマ、情動を司る神経系に起因することの影響の方が大きいと言われています。薬物療法による治療は、脳や身体の神経に働きかけて、睡眠を取れるようにしたり、不安や恐怖を低減させる一定の効果があるので、日常生活の困難やストレスを引き下げることに役立ちます。また、胃や腸などの内臓に働きかけるお薬を飲むことで、格段に体調が良くなることがあります。ただし、お薬によっては、一度飲むと飲み続けなければならず、外の世界の人々と繋がって、喜びを分かち合うという社会的交流を促進したり、自分の身体とお友達なるような感覚を育んだりしないので本質的な治療方法とは言い難い面があるのも事実です。

 

トラウマの治療法としては、支持的な心理療法が一般的です。また、否定的な認知を辞めて、前向きに生きれるようになれば、体質が改善されていくので、知覚や認知の歪みを修正していく認知行動療法やメンタライゼーション等の技法が有効と思われます。さらに、一過性・単発性のPTSDには暴露療法やEMDRが有効です。ただし、特定不能の解離性障害や解離性同一性障害、複雑性PTSDなど子どもの頃から複合的なトラウマを負っている方には、暴露療法やEMDRは体調不良や情緒不安定を引き起こし、有害(自殺、自傷、破壊、闘争、逃走、麻痺、嗜癖などの問題行動)になってしまうことがあります。暴露療法を行うことで、複雑性PTSDの方は、過覚醒からより重い解離状態に陥り、思考や感覚、感情、意欲が低下することがあります。また、特定不能の解離性障害、解離性同一性障害の方は、一時的に、フラッシュバック時の記憶は蘇り感覚を取り戻せますが、日常場面では、自我意識よりも、恐怖による無意識(解離の原始的システム)の方の働きが強いため、記憶や感覚は戻ってはまた消えてを繰り返します。やがて元の状態に戻り、心身のバランスが崩れるだけに終わってしまって、症状が悪化することがあります。暴露療法やEMDRは、日常生活の困難にさせるストレッサーが無くなり、頭と体が繋がって身体・時間感覚が本来の姿に戻り、未来を肯定的に見られるようになって、この現実世界の人々と十分に関われるようになってから行うべき治療法です。また、トラウマが根深く複雑に絡み合って、到底耐えられないような痛みや恐怖のため、動けなくなる場合は、身体の中に凍りつかせたままにしておいて、生活していくことも選択肢の一つになります。

 

トラウマへのおすすめのアプローチは、ソマティックエクスペリエンスなどの身体内部の感覚を見ていくアプローチが良いでしょう。理由としては、重度のトラウマ持ちほど、身体の中にトラウマを閉じ込めているために、心と身体が離れていき、様々な原因不明の症状が現れます。このようなトラウマを扱うボディセラピーは、トラウマを負った人の身体の内部から変化を起こして、心と身体を繋ぎます。従来の対話を通した心理療法では、全てが上滑りで、心の中までは深く入ってこなくて、身体の反応がほとんど無かったりします。しかし、身体に働きかけるという新しい視点を取り入れることで、身体も心もものすごく反応するようになります。治療上の注意点としては、性暴力被害者の場合は、自分の身体に注意を向けると、その時の光景や、不快な感覚、感情がフラッシュバックしてきます。治療中に、このフラッシュバックを上手く対処していく必要がありますが、身体に注意を向けることで、体調が悪くなることも多いです。治療していくうえで、過去のトラウマと向き合う覚悟が必要になります。

 

ソマティックエクスペリエンスなどのボディセラピーでは、最良のイメージと最悪のイメージの間を行き来しながら、身体の生理的反応の変化を見ていって、その身体と仲良くなることを目指します。治療の重要な部分では、絶望状態の姿勢を取り、寒く凍りついた世界の中に入っていって、気を失いそうになりながらも、その中で耐え忍ぶことになります。最悪な状態に留まると、身体の内側から攻撃性などの覚醒のエネルギーで溢れ返り、燃えて熱くなり、意識が飛ぶ手前で耐えていきます。身体が震え始めて、トラウマで凍りついた部分が解き放たれると、身体が温かく、軽くなり、身体の内側から安心感を感じられるようになります。目がスッキリ、クッキリになって、この世界の見え方も変わり、前を向いて人生を歩めるようになります。私の経験からも、トラウマ治療というのは、悲しみや怒りの感情を表現するカタルシスの部分と、脳(意識)を使って、体の状態や痛み、不快感をみていく両面が必要だと考えています。脳と体に備わっている人間本来の自然な回復力を利用して、全身を丹念に見ていくと、徐々に本来の自分の姿に戻ることができます。治療は時間と集中力を要するので、クライエントさんには、忍耐力とモチベーション、トラウマへの理解があると治療はスムーズに進むでしょう。そして、日常生活のなかでも、自分の身体の凍りつきや不動状態、そこから覚醒反応の一連の流れを怖がらなくなれば、トラウマの恐怖から解放されるでしょう。さらに、瞑想やヨガ、マインドフルネスなどで、自分自身をケアする習慣を身につければ、身体の中に滞っていたエネルギーが循環しはじめて、より良い人生が送れるようになります。

 

トラウマへの当カウンセリングルームの取り組み

 

当カウンセリングルームでは、まず、セラピストがあなたの話を丁寧に聞き取り、今まで誰とも共有できずにいたこころの痛みや、ないがしろにされてきた自分の人生から自由になっていけるように支援します。そして、花や木が水や光を得て育っていくように、トラウマを負った人が生き生きとこの世界との繋がりを感じ、現在をしっかりと思う存分生きていると感じ、自分の人生を歩んでいけまように支援していきます。トラウマというのは、心理学的な問題だけでは説明できない部分が数多くあるので、こころとからだの両面に直接作用するようなアプローチが求められています。そのため、カウンセリングでは、心理的意味を扱って対話を行う言葉のみの交流だけではなく、より効果を高めるために、今ここでの実感を伴わせる必要があります。そうした理由により、過剰警戒からの防衛的態度や、恐怖体験による硬直や凍りつき、慢性トラウマの麻痺症状、情動に溢れた過覚醒に焦点を当てたマインドフルネス瞑想や呼吸法、ソマティックエクスペリエンス(身体志向アプローチ)、自律訓練法、漸進的筋弛緩法、イメージ療法、ゲシュタルト療法を取り入れてます。まずは、目をつぶって、リラックスしてもらい、人間の最も洗練されたシステムを働きかけることで、頭がスッキリして、いろんなことが思い浮かんでくるようになります。その思い浮かんだことを、あんなことやこんなこともあったとセラピストに話していき、安心できるイメージを心の中でしっかり持ち、安全な感覚を身体の中で見つけます。次に、安全な身体感覚と凍りついたトラウマに注意を向けていき、その間を振り子のように行き来します。耐えられない痛みにゆっくり近づいていくと、身体が収縮して、凍りついた情動に触れることが可能になります。凍りついたときの情景を思い起こし、そのときの姿勢を取りながら、十分に実感を伴わせると、身体は動けなくなります。動けない状態の身体から、最適な方法でその状況を切り抜けると、全身が拡張し、温かくリラックスした状態に体質が変わっていきます。トラウマを解放していくと、身体の中の凄まじい緊張がほどけて、姿勢が良くなり、身体的な症状も改善されます。全身が拡がり、自然治癒力が発揮されるようになると、過覚醒、過緊張、疲労感が抜けていって、薬が無くても眠れるようになったり、しんどいことがあっても、長引かなくなります。

 

また、カウンセリングでは、安心できる環境作りや良い体験をしてもらうことに比重を置き、望ましいイメージを作ります。今までの否定的な人生の物語を作っている人に対しては、肯定的な物語に書き換えて、心身の改善を図ります。さらに、セラピストとの対話の空間で浮かび上がる感情やこころの動きを見つめていきます。そして、再び被害を受けるわけではないと理解できるようにしたり、頭の中を整理したり、過去と現在の区別ができるようにしていきます。あとは、希望があれば課外活動を併用や、身体に閉じ込められたトラウマに焦点を当てて、未完了の行動に取り組んだり、一つ一つの実際の経験の中で実感を持つことができるような支援が必要であると考えています。個人カウンセリングと課外活動を並行することで自分の内から沸き起こる力が再び活性化して、症状が軽減し、生活が自由になります。そして、症状により自分を覆っていた防衛が取り去られ、周囲にやわらかく、自分に優しくといった変化に気づくことになります。

 

最終的には、トラウマの支配から自由になり、本来の自分(身体や時間感覚、情動、思考)を取り戻せるように援助します。すなわち外の世界の人々の中で、再び能動的に喜びや快感が追求できるような自己の感覚の確立が目標になります。カウンセリングの場というのは、非常に人工的なので、本当の意味でのトラウマ治療とは言い難い面があります。荒技にはなりますが、実際の場面で喜びや快感、痛み、硬直、凍りつき、防衛しようとする態度を実感しながら、支援者の適切な状況把握のもと、外の世界でマインドフルな状態を保つことこそが心的外傷の回復には最も有効です。この方法では、外の世界でとにかく幸せな自分でいたり、気持ちがワクワクするようなことに取り組んだり、実際に楽しいことがあったりすると、自分の魂は身体の中に再び戻るので、自分が自分であるという感覚を作れます。ただし、注意点としては、快感を感じることに取り憑かれたり、支援者に対する過度な依存にならないようにする配慮が必要です。

 

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