身体に幽閉されたトラウマ

衝撃的な恐怖体験は、身体の芯から凍りつき、身動きがとれなくなります。頭の中は、多くの痛みと葛藤が瞬時に渦巻くことで、精神システム(認知機能)が破綻して、目の前が真っ白になったり、精神が身体から切り離されたり、虚脱状態に陥ったりします。

 

▶フェレンツィの臨床日記|心的ショックの心因について 

 

苦しみに襲われているらしい兆候が見えるだけで精神がそこになかったあいだに、彼女が何を経験していたのか探索にとりかかった。呼吸がどんどん浅くなり、思考はとりとめなく、考えることといえば混乱した恐ろしいことだけで、激しい頭痛が首筋に感じられたという。(同じ箇所の頭痛は、彼女をはじめトランス状態を経験した患者が以前からよく口にしていた。)その間は、かすかな音がしただけでも、ほんの軽く触れられただけでも耐えられないようだが、患者はなぜそうなのか説明することができない。そのときいったいどんなふうな気分の動きを感じるのかと尋ねられて彼女はこう答えた。「腹が立ってしかたがない。言いようがない怒り。死ね、死ね、死ね!というだけ。」

 

▶ピーター・ラヴィーンのナンシーの治療場面|感動的な発見

 

まず私はナンシーに、慢性的に緊張している首と肩の筋肉に意識を向け、緩めることを教えた。彼女は深くリラックスしているように見受けられた。呼吸が深くになるにつれ、心拍数が正常範囲へと減少していった。しかし、数分後、彼女は突然激しく興奮しだした。心臓は拍動を強め、一分間におおよさ130回まで心拍数が上昇した。彼女が不規則に喘ぐにつれ、呼吸は早く浅くなった。そして私がなす術もなくただ見つめていると、彼女は突然恐怖で凍りついたのだった。過去は死に顔のように青白くなった。からだは麻痺し、ほとんど呼吸ができないように見えた。心臓はほぼ停止しているかのように思われ、1分間に約50回まで心拍数は急激に低下した。パニックになりそうな自分と戦いながらも、私はまったくどうしていいかわからずただ茫然としていた。

 

「死んでしまいそうです。死なせないでください」。小さな張りつめた声で彼女は懇願した。「助けて、助けてください!どうかこのまま死なせないでください!」……

 

「走って、ナンシー!」私はよく考えもせず指示をしていた。「トラが追いかけてくる。あの岩に上って逃げるんだ」。自分自身の突然の激しい言葉に当惑しながらも、私は驚嘆しながら彼女を見つめていた。ナンシーの足が震え始め、さらに上下に動き始めた。まさにそれは自発的な、走る動作のように見えた。彼女の全身がブルブル震え始めたーー初めは痙攣のようだったがそのうちよりおだやかになった。震えがしだいに治まるにつれ(1時間余りかかった)、彼女はある種の幸福感を経験した。彼女いわく、「温かいピリピリとした波に包まれているようなものであった。」

 

参考文献

シャーンドル・フェレンツィ:『臨床日記』(訳 森茂起)みすず書房

ピーター・A・ラヴィーン『身体に閉じ込められたトラウマ』(池島良子、西村もゆ子、福井義一、牧野有可里 訳 )星和書店