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複雑性PTSDの症状チェック:過覚醒と解離の狭間で揺れる心


心的外傷体験とは、脅威が差し迫る場面で生じる、生命や安全に対する危機的な体験を指します。例えば、生きるか死ぬか、戦うか逃げるか、愛する人を失うかどうかといった瞬間に、私たちは重大な選択を迫られます。また、予期せぬ出来事に巻き込まれ、一瞬でどう対処すべきかを迷い、焦りを感じつつも、恐怖に圧倒されて身動きが取れなくなるような場面でも心的外傷は生じるのです。

 

脅威を感じたとき、私たちの全神経は外部に向けられ、その状況を的確に把握しようとします。そして、安全な場所へ逃げるか、戦って危機を乗り越えるかを決断します。このプロセスが成功し、安全な場所に避難できれば、トラウマにはなりません。しかし、もし恐怖に圧倒され、身体がすくんでしまい、闘争・逃走反応がうまく機能しなかった場合、その経験がトラウマとして心と身体に深く刻まれてしまうのです。

 

このような失敗した反応によって、心と身体は凍りつき、視界が閉ざされ、身体の内部には莫大なエネルギーが滞留します。結果として、心身は衝撃の影響を受け、身体はガクガクと震え、力が入らなくなり、ついには倒れ込んで動けなくなってしまうこともあります。

 

衝撃的な体験に曝された人は、さまざまな身体反応を示します。身体がガチガチに固まり、呼吸が止まり、その場から一歩も動けなくなることもあれば、交感神経が支配的になり、闘争・逃走反応に完全に支配される場合もあります。また、極度の脱力状態に陥り、その場に崩れ落ちてしまうか、あるいは解離によって意識が現実から飛び去ることもあります。

 

心的外傷体験は、このように非常に強烈な身体的・心理的反応を引き起こし、それが長期的なトラウマとして影響を及ぼすことがあります。

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トラウマがもたらす身体と心の変化


人は一度トラウマを経験してしまうと、その衝撃のあまり、脳や身体が以前とは異なる状態に変わってしまいます。特に、恐怖によって動けなくなるようなトラウマ体験をすると、その出来事が心と体に深く刻まれ、再び同じような経験をすることを恐れて、脅威に備えた生き方を強いられるようになります。

 

トラウマの影響で、身体はまるで鎧をまとったかのように固くなり、呼吸は浅くなり、手足は冷え切ってしまいます。このような状態で生活を続けると、絶えず変化する環境に対して身体はギュッと縮こまり、ロックされたような状態になります。本来ならば危険ではない出来事に対しても、身体は過剰に反応し、闘争・逃走や凍りつきといった反応を示します。その結果、他者に対する許容範囲が狭まり、対人関係に問題が生じやすくなります。

 

さらに、トラウマの影響は心理面にも及び、不安やパニック、うつ、解離といった症状が現れます。身体が過剰に反応することで、理性よりも情動の働きが優勢になり、合理的な思考ができなくなります。そのため、情緒が不安定になりやすく、今の状況を適切に判断できず、問題を解決する能力が低下してしまいます。このような状態が続くと、自分の人生に意味を見出すことが難しくなり、無力感や絶望感が強まってしまうのです。

恐怖と向き合う日常


家や学校、職場などの日常生活の中で、自分を脅かしてくる人物がいると、心と体はサバイバルモードに入り、闘争-逃走反応が過覚醒状態に達します。これにより、動悸や焦燥感、怯え、苛立ち、過敏さ、怒り、そして強い恐怖を感じ、その場にじっとしていられないような感覚に襲われます。自分を脅かしてくる存在がいると、その存在自体が耐えがたい苦痛となり、次に何が起こるか分からないという絶え間ない緊張感に苛まれ、目や耳を澄ませ、神経が張りつめてしまいます。

 

もし、このような人物に対して上手く対処できなければ、身体は凍りつき、息が詰まるような苦しさや胸の奥が締め付けられるような痛みを感じることがあります。その結果、気が狂いそうな恐ろしい感覚に苛まれ、不快感や苛立ちが強まり、パニックや過呼吸、フラッシュバックに襲われて、居ても立ってもいられないイライラが募ります。

 

さらに、脅威が目の前にありながらも、闘争-逃走反応を抑えて我慢し続けると、恐怖や無力感が増大し、疲労感で動けなくなったり、強迫的な行動に走ったりすることがあります。この状態では、頭の中に嫌なことばかりが浮かび、心配事が次々と増えていき、トラウマの世界に閉じ込められてしまいます。

 

このような生活が長期間続くと、トラウマの影響から抜け出すのが困難になり、やがて複雑性PTSDに至る可能性があります。過酷な環境に長く留まり続けることで、過覚醒、凍りつき、感覚過敏、悪夢、驚愕反応、低覚醒、現実感喪失、離人、不動、二重の自己など、さまざまな症状が現れるようになります。

トラウマがもたらす自己統制力を失う危機


トラウマの衝撃を受けたとき、人は強烈な情動の嵐に巻き込まれます。この情動の嵐は、恐怖や怒りによって引き起こされ、心臓が激しく鼓動し、全身に血液を送り込むことで、体に力がみなぎり、過剰な覚醒状態に陥ります。しかし、同時に急速な麻痺反応が起こると、筋肉は脱力し、血液の循環が悪化し、意識レベルが低下してしまいます。その結果、身体が動かなくなったり、その場に崩れ落ちてしまうことさえあります。

 

トラウマがもたらす戦慄と衝撃は、交感神経と背側迷走神経の働きを狂わせ、心拍や呼吸、筋肉、内臓といった身体の生理現象に急激な変化を引き起こします。これにより、自分自身を統制する力が奪われ、気が狂いそうな恐怖や混乱を感じることがあります。人はこのような情動の状態から抜け出し、目の前の問題がさらに悪化しないように理性を働かせようとしますが、それが難しい場合には解離症状や離人症、失感情症、原因不明の身体症状、過緊張、過剰適応、嗜癖行動、回避行動、強迫行為、支配的な行動などに走ることがあります。

 

さらに、日常生活の中でトラウマが体内に滞留すると、緊張、不快感、痛み、疼き、痒み、動悸、呼吸困難、発汗、吐き気、覚醒、麻痺、不動化、脱力など、さまざまな生理的反応が現れることがあります。これらの反応により、自分の体がどのように機能しているのか分からなくなり、混乱に陥ります。また、統制が利かない情動—恐怖、怒り、悲しみ、寂しさ、恥辱、無力感、絶望など—に圧倒されることもあります。

 

外界からの刺激—例えば、人の表情や気配、態度、感情、話す内容、足音、物音、光、匂い、光景、振動など—に対しても過敏になり、警戒心が過剰に高まり、嫌悪する事柄が増えていきます。このような過剰警戒の状態では、脳や身体の神経が繊細に反応し、ストレスや緊張、恐怖が常に高まっている状態が続くため、心身のバランスが崩れやすくなります。その結果、苛立ちや集中力の低下、忘れっぽさ、注意散漫、焦燥感、睡眠障害などに陥ることがあります。

トラウマの恐怖が心身に与える深い傷


トラウマを抱える人は、過去の痛みを呼び覚ますような人や状況に直面すると、強い恐怖と予期不安に苛まれます。この恐怖は、再びトラウマが襲ってくるのではないかという思いから生じ、胸が締め付けられるような感覚に襲われます。実際にトラウマを再体験しそうになると、心臓が激しく鼓動し、呼吸は浅く速くなり、焦燥感に駆られ、体全体が過剰に反応し、逃げ出したいという強い衝動が湧き上がります。このような状況で適切な行動が取れないと、不快な感情や考えに囚われ、苦しみが増していきます。

 

人によっては、呼吸ができなくなり、フラッシュバックやパニック発作を引き起こすこともあります。トラウマを持つ人が恐怖や嫌悪を感じる刺激に曝されると、筋肉が収縮し、自律神経系のバランスが崩れ、複雑な症状が現れます。恐怖に関連した光景や感覚、情動、音、臭いなどが頭の中に蘇ると、身体は硬直し、呼吸困難や頭痛、胸の痛み、お腹の痛み、発汗、吐き気といった症状が出ることがあります。

 

さらに、トラウマを抱える人は、日常的に漠然とした不安を抱えており、何か取り返しのつかない恐怖を感じたり、どうしようもない人間関係について延々と悩んだり、ネガティブな思考にとらわれがちです。そのため、健康な人に比べて心身が傷つきやすく、恐怖や不快感、孤独に対する耐性が非常に低いのが特徴です。

 

トラウマを抱える人は、自分では大丈夫だと思っていても、脳や身体が毎日のように危険や脅威を感じ取っています。脳や身体が勝手に危険だと判断すると、闘争・逃走反応が自動的に作動し、過覚醒状態に陥ります。本人がよく分からない場面でも、身体の中に潜むトラウマが疼き出し、モヤモヤやソワソワ、イライラやムズムズといった不快感に襲われ、じっとしていられなくなります。

 

これらの不快な感覚に圧倒され、居ても立っても居られない状態に追い込まれると、無意識のうちに不適応な行動を取ってしまうことがあります。さらに、この不快感をうまく発散できないと、怒りが爆発したり、息苦しさや体の硬直、頭が真っ白になる感覚、自分が自分でなくなる感覚、さらには機能停止状態に陥ることもあります。

心と体に及ぶ深刻な長期的ダメージ


トラウマを抱える人は、ストレスの原因が消え去った後でも、ストレスホルモンの分泌が通常の人よりも長く続き、不快感が消えません。その結果、イライラを他人にぶつけたり、無気力で投げやりな行動をとったり、無表情で感情を抑え込んだりすることが増えます。このような状態が続くと、人間関係がうまくいかず、気分が落ち込み、身体的にも疲れやすくなります。

 

トラウマ的な出来事を経験すると、人はその影響で非常に敏感になります。実際には脅威がない場面でも、想像上の危険を感じたり、被害妄想が膨らんだりして、過剰に警戒するようになります。身体はまるで鎧をまとったかのように硬直し、興奮状態がなかなか収まらず、夜も十分に眠れなくなります。これが長期的に続くと、身体は過緊張や麻痺状態に陥り、自律神経や免疫システムが破壊され、健康に深刻な影響を及ぼします。

 

トラウマを負った人は、外界の気配や他人の言動に対して怯えるだけでなく、内なる葛藤や身体内部の混乱によって、内的な世界がまるで戦場のようになり、頭の中がネガティブな思考で支配されてしまいます。特に、生まれつき体が弱い人は、さまざまな身体症状に苦しむようになり、原因不明の身体の不調が続くこともあります。

 

さらに、内的な葛藤や混乱が外在化し、現実と身体内部の境界が曖昧になると、現実検討力が失われ、外の世界の刺激に対して過剰に警戒するようになります。これに加えて、身体内部からも攻撃されているように感じ、無数の目に見えない脅威と戦うようになります。このような状態が続くと、トラウマ性の精神病に陥るリスクが高まります。

 

トラウマのストレッサーが日常生活に存在し続けると、フラッシュバックや不眠、身体の不調が重なり、まともな生活を送ることが難しくなります。頭の中では思考が堂々巡りし、自責感や迫害不安に悩まされ、最悪の場合には自殺を企てることもあります。あらゆる刺激が不快な情動や生理的反応を引き起こすため、ストレスが過剰に積み重なり、通常のリラックスした状態に戻ることが難しくなります。

 

このような状態が続くと、脳や体は悲鳴を上げ、炎症が広がり、長期にわたるストレスや不安から、まるで植物のように動けなくなってしまうこともあります。生きることがただ耐え忍ぶだけのものとなり、いつまで生きられるかという絶望的な世界に閉じ込められてしまうのです。

見つめられること、背後に立たれることが引き起こす恐怖反応


トラウマを抱える人にとって、見つめられることや背後に立たれること、そして集団の中にいることは、極度の不安を引き起こします。例えば、過去に酷いトラウマを経験した人が、誰かに見つめられた瞬間、過去のトラウマと現在の状況が重なり、脳はその瞬間を危険な予兆と捉えます。これにより、恐怖や痛み、無力感が一気に押し寄せ、身体が瞬間的に麻痺し、まるで時間が止まったかのように動けなくなります。

 

こうした状況で身体が固まったまま動きづらくなることもありますが、一方で激しい怒りという反応が現れることもあります。激しい怒りが沸き起こっているとき、脳の前頭前皮質、すなわち冷静な判断や自制心を司る部分はほとんど機能していません。このため、恐怖と無力感に対して怒りという極端な反応が起こり、自分の感覚や情動を冷静に観察する能力が失われてしまいます。その結果、ただその瞬間の激しい情動や感覚そのものに飲み込まれてしまうのです。

 

また、トラウマを引き起こす人物に背後に立たれると、恐怖が一層強まり、喉や胸が収縮して息がしづらくなります。この状態では、極度の緊張と不快な情動に支配され、震えが止まらなくなったり、頭の働きが鈍くなったり、身体が固まって動けなくなることがあります。

 

トラウマを抱える人にとって、こうした状況は単なる不快感を超えて、深刻な恐怖と無力感をもたらします。この反応は、脳が命の危険を察知して引き起こすものであり、身体と心の両方に大きな影響を及ぼします。

トラウマが引き起こす恐怖と麻痺の拡大


トラウマを経験すると、その恐怖や麻痺の対象は、時間とともに拡大していきます。この現象は、学習や条件反射による「汎化」と呼ばれるもので、もともとは危険でなかったはずのものまで脳や身体が危険だと認識してしまうのです。この過程で、極度の緊張状態にあると、恐怖や怒り、戦慄、動悸、麻痺、凍りつき、パニック、疼痛といった身体内部の生理的反応が、外界の刺激によって引き起こされるものだと錯覚するようになります。その結果、不快な刺激が増え、この世界は非常に恐ろしく、敵意に満ちているように感じられるようになるのです。

 

さらに、トラウマの影響で、周囲の視線や気配に過敏になり、身の回りのすべてが危険や脅威として知覚されるようになります。これにより、交感神経が常に優位な状態となり、身体は原始的な防衛反応に支配されてしまいます。過剰警戒や長期的な不安、過覚醒、不眠、否定的な認知、フラッシュバック、イライラ、緊張、身体の不調といった症状が次々に現れ、生活が非常に困難になるのです。

 

自律神経システムが乱れ、身体内部が混乱すると、外からの刺激に対しても敏感に反応してしまい、不快な情動や生理的反応を引き起こす状況を避けるようになります。最悪の場合、これらの刺激から逃れようとするあまり、身動きが取れなくなることもあります。また、些細な刺激に対して敏感に反応することで、生活全般が困難になると、今度は刺激を麻痺させることで対処しようとし、何も感じられず、何も考えられない、自分のことがよく分からないといった解離状態に陥ることもあります。

未解決のトラウマが引き起こすフラッシュバック


未解決なトラウマを抱える人は、たとえ数年、さらには数十年が経過しても、突然フラッシュバックに襲われることがあります。このフラッシュバックとは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害に特徴的な症状の一つであり、過去の記憶が現在の状況に重なり合う形で非常に鮮明に蘇る現象です。これにより、まったく関係のない場面や人々に対して、過去のトラウマが反射的に映し出され、その光景や感情に巻き込まれてしまいます。

 

フラッシュバックが引き起こされると、恐怖や無力感、戦慄に圧倒され、身体は瞬時に麻痺してしまいます。汗をかき、頭痛が起こり、呼吸は浅く速くなり、動悸が激しくなるなど、身体全体が異常な反応を示し、最終的にはパニック状態に陥ることがよくあります。この恐怖体験を何度も繰り返すうちに、人はフラッシュバックやパニック、不合理な衝動を極度に恐れるようになります。そして、それらを抑制しようと必死になりますが、抑制に失敗すれば再びトラウマの被害を受ける可能性があり、さらには他者に危害を加えるリスクや、精神的に破綻する危険性も高まります。

 

こうしたリスクを回避するために、トリガーとなる状況や人々を避けるようになるのです。しかし、対人場面でフラッシュバックを経験すると、外の世界がまるで生き地獄のように感じられ、他人がゾンビのように見え、やがて自分自身も虚脱状態に陥りゾンビ化していく恐怖に苛まれます。さらに、本当の問題を直視することを避ければ避けるほど、内なる恐怖は増大し、悪循環に陥ります。その結果、最終的には家から出られなくなり、社会との接触を完全に断つことになる人も少なくありません。

トラウマがもたらす自己イメージの歪み


長年にわたってトラウマの犠牲者となってきた人々は、心身ともに深刻な影響を受け、自責感や自己嫌悪に苛まれやすくなります。こうした被害体験の積み重ねにより、自己像が曖昧になり、自己イメージが歪んでしまうことが少なくありません。

 

例えば、いじめの被害者に多く見られるのは、自分が適切に反抗できなかったことに対して激しい自己批判を抱くケースです。彼らは、自分が弱いと感じ、その弱さを憎みます。その結果、破壊的な自己の一面を理想化し、衝動性や攻撃性が増幅され、怒りとして外部に表出してしまうことがあります。しかし、そうした行動は他者を傷つけ、結果的に自己非難の悪循環に陥ることが多いのです。

 

被害感が強くなると、自分を否定的に捉えがちになり、他者との比較から自己評価が著しく低下します。自分をダメな人間だと思い込むことで、さらに自己評価が下がり、否定的な自己認識が強まります。このような自己評価の悪化は、無力感や劣等感を伴い、トラウマによる身体的な不調も相まって、漠然とした不安感が常に心に付きまといます。

 

トラウマの影響で、自己に対する見方が歪んでしまうことも多く、自己イメージがますます不健全なものとなります。現実の人間関係よりも、空想上の人物を同一化の対象にしてしまうことがあり、他者との間に非現実的な期待を抱くことも少なくありません。これにより、現実とのギャップがさらに自己否定感を強め、人間関係においても孤立を深めてしまう可能性があります。

トラウマがもたらす対人関係の困難と社会的技能の欠如


長年にわたりトラウマの影響を受けてきた人々は、他者との成熟した人間関係を築き、維持するための社会的技能に大きな困難を抱えています。その結果、彼らはしばしば不適切で無力な行動を取りやすくなります。漠然とした無力感が彼らの心に根付いており、他者への不信感や警戒心を抱くことが多く、これが対人関係に影響を与えます。彼らはしばしば受動的であったり、逆に支配的に行動したりすることがありますが、そのどちらも他者との健全な関係を築くのを難しくしています。

 

さらに、トラウマの影響で、外界に対して否定的で猜疑的な態度を持つことが多く、常に過剰な警戒心を抱いています。このため、外の世界を危険に満ちていると感じ、安心できる居場所を見つけるのが困難です。トラウマがあっても、彼らは他者との親密な関係を強く求めていますが、同時に人間関係を避けようとする傾向もあり、敵意を抱くことすらあります。これにより、他者についての考え方が現実よりも想像に基づいていることが多く、他者を十分に理解できていない場合がしばしば見受けられます。

 

また、彼らは対人関係を「攻撃するかされるか」といった二極的な関係として捉えがちです。このような思考パターンは、彼らが他者を敵と見なしやすくなり、その結果、関係が破壊されることが多くなります。こうした状況は、彼らが他者との真のつながりを築くのを一層難しくし、孤立感や孤独感を深める要因となっています。

トラウマと感情の混乱が引き起こす心理的機能の低下


トラウマを抱えた人は、身体内部や外的な世界の気配に対して極度に敏感であり、ちょっとした刺激や欲求に対しても不安や緊張、焦燥感を強く感じることがあります。この過敏さから、統制力を失いやすくなり、無力感や衝動的な思考、行動に走る可能性が高まります。その結果、誤った判断を下したり、感情に振り回されたりして、自分自身に不満を抱き、効果的な行動が取れなくなりがちです。これにより、ストレスへの対処力が著しく低下してしまいます。

 

刺激に対して過度に巻き込まれやすくなると、注意を集中することが難しくなり、外部からの情報や出来事を単純に受け取ることができなくなります。すべての刺激に対して、自分の欲求や感情が影響を及ぼし、物事を客観的に捉えることが困難になるのです。たとえ特定の対象に意識を向け、意図的に思考を働かせていても、無関係で不必要な考えが浮かび上がり、元々の思考に集中できなくなります。その結果、慎重で一貫した思考が難しくなり、思考がまとまりのない状態に陥りやすくなります。

 

さらに、過去のトラウマが原因で、知覚した対象から過去のイメージが呼び起こされ、それに伴って感情が思考に入り込みます。これにより、安定した態度で意思決定をすることが難しくなり、行動が一貫しにくくなります。感情の統制が効かなくなるため、心理機能が非常に複雑化し、日常生活においても支障をきたすことが多いです。

 

ストレスや欲求、葛藤により思考が混乱し、心理機能が低下することはしばしば見られます。特に、抑うつ状態が深刻な場合には、情緒がさらに混乱し、悲観的な認知が強まり、無気力や挫折感に苛まれることが少なくありません。こうした心理状態は、トラウマの影響を受けた心がどれほど繊細で脆弱であるかを示しており、その回復には時間と適切な支援が必要です。

PTSDが引き起こす過覚醒と解離の間を揺れ動く心


PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱える人々は、過覚醒と解離性の低覚醒という二つの極端な状態の間を揺れ動いて生活しています。過覚醒の状態では、人から傷つけられる恐怖が強く、周囲の人々やその気配に対して過敏に反応してしまいます。この過敏さは、危険な状況に直面したときの対処能力を高める一方で、視野を狭め、注意を向ける対象が限定されることで、過剰な情報処理が行われ、心身に大きな負担をかけることになります。

 

一方、低覚醒の状態では、刺激に対する反応が鈍くなり、複雑であいまいな状況を過度に単純化して捉え、現実を歪んで知覚することがあります。特にストレスが高まったり、強い衝撃を受けたりすると、夢と現実の境界が曖昧になり、自分の心の世界に閉じこもったり、まるで外界の出来事や自分自身を他人事のように眺めているような感覚に陥ることもあります。

 

このような反応は、日常生活での困難や葛藤を避けるための防衛機制として働いています。心的外傷を経験した人々は、内外からの強い圧力に直面するたびに、この防衛機制によって心の安定を保とうとしますが、その過程で現実との接点が失われがちです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平